かたいなか

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4/9/2023, 1:13:28 PM

「どういうシチュエーションよコレ……?」
昨日の「これからも、ずっと」に続いて、今日の題目は「誰よりも、ずっと」。なお先月の題目には「ずっと隣で」があった。
「ずっと」被り3回目。頭の固さが壁となり、そろそろネタ枯渇の気配。なにより「誰よりも」が響いた。
「『誰よりも、ずっと』◯◯をするのが上手。『誰よりも、ずっと』◯◯をやり続けている。他は?」
趣味の話とか、恋愛系とか、友情モノに競技対戦シチュとかと親和性高いのか?
ガリガリガリ。物書きは頭をかいて、
「……たまにはお題パスも視野」
ため息を吐き、毎度恒例、物書きが途方に暮れる。

――――――

「ずっと」シリーズ第3弾。このアカウントも、ようやく投稿記事40個目のおはなしです。
最近最近の都内某所。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
都市再開発、科学の進歩、動画投稿アプリの台頭等で、魔法も呪術も過去の存在となった昨今。
秘匿性と神秘のわずかに残る、地方や過疎地域に逃れていく物の怪の多い中、一家はこの地に残り、
都内に住む何よりも、誰よりも、ずっと長い間、人々の生活の明暗清濁を見守り続けてきました。

なお、そんな稲荷神社の化け狐一家。最近しみじみ、時代の流れを感じることがあるようです。
それは家族の末っ子。偉大な御狐、善き化け狐になる修行中の子狐が、修行で売り歩く不思議なお餅を作っている最中のことでした。

「良い香りがしているねぇ」
晩ごはん後の台所。父狐が、母狐と一緒に食べるためのおつまみを取りに来たところ、子狐が一生懸命、夜売るお餅を作っておりました。
「今日は、ピザお餅と肉まんお餅かな?」

「サバ味噌煮おもちと角煮おもちも作る!」
コンコン子狐、大好きな大好きなお得意様の提案で、低糖質なお餅のラインナップを拡大中なのです。
「えーよーばらんす良いと、おとくいさん、喜ぶの」
父狐が同じように餅売り修行をしていた◯◯年前は、食べ物が少なく、皆貧しかったので、お腹にたまるお餅や甘いお餅が好まれました。
今は健康ブーム。糖質少なめが客にウケるようです。

食べ物のトレンドは水鏡。容易に形を変え、波立ち、時代を映します。
「お前が親になる頃には、どんな餅がトレンドになってるだろうねぇ」
まだまだ遠い、孫狐が餅売る姿を想像しながら、子狐を抱きあげ、頭を撫でてやる父狐。
どの人間より長く人間を見てきた父狐でも、未来の食べ物を予想するのは、ちょっと難しいようでした。

4/9/2023, 3:52:34 AM

「付け焼き刃の素人話だから、」
土曜日の午後の、帰宅前。先輩と寄ったマッケ。
「鵜呑みにせず、話半分で聞いてほしいが、過剰なストレスが長く続くと、心にも脳にも悪いそうだ」
私がマッケシェイクのバニラをちゅーちゅーしてる隣で、プレミアムコーヒーをブラックで飲んでる職場の先輩が、難しい、長い話を始めた。
「勿論、全部のストレスが悪いワケではない。けれど、酷いストレスが長く続くと、脳の神経細胞が一部、いわゆる過労死を起こすらしい」
コルチゾールだ。名前は知っているだろう。
私の「毎年の仕事とノルマがクソ」って愚痴に、リアルタイムで上司から大量の仕事を押し付けられてる、地獄真っ只中なハズの先輩が、真面目に答えてる。
嫌なら転職した方が良いと。

「強過ぎ、長過ぎなストレスで、コルチゾールがじゃんじゃん脳に来ると、そこで色々あって神経細胞が活発になる。ただ活発に、なり過ぎるから、最終的にそいつらは死んでしまうそうだ。つまり過労死だな。
お前にとって今の仕事が苦痛なら、この頭の過労死がずっと、これからもずっと、繰り返されるワケだ。
高血圧高血糖、心臓発作や脳卒中のリスクも上がる。文字通り仕事で『体を壊す』前に、離れろ」
あの職場と心中してやる恩も義理も無いだろう。
先輩はそう結んで、コーヒーをひとくち飲んだ。

