かたいなか

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4/20/2023, 7:23:15 AM

国内某所、住所不詳。とあるぼっちな一室で、事実と空想が半々なワンシーン。
架空の先輩後輩と、不思議な餅売る子狐と、元物書き乙女の日常を主に持ちネタとする物書きの、以下はいわゆる二度目の執筆裏話。

「『もしも未来を見れるならどうする』って?!」
太陽傾く16時。次の題目がスマホの通知画面に届くまで、残り3時間を切っていた。
「んなモン決まってるだろ、昨日の19時の段階で、ひとまず何か書いて投稿してるわな!」

昨日の題目は「もしも未来を見れるなら」。その前が「無色の世界」だったので、いわば、エモさ極振りと思しき題目2連発である。
前回「無色(むしき)」で仏教に逃げたし、今回は未来予知ってことでノストラさんだの何か「未来は全部決定しているのです……」みたいなスピリチュアリストでも登場させるかな。
それとも適当に子狐コンコンで何かブッ飛んだ童話モドキの方がまだマシかな。
と、いくつか話を書き始めたは良いものの、まったくもって投稿に足る最低ラインが整わない。

一度寝て、起きて、それからの方が良い物語を書ける場合がそこそこ多い。
この可能性に、賭けてしまったのがマズかった。
「寝坊しかけたせいでハナシ書く時間無かっただろ、昼もアレよコレよで消えただろ、気がついたらもうこの時間よ。昨日の夜の時点でこの未来が見れるなら、余裕こいて寝ねぇで、何か書いてたわな!」

カタカタカタ、カチカチカチ。
スマホに外付けしたキーボードに、指を滑らせ、叩き、言葉の出て来ぬもどかしさでトントンつつく。
「あー。ちきしょう。俺にももう少し、こういうエモエモ系のお題でもパパっと書けるくらいの文才が有りゃあなぁ!」
日本国内のどこか、住所不詳の一室。
今日も某所在住物書きは、頭を抱え、途方に暮れる。

4/18/2023, 10:54:38 PM

「『無色(むしき)』の世界、てのがあるらしい。」
先生白は無色に入りますか云々、色彩学で無色とは色の偏り云々、なお「色を無くした世界」の文章表現は一般的にアレがどうとかこうとか。
今回も相変わらず困惑して途方に暮れて面倒になって寝て、苦悩2日目の某所在住物書きである。
「定義が存在してるから、『無色(むしょく)』ってどんな世界だと思う〜?よりは、比較的書きやすい」
朝っぱらから、娯楽文学の欠けた面白みの無い本棚を見たり、「無色」のサジェスト検索から仏教講座が始まったり。なお無色界とは欲望や肉体・物質的束縛から抜け出した、心の活動のみが存在する世界らしい。

「……問題は『比較的』書きやすいだけ、って話な」
盆に寺の墓参りへ行くことすら億劫な欲望マシマシ衆生に、仏教的無色を説くのは困難を極めそうである。

――――――

むしき。むしょく。どちらにせよ、なかなかに手強いお題ですね。こんな童話的おはなしはどうでしょう。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
一家の末っ子、偉大な御狐目指して修行中の子狐は、お星様が大好きな食いしん坊。敷地に咲く花を星に見立てて、あれはお星様の木、それはお星様の花と、
愛でて、囲って、一緒にお昼寝していたのですが。
何がどこでどうなったか、無論そんなの今回のお題が「無色」だったからにほかならぬのですが、
ある日、子狐はひとつの白水仙が、敷地内の花畑で苦しい、苦しいとささやいているのを聞きました。

「おはなさんが、しゃべってる」
コンコン子狐、自分のことは棚に上げて、白水仙に近づきこんにちは。キラキラおめめで見つめました。
『私のこえが、聞こえるのですね』
白水仙からまた、ささやきが聞こえます。
『私はこの、完全に物質的な、花の根に囚われてしまった魂です。元々はここではない、物質から脱却した、精神のみの世界に居たのです。だから、苦しい』
神道の敷地で仏教的な身の上話。神仏融合とは言わぬのでしょうが、何にせよ子狐ちんぷんかんぷん。
要するにこの花はどこか具合が悪いのだと、そこだけ早合点したのです。

「おはなさん、くるしいの?」
『はい。精神のみの私には、物質の枷は重くて痛い』
「おもちあるよ。おもち食べれば、元気になるよ」
『お餅?いや、私は既に、色(しき)が無いので』
「待ってておはなさん。おもち、持ってきてあげる」
『ですから私は、……あっ、……待……』

結局誤解は解けることなく、父狐が仕事から帰ってきて、白水仙を球根ごと引っこ抜き鉢に植え替えて、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』と書かれた黒穴にとんと送り出すまで、
子狐はずっと、白水仙がお餅を食べないのを不思議がり、考え疲れて、隣でお昼寝していたのでした。
『子狐、あの、一緒に仏様のお勉強しませんか……』

