かたいなか

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4/14/2023, 1:16:20 PM

「3〜4個、シリーズもののテンプレ持っておくと、短文の物語投稿にはラクかも、とか思い始めてるわ」
アプリを入れて、はや1ヶ月と2週間。19時に通知を見て固い頭をフル稼働して悶々悩み途方に暮れるまでが、徐々に習慣化してきた某所在住物書きである。
「たとえば1日目のお題は狐の餅売りの童話風、2日目のお題は企業のよくある理不尽話、3日目は無難に日常ネタ、4日目は1日目投稿分に繋がる話とか」
型にはめて、各シリーズの短文の続編にすれば、毎日ゼロから新規組み立てする必要無いし。便利よな。
補足する物書きは、しかしながらため息をつき、

「問題は展開が完全お題任せで、行き先不明な点よ」
「神様へ」って、どのテンプレにどう繋げる?と……

――――――

都内某所、某アパート。人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者がぼっちで住む部屋に、
何故か不思議な不思議な、リアリティーガン無視の童話的子狐が、餅を売りに来ている。
「ウカサマ、ウカノミタマのオオカミサマ、しもべの声をお聞きください」
くるくるくる、家具少ないリビングで円を描いて歩き続け、コンコン呪文モドキを唱えている。
「ウカサマ、ウカサマのしもべのおとくいさんに、道をおしめしください」
部屋の主たる捻くれ者はポカン顔。
人語を解する子狐が毎週部屋に来るだけでも異様なのに、今度はその子狐が、神様へお伺いごっこである。

興味半分で「狐なら占いもできたりするのか」と、捻くれ者が子狐に聞いてみたのがすべての始まり。
「体調不良で世話になった後輩がいる。礼をしたいが何を贈れば良いか、とか」と。子狐は捻くれ者の好奇心に、直接行動で応じてしまった。

「おしめしください、おしめしください……」
くるくるくる、くるくるくる。何十周回ったとも知れぬ子狐。途端ピタリ足を止め、すっくと直立し捻くれ者をまっすぐ見詰め、
「『故郷の花の画をくれてやるのが良いでしょう』」
子供のあどけなさ無き、別人の抑揚で話し始めた。
「『お前の後輩が欲しているのはカネと肉と甘味ですが、カネは渡せば不思議がられ、肉も甘味も日頃お前と食っているので、特別ではない。お前の故郷に咲く良き春の花の写真を、5種8枚、みつくろうのです。キクザキイチゲとフクジュソウと、オオイヌノフグリとスイセンと、スミレかカタクリか桜が宜しい』」

「なぜ、」
「『メタい話をすると、3月1日と13日に、後輩に花の話をして、31日に画像を見られたからです』」
「3月1日と13日と31日?」
「『この先を聞きたくば、私に極上の餅を差し出すのです。さすればお前を愛で、言葉を授けても良い』」

大変な神様へ、直通電話を掛けてしまったらしい。
まんまと餅購入の誘導にハメられた気のする捻くれ者は、しかし狐のたたりも少々怖く、
「ねだん、は?」
通勤バッグからマネークリップを取り出し、持ち合わせを確認した。

「いっせんまんえんです」
「……嘘言ってるな?」
「きつねうそつかない。いっせんまんえんです」
「本当は?」
「500円玉1個と、100円玉3個」
「はぁ……」

4/13/2023, 11:15:03 AM

「来た『快晴』!空テーマ!」
空関係のお題、意外と多い説。昨日閃いたその矢先に「快晴」の2文字である。自説への手応えに、某所在住物書きは拳を握って両手を挙げた。
「これは、意外と信頼性、あるかもしんねぇな!」
曇り空、通り雨、夕焼けに夜風。昨日に引き続き、調子に乗った物書きは空関係の単語をメモに残すが……
「……ただまぁ、問題は実際に書けるかどうかよな」

――――――

職場の先輩が、職場で倒れかけた。
原因はハッキリしてた。上司にゴマスリばっかで自分はロクに仕事しない、後増利係長のせいだ。
ゴマスリ係長は先週、自分に回ってきた面倒な仕事を、14日期限で先輩に丸投げしてきた。
それは本当なら3〜4週間かかる量の仕事だった。

私も分かるところだけでも手伝って、
先輩なんかは上司の邪魔が入らないよう定時で帰って自宅でリモートワークして、
ゴマスリはその定時帰宅を気に入らないらしくて、
追加でひとつ仕事増やされたけど、先輩は、期限前日の今日の午前中でそれを係長決裁に回して、
それで、期限以内に仕事を終わらせた先輩に、ゴマスリが立て続けにひとつ仕事を割り振った。

席に戻ってきた先輩はすごく疲れた顔をしてて、ため息をついて椅子を、
掴む前に、肩が体が右斜めにグラついて、落ちるように床に膝をついて。
「なんでもない」って顔面蒼白で言う先輩を、無理矢理私が休憩室まで連れてって、ソファーに寝かせた。