「先輩は、」
「ん?」
「先輩だって、今の仕事ストレスなんじゃないの?」
「何故私の心配をする?」
「先輩、絶対私より大変だし。絶対過労死中だし」
「お前に頼む手伝いは、最小限になるよう努力しているつもりだが、……何か無理強いしただろうか」
「あのさ、そうじゃ、そうじゃなくてさぁ」
「んん………?」

なんで先輩の、この手の話は、先輩本人のエクストリームハードな状況が勘定に入ってないんだろう。
私がため息ついて目をそらして、バニラシェイクをちゅーちゅーすると、
視界の端っこで先輩が、やはり何か無理強いとか悪いこと言ったりとかしただろうか、って、ちょっと困ったような顔でコーヒー飲んでた。

4/7/2023, 11:55:32 AM

「ちょっ、マジか!」
今日の某所在住物書きは、19時の題目通知到着早々珍しく抱腹していた。
「いや、そういう名前の曲有りそうとは、思ってたが、思ってたがな!ヒットしたのコレかよ!」
沈む夕日。スマホ内に保存してあるフリーBGMやサウンドトラック等に、同名の曲が存在するかもしれない。閃いて検索して、「沈む夕陽」、「日」の字違いが一曲だけヒット。再生1秒で物書きは崩れ落ちた。

「どうするよ、持ちネタの先輩後輩シリーズの職場に、メガネに青ジャケットと蝶ネクタイのガキでも出すか?グレー企業殺人事件?」
書こうと思えば判例コピペのクソシナリオは書けるぜ、立花書房と東京法規なら数冊持ってるからな!
腹筋の痛みに耐えつつ、物書きは曲の再生を止めた。

――――――

今週の水曜日。今月から新しくウチの部署の係長になった、名字どおりの「ゴマスリ」オヤジ、後増利係長から、先輩が大量の仕事を押し付けられた。
当初2週間で終わらせろって指示だったそれは、いつの間にか期間が詰まって、来週末期限のお達し。
私もちょっと手伝ってるけど、先輩は昨日から職場での残業をやめて、定時ちょい過ぎで上がって、自宅で仕事をするようになった。
ここでやるより何倍も進むからって。
まぁそうなるよね。クソ上司の邪魔が無いもん。

今日も先輩は定時ちょい過ぎ上がり。
沈む夕日と一緒に、荷物まとめて「お先します」。
せっかくだから、私も今日は早めに帰ることにした。

「どうした。体調不良か?」
ロッカーで先輩に追いついて、靴を履き替えると、私の帰宅に驚いた先輩が、心配そうな声をかけてきた。
「だって定時だもん」
定時ってのは、定時に帰るために、存在するものだと思うんですよ。
どこかのA=Aな政治家構文モドキを付け加えると、先輩は少し首を傾けながら、それでも、数度頷いた。

「先輩ゴマスリの仕事どうなってる?」
「係長殿のご要望に沿えるよう、誠意対応中だ」
「ゴマスリのせいで体壊したりとかしないでよ?」
「それまでに8割は終わらせる。後は頼、」
「だから。クソオヤジのせいで体壊さないでよって」

「労災。傷病手当。楽して収入。ざまあみろ後増利」
「やーめーて、って。先輩のアパート押しかけるよ」

私がほっぺた膨らませるのを、ちょっと楽しそうに見て笑う先輩。自分が大変な筈なのに、なんかそれが他人事のような印象だ。
「安心しろ。まだ問題無い。まだな」
自嘲自虐な笑顔で、先輩は出ていった。
「……ガチで部屋押しかけよっかな」
沈む夕日のオレンジ色が眩しいロッカールームでポツリ呟いたけど、多分先輩には、届いてないと思う。

4/6/2023, 1:35:29 PM

「先月、『見つめられると』があったな……」
己の投稿記事をさかのぼり、該当する題目を見つけた某所在住物書き。スマホに届いた通知9文字に、少々の既視感があった。
「これ、毎日お題来るじゃん、ひとつ投稿して、予備でもうひとつ用意しておくじゃん、いつか似たお題が来たら予備使ってゼロ秒投稿目指せるんじゃね?」
良いこと閃いちまった!物書きは早速今日の題目から、投稿用と予備用の2作品同時執筆を思い立つが、

