かたいなか

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「わぁ。今日もネタ浮かばねぇまま午後になった」
今日の心模様、って、今日も今日とて相も変わらず、平坦よな。某所在住物書きはポテチをかじり、茶をすすって、長いため息を吐いた。
「それこそ先日のお題の、『無色の世界』な状態よ。色彩学の定義だと、色の偏りが無いことを『無色』って言うらしいからな」
ぼっちだからダチだのハイグーシャだのに気ぃ遣う必要も無ぇし。自分の機嫌だけ取ってりゃ良いし。
付け足す物書きは、ふと誰かの視線に気付き、
「……泣いてねぇし。別に寂しかねぇし」
ぼっち万歳。ただポツリとそれだけ、呟いた。

――――――

人の心とは、まぁまぁ、不思議なものでございます。
脳科学のだいぶ進んだ昨今、あの感情にはあの領域とこの物質、この感情にはこの領域とその物質。
愛情ホルモンなんて持て囃されているオキシトシンが、実は他方で、ある条件下の攻撃性を、高めるとか仲間外れを群れから排除云々とか。
人間の今日の心模様は、その日の脳の機嫌次第。その日までの脳の形成過程次第。
現実世界の心は所詮、生理現象なのでございます。
いずれ物理的に操作可能になる日も訪れましょう。

しかしながら人間は、本当に厨二ちっくなものが大好きな種族でございまして。
大昔から現代まで、心は特別で神秘性があり、何かチカラを有していて、物質にもホルモンにも縛られず、自由であるとお考えの方々が、ちらほら、ちらほら。
物語世界の心は所謂、超常現象なのでございます。
魂か魔法の類でございましょう。

「……で、その魂か魔法の類の、その日の模様をそっくりそのまま取り出して、鑑賞して、バックリ食べてしまう化け物が、私なのでございますが」

都内、某所に確かに在る筈なのに、何故かマップアプリに表示されず、道を聞いても辿り着ける者と着けない者の居る古風な喫茶店。
店の名前は「ネタ置き場」。いつ日の目を見るともしれぬ「一発ネタ」が「閃いちゃっただけの設定」が、仮置きの名目で詰め込まれ、いつ来るとも知れぬ出番をここで待っている。すなわち「アプリの短文投稿に採用されるまで出られない部屋」である。

「設定が設定なもので、やること成すことほぼエナジードレイン系のセンシティブ案件でございます。アレでございますね。体から鏡だの結晶だの種だの取り出す系。……無理でしょう。出番とか。
かといって、無理矢理『ここ』から出て行こうものなら、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』の、密入出の方でお縄になって退場なわけで」

どこかにこんな変態、ゲホゲホ!……妙な化け物でも、物語に採用してくれる物書き様はいらっしゃらないモンですかねぇ。
大きなため息ひとつ吐き、喫茶店のカウンターでココアをすする自称化け物。
「どこぞの物語のチョイ役でも良いので、出番、無いですかねぇ」
1カメ、2カメ。ちらりちらりと視線を送る「彼」の肩を、喫茶店の店員が、旧知の同士へのソレよろしく、優しく、同情的に叩いた。

4/24/2023, 8:54:53 AM