上司連中は先輩のこと何も知らないくせに、勝手に「体調管理がなってない」とか「どうせ定時帰宅して、夜通しゲームでもしてたんだろ」とか。
メッチャ張っ倒してやりたかったけど、寝てる先輩に袖すごく強く掴まれたから、ガッッツリ嫌味な皮肉とド正論を投げるだけ投げて、それで我慢してやった。

「すまない。……面倒をかけた」
いつもと違って弱々しい声の先輩が、ソファーに横になって、黄砂さえ無けりゃ快晴だったかもしれない窓の外を見ながら言った。
「黄砂が落ち着いたら、快晴予報の日にでも、……今日の、埋め合わせを」
クソ上司から仕事振られたのも、職場で倒れかけたのも、その対処を私にさせて、私の仕事時間を削ったのも。全部自分で背負い込もうとする先輩が、
寂しくて、痛ましくて、少し苛立たしかった。

なんでウチの職場は下っ端を使い潰すことしか考えないんだろう。
なんで、ウチの職場は真面目なひとをこんなに食いモノにするんだろう。
なんでそれを「おかしい」って言えないんだろう。

「来週また黄砂来るらしいから当分ムリでーす」
ゴマスリほか、ともかくクズな上司にふつふつイライラが湧いてくるのを、抑えつつ先輩に言葉を返す。
対する先輩は、それは困ったな、って苦笑で、小さいため息をひとつ吐いた。

4/12/2023, 1:06:18 PM

「『空』か。空のお題、意外と多い……?」
カリカリカリ。今日も某所在住物書きは、相変わらず通知画面に届いた題目に四苦八苦。堅揚げポテチを食いながら固い頭をフル稼働させている。
「沈む『夕日』、『星空』の下で、『ところにより雨』、『星』が溢れる。コレは空関係の話を書き溜めとけば、いつか使えるお題が回って来る説?」
夜明け、朝日、日差し、夕暮れ、満月に三日月。
作品投稿のズルをしてやろうと、「空」に関する単語を列挙する物書き。途中でメモの指が止まり、
「……俺、そんな大量にポンポン話書けるっけ?」
そもそもの己の執筆スキルを、再度、確認し直す。
「まぁ、ひとまず今回は昨日のお題の続きで行くか」

――――――

リアリティーガン無視なおはなしです。フィクションマシマシでファンタジーなおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、化け狐の末裔の家族が仲良く住んでいて、
そのうちの父狐がなんと漢方医。某病院で、労働して納税して昨今の感染症と花粉症に立ち向かう、40代既婚男性(戸籍上)でありました。
夜勤中、母狐から、子狐が「お気に入りの花畑が消えちゃう」と泣きじゃくっていた、との通報が。
愛しい我が子の心を癒やすため、父狐は子狐の大好きな、星の形のクッキーを、ひと箱買って帰りました。

「お花畑が消えちゃうって、泣いてたんだって?」
家に帰った父狐。子狐にクッキーの箱を渡します。
「来年また芽を出すよ。これを食べて元気をお出し」
子狐の泣いた花畑は、キバナノアマナのことでした。
黄色く小さな、ユリか星のような花を咲かせるそれを、子狐は「お星さまの花」と呼んでいました。
星が大好きなコンコン子狐、星の形の花が消えていくのを、キャンキャン泣いて悲しんだのです。

「泣いてないもん!」
大好きなクッキーをひとくち、ふたくち。子狐は嬉しそうに頬張ります。
「それに、かかさん、教えてくれたもん。お星さまは、消えないの。遠い、遠いお空にのぼったの」
クッキーを1個ぺろり食べ終えて、子狐は青い青い空を見上げて、指さしました。
「かかさん、お星さまは遠いお空にのぼって、遠い涼しい場所に行くって、言ったの」
だから、お星さまは消えないんだよ。
子狐えっへん、得意そうに父狐に言いました。

「そうか。それじゃあ来年は、遠いお空の土産話が聞けるかもしれないなぁ」
母狐の言葉は、半分ウソで、半分本当でした。
キバナノアマナは春を告げる花。東京で花が終わっても、遠い遠い空の下、遠く離れた涼しい雪国では、今まさに咲いて花畑になっていることでしょう。
それを、母狐は「遠い空にのぼって遠い涼しい場所に行く」と、表現したのです。

「お空の旅は、どんな旅だと思う?」
父狐が愛おしく子狐を抱きかかえると、
「雲のおふとんでお昼寝できる旅!」
「お星さまの花」に届くと思ったのでしょう、子狐が遠い空へ向けて、小ちゃな手をうんと伸ばしました。

4/12/2023, 4:25:53 AM

「言葉にできない」。某CMソングが聞こえてきそうなお題ですが、こういうおはなしはどうでしょう。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
稲荷神社は森の中。草が花が山菜が、いつか昔の過去を留めて、芽吹き、咲き、顔を出します。
時折シマエナガコスの白鳥が、「待ってくれ!俺だって来たくて来たんじゃねえ!」と、完璧な日本語に平均的な北東北アクセントで鳴いたりしますが、
そういう妙な連中は大抵、都内で漢方医として労働し納税する父狐に見つかって、羽ごと体をふん縛られ、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドと放り込まれていました。
多分気にしちゃいけません。きっと別の世界のおはなしです。「ここ」ではないどこかのおはなしです。