細かいことは気にしません。このおはなしの著者には、このあたりが「無色の世界」テーマの物語の限界なのです。しゃーない、しゃーない。

4/18/2023, 12:09:24 AM

「とっくに大半の地域は、散ってきてるか葉桜よな」
最近「温暖化が続くと桜が咲かない地域が出てくる」との報道を観た気がする、某所在住物書きである。
「夕日、星、雨、春爛漫、エイプリルフール。このアプリ、空と季節に関するお題の遭遇率結構高いな」
あとはなんかエモそうな単語とか、かな。
物書きは己の過去投稿記事を辿り、そもそも花に草等の題目が「桜散る」しか見つけられぬことに気付き、

「このアプリ、動物ネタ不参加説……?」
桜でも季節でもない、無関係の方向に仮説を立てた。

――――――

職場の先輩は熱に弱い。
本人は、「雪国の田舎生まれだから」って説明してる。冬は最「高」気温が氷点下で、夏も35℃を超える日が少ない場所で育ったからって。
「あつい。しんでしまう」
今日も日中の緊急外回りから帰ってくるや否や、上着を脱いでワイシャツ1枚。職場でひとり浮かないように、理性で、半袖じゃなく長袖にしたみたい。
暑いと溶けるチョコ。熱通したら形変わっちゃう卵。ちょっと気温が上がるとすぐ散る桜。
スマホの天気予報では、明日の東京は26℃。
多分明日も先輩の桜は散るんだろう。
明日と明後日でだいぶ散って、週末には葉桜かな。
いつもピシッと、なんなら少し無機質感すらある先輩が、20℃未満の気温に負けて机に突っ伏す姿は、
体が冬の寒いのから春の温かいのに慣れる前の、今しか見られない風物詩だ。

「おまえは、なんで、へいきなんだ」
「先輩が弱いの。東京だよ。先輩も、十何年も居るんだから、そろそろ春の20℃くらい慣れなよ。いちいち毎年散ってたら体もたないよ」
「なにをどうしたら、わたしが、はなになる……」

そうだ。花。――途端先輩が顔を上げて、保冷のミニポーチをバッグから取り出した。
「朝のドタバタで渡しそびれた。口に合うと良いが」
中には、100均で見るような小さな本の形の箱。開けてみると、何か小さな四角いものが、キャンディーみたいに紙に包まれて、たくさん、入ってた。
「先週の金曜、お前にだいぶ面倒をかけただろう」
包み紙の中から出てきたのは小さなキューブチョコ。
「あの時の詫びと、礼だ」
紙にはうすーく、スミレの写真がプリントされてた。

「見たことない柄」
「だろうな。私もどこで買ったか多分忘れた」
「嘘ついてそう。何か隠してそう」
「私自身が照れくさいだけだ。お前のメンタルに害のある隠し事ではない」
「それは信じる」

正直なんだか嘘つきなんだか分からない先輩をジト見しつつ、チョコを口に放り込む。
香り付けがしてあるらしく、舌の上のチョコが少し溶けた瞬間、散る桜の淡さが鼻に抜けた。

「スミレじゃないんだ」
「包み紙の柄が多くてな。一種類しないと、香りがごっちゃごちゃになる。……気に入らなかったか?」
「全然。好き。ありがと」

4/16/2023, 1:51:05 PM

「まさかガチで、この置き石使う日が来るとはな」
4月12日、「言葉にできない」の題目で投稿した過去作品を確認しながら、某所在住物書きは珍しく、ニヤリ満足な笑顔を浮かべた。
「3〜4個、シリーズもののテンプレ作って、それで日々のお題を回すにあたってさ。いつか使えるようにって、『その話に関係無いネタ』を、置き石だの伏線だのを何個か仕込んでおいてんのよ」
使い所無いと思ってたが、まさかドンピシャが突っ込んでくるとはね。物書きは笑い、ひとつ息を吐き、
「……で、問題はその、せっかく置いた置き石をちゃんと上手に扱えるかよな」
結局最終的に、頭をかいて、うんうん唸り悩む。

――――――

最近最近の都内某所。不思議な不思議な稲荷神社と、「ここ」ではない「どこか」のおはなしです。
敷地内の一軒家で、化け狐の末裔が家族で暮らすその稲荷神社は、草が花が山菜が、いつかの過去を留めて芽吹く、昔ながらの森の中。
時折妙な連中が芽吹いたり、頭を出したり、■■■したりしていますが、そういうのは大抵、都内で漢方医として労働し納税する父狐に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれるのです。