「……でも俺そんな執筆スキル無くね?」
頭の固い物書きでは、そもそも投稿用自体……

――――――

都内某所、某アパート。人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者がぼっちで住む部屋に、不思議な不思議な、リアリティーガン無視の童話的子狐が、お餅を売りにやって来ました。
「あのね、これがね、ニリンソウ」
今日はなにやらコンコン子狐、いつもお餅を買ってくれる捻くれ者に、見せたいものがいっぱいの様子。
「これは早く咲いちゃったヤマツツジ」
お餅を入れている葛のカゴから、ポンポンお花を次々と。捻くれ者の目の前で、お店を広げ始めました。
「で、これが、お星さまの木のお花」
花びらが5枚だったり、花の先がとんがっていたり。星を思わせる形の花が、3・4・5、計6種。
「おとくいさん、いっつもお餅買ってくれるから、特別に1個あげる」
コンコンコン。子狐はおめめをキラキラさせて、捻くれ者を見つめました。

「『お星さまの木』?」
「この、お星さまみたいな花が、いっぱいいっぱい咲くの。だから、お星さまの木なの」
「ガマズミか、その仲間だな。花が小さいから多分」
「ちがうよ」
「えっ?」
「ととさんも間違うの。でもお星さま、墨でも、炭でもないもん。だから、これはお星さまの花なんだよ」
「ん、んん……」

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、花に詳しい捻くれ者。小狐が言う「お星さまの木の花」を、春の低木にこんもり咲くガマズミと推理しますが、
小狐コンコン、白いから炭じゃない、と聞きません。
「あの、」
あのな子狐。ガマズミの「ズミ」は、勿論諸説あるが、それでも多分「炭」でも「墨」のことでもないと、私は思うぞ。
言ってやりたい捻くれ者ですが、コンコン純粋な子狐の、キラキラまっすぐな目を見つめてしまうと、
「……その、」
どうしても、小狐の美しい勘違いを壊す気になれず、
「お星さまの花を、頂こうかな」
自分の言葉を沈め倒して、黙っていてやることにしたのでした……

4/6/2023, 3:28:09 AM

東京は、ザ・星空って星空が珍しい。コウガイ、またはヒカリガイの影響だ、って職場の先輩は言う。
光の害、と書いて光害。地上の光が強いと、天上の星が観測しづらくなるから、それをひとつの理由として田舎の星空は星が多く、都会の星空は星が少なく見える、場合が多い、とか。
他にも空気の層云々ゆらぎ云々、皆既月食云々言ってた気がするけど忘れた。
要するに今空が曇ってるから全然星が無いって話。

今夜は職場のイライラやモヤモヤの毒抜き。
低糖質バイキングの屋外席で、美味いもん食わなきゃやってらんねーよパーティーだ。先輩による私のメンタル保全工事とも言う。毎度ご迷惑おかけします。

「残念だったな。せっかくのテラス席に星無しで」
田舎出身という、職場の先輩。私が「晴れてたら星見れたのに」と呟いたら、昔月食の日に撮ったっていう故郷の、メッチャ綺麗な夜空の写真を見せてくれた。
「星空の下で。温かい料理に冷えたドリンク。映えるエディブルフラワーのサラダ。丁度良かったものを」
こんにゃくパスタを、フォークでくるくるくる。パスタソースをひとさじ追加して、イタズラに笑った。

「残念だったのは、先輩じゃない?」
私はガッツリ肉にくニク。大豆ミートも見つけたけど、なかなか、おいしい。でもやっぱり肉が良い。
「私、美味しいもの食べられればそれでいいし。先輩よく花とか景色とか撮ってるし」
ニラみたいな山菜の肉巻きはおいしかった。北海道出身だっていう男性スタッフさんが、近い味ならニラと豚バラとお好みの味付けでできますよ、だって。
なんか雪国あるあるで先輩と意気投合してた。
別にうらやましくない。
「何かアカウントとかあるの?」

「SNSは何もやっていない」
「誰にも見せないのに写真撮ってるの?」
「だれ、……そうだな。今は」
「初恋のひと宛てだった?酷い失恋したっていう?」
「まだその話を引っ張るか。否定はしないがそのネタほどほどにしてくれ。一応傷のたぐい」

「じゃあこれから私に見せれば良いね」
「は?」
「私もメッッッチャ昔黒歴史書いてたから、ちょっと分かるもん。見せて、イイネくれる人居たほうが、絶対楽しいよ。これから私に見せなよ」
「は、……はぁ……」

私なんかの写真など見て、何が楽しいんだ。
首を傾けて、また反対方向にカクンする先輩は、私の提案が相当に不思議だったらしいけど、夜のせいかテラス席の照明だけじゃ、表情が少し分かりづらい。
ただただ、こんにゃくパスタをくるくるして、大きなパスタ団子にしてた。

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