「お星さま、なくなっちゃう!」
さて。「こちら」の世界に話を戻すと、稲荷神社に住む子狐が、敷地内の明るい原っぱで、キバナノアマナの小さな小さな花畑のまわりを、キャンキャン泣きながらぐるぐる走りまわっておりました。
「お星さま、お星さま!いかないで!」
キバナノアマナは絶滅危惧種。小ちゃな小ちゃなユリの形の、まるで星のような花を春咲かせ、夏来る前に地中に帰る。「春の妖精」のひとつです。
前々からぽつりぽつり、花を終えて実をつけ始めた、キバナノアマナの花畑。今ではほんの少ししか、花が残っていません。その少し残った花も、そろそろ色あせ、実をつけそうなのです。

子狐はそこそこ賢いので、花が今消えても、「次」があることは知っています。また次の春にこの場所で、黄色のお星様を咲かせるのは分かっています。
だけど子狐は狐なので、どうしても「今」が悲しいのです。大好きなお星様の形の、お気に入りの花畑が、今消えていくのが寂しいのです。

次の春の待ち遠しさと、今消える花の寂しさが、ごっちゃになって暴れ回る、その気持ちの名前を知らないので、子狐は自分の心を、うまく言葉にできません。
ただただ泣いて、吠えて、願って、叫ぶばかり。
「やだ!やだっ!お星さま、いなくならないで!」
キャンキャンキャン、キャンキャンキャン。
母狐が泣き声に気付いてやって来て、それじゃあ押し花作りましょうねと、花のひとつを摘み取って、泣きじゃくる我が子を優しく愛おしく抱きしめるまで、
子狐はずっと、ずっと、キバナノアマナの花畑のまわりを、ぐるぐるぐるぐる走り回り続けました。

4/10/2023, 10:14:05 PM

4月3日に新年度の仕事が始まって、最初の日曜日。
雪降る田舎出身の、都会に揉まれて擦れた捻くれ者のアパートに、夜、クール便の荷物が届きました。
送り主は、遠く離れた田舎の実家。ようやく訪れた春を、その恵みを、おすそ分けしたかったのでしょう。
「フキと、フキノトウと、ギョウジャニンニクと?」
東京と故郷の春とでは、季節が1ヶ月以上ズレます。こちらではもう葉桜でも、向こうは今頃春爛漫。
「ユキザサか。食い方よく知らないんだが」
公園にキクザキイチゲが広がり、林道にカタクリが顔を出し、道端でスイセンが咲いて、それらを陽光が照らし温めているのでしょう。

「スミレの砂糖漬け……?」

随分とまた、今年は気取ったものを。
捻くれ者は、荷物の底のタッパーに、見慣れぬ薄紫がじゃんじゃか詰められているのを見つけました。
「『作り過ぎた』って。あのなぁ……」
同封されたカードには、父が趣味の菓子作りを再開したことと、母がそれを真似て砂糖漬けを大量生産中であることが、ほっこりつらつら。
母曰く、緑茶にスミレもなかなかオシャレ、とか。

「ひとりじゃ食いきれない。職場に持っていこう」
チャック付きの透明袋に、乾燥剤と一緒にスミレをザカザカ詰め終えると、捻くれ者は袋を冷蔵庫に、
入れる直前で思い出し、通勤バッグに入れました。
スミレの、砂糖漬けです。常温保存も可能です。
上司に振られた大量の仕事をさばくために、今週は定時で上司の邪魔の入らぬ自宅へ帰って、少し寝た後ずっと仕事仕事仕事でした。
疲れが溜まって、頭がよく働いていないのでしょう。
「今の仕事が終わったら、1日くらい休むか」
寝て、日付が変わって、起きて。
いつも通り、捻くれ者は出勤していきました。

それを待っていたのが例の上司。捻くれ者に大量の仕事を振った、今月からの新係長です。

「お前最近、定時で帰ってばかりだな」
自分の部署の仲間に、砂糖漬けを配ろうとした矢先。
捻くれ者の席に、新係長の後増利がやって来ました。
「そんなに暇ならコレもできるだろう?」

淡々々。言いたいことだけ言い、渡す物だけ渡して、後増利は帰っていきました。
こいつに故郷の春をくれてやるのは心底シャクだ。
捻くれ者は一転、砂糖漬けはソロで対処しようと固く誓いかけましたが、
ふと、向かい側の席に視線をやると、後輩が後増利の背中に小さく歯をむいて、中指を立てておりました。

「手伝う。私今ちょっとフリーだから」
後輩が言いました。
「あのゴマスリクソ上司。イイ気になっちゃって」
これくらい、たまには自分で云々。今に見てろ云々。
ヒソヒソ言いながら、ノートの電源を入れる後輩。
捻くれ者は、こいつにならあの街の、春爛漫の欠片を少し、分けてやっても良いと思いました。

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