多分気にしちゃいけません。きっと別の世界のおはなしです。「ここ」ではないどこかのおはなしです。
ですが今日は少しだけ、神社にやってくる「妙な連中」に、目を向けてみることにしましょう。

ある時ガマズミの花が咲いた頃、完璧な星の模様の赤キノコが顔を出しました。
そのキノコの香りを嗅ぐと、昔食べた思い出深い料理の、香りと余韻を完璧に思い出すのでした。
父狐はそれを「アジナシカオリダケ」と呼び、周囲の土ごと掘り起こして、『世界線管理局 植物・菌類担当行き』の黒穴にブチ込みました。

またある時キバナノアマナが実をつける頃、どの黒よりも黒い前羽と、光を反射して透き通る青い後羽を持つチョウチョがやって来ました。
チョウチョは誰かの左目を隠したがり、目を隠されたモノは人も獣でも、心の中の何か恥ずかしい――カッコイイ設定を、カッコよく演じたくなるのでした。
父狐はそれを「クロレキシジミ」と呼び、カッコ良さげな虫かごに入れて、『世界線管理局 節足動物・昆虫担当行き』の黒穴に放り込みました。

そしてある時ヤマニンジンが食べ頃な頃、白百合のような花を右耳の裏か首筋あたりに付けた白い狼が、神社敷地内の一軒家のインターホンを鳴らしました。
狼は、ここではない別のおはなしの世界の、恐ろしい裂け目に落ちて、ここに来てしまったと言いました。
父狐は彼を「ただの迷子」と呼び、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』の黒穴へ案内しました。

最近最近の都内某所。不思議な不思議な稲荷神社は、今日も「ここ」ではない「どこか」の世界と、繋がり、関わり、送り返しています。

4/16/2023, 8:45:54 AM

「自分でも、うまく説明できねぇ現象なんだけどさ」
これもひとつの「届かぬ想い」なのやも。某所在住物書きは茶を飲みポテチをかじって、ひと息をつく。
「お題来るじゃん。クソ悩んで短文投稿するじゃん。投稿した後で閃く方が、最初に上げたやつよりイイ話を書ける気がする、みたいな。なんかそういう」
隣の芝が青い理論なんかな。それとも実際に、前より良い話が書けてんのかな。首を傾ける物書きは、
「逆に、最初に良いモンがポンと出てきてくれりゃ、バチクソ楽なのにさ」
ほら、ビールも最初の方が絶対美味いじゃん、と普段飲まぬ酒の話を引き合いに出し……

――――――

「届いた」
都内某所、某アパート。過労により職場で体調を崩し、金曜の午後から休みを取っていた捻くれ者が、
己のその日の仕事を引き継ぎ、一切の対応をこなしてくれた後輩に、礼をしようと奮闘していた。
「本当に1日で作れるんだな。……すごい」
速達で届いた小包の中には、春の花の写真が印刷された10cm四方の紙が、絵柄8種各15枚入り、合計120枚。送料込みで2500円。
相場を知らぬ捻くれ者は、値引き交渉をせず、言い値を支払った。

後輩の、欲しいものはカネと菓子だが、それ遣るよりは花の画が良い。
金曜の礼に何を贈るべきか、ひょんなことからアドバイスを得た捻くれ者。花の画像など後輩の何の役にも立たぬと、首を傾ける。
欲しいものが菓子であれば、その欲しいものを贈った方が、喜びは大きい筈である。
良い案は無いかと外に出て、出くわしたのが、ハンドメイド作家による小規模マルシェ。
概念アクセサリーなるジャンルで出店する女性が、差し入れ用概念ワックスペーパーなる紙を売っていた。
飴やチョコ等を包む際、使用できるという。

自分の好きな写真でチョコを包めるのか。
尋ねると作家は即答で、できます、と言った。
なんたる幸運。捻くれ者は、早速スマホとマネークリップを取り出した。
明日発送できます。お菓子よく作られるんですか。
いや。日頃世話になってる後輩に、礼がしたくて。
金を支払い少しの雑談を挟んで、その日はそれで帰宅した捻くれ者。翌日作家の言う通り、小包が届いた。
キクザキイチゲにフクジュソウ、スイセンにスミレ、等々。計8種。蜜蝋引きのワックスペーパーが。

「あいつには、『たまたま良い柄の紙が有ったから』とでも、言っておくか」
同封された、キューブチョコを包む手書きの説明書を見ながら、10cm四方の上にチョコを置き、折り包んで、両端を捻る。
「あっ。破れた。意外と難しいな」
己が紙とチョコを相手に格闘していることなど、その最中の照れと苦労を含めた諸々の感情など、
後輩には一切届かぬ想像であろうと、この時の捻くれ者は、信じて疑わなかった。
「そうか。こうやって破くから、『多めに発注した方が良いですよ』なのか……」

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