かたいなか

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「付け焼き刃の素人話だから、」
土曜日の午後の、帰宅前。先輩と寄ったマッケ。
「鵜呑みにせず、話半分で聞いてほしいが、過剰なストレスが長く続くと、心にも脳にも悪いそうだ」
私がマッケシェイクのバニラをちゅーちゅーしてる隣で、プレミアムコーヒーをブラックで飲んでる職場の先輩が、難しい、長い話を始めた。
「勿論、全部のストレスが悪いワケではない。けれど、酷いストレスが長く続くと、脳の神経細胞が一部、いわゆる過労死を起こすらしい」
コルチゾールだ。名前は知っているだろう。
私の「毎年の仕事とノルマがクソ」って愚痴に、リアルタイムで上司から大量の仕事を押し付けられてる、地獄真っ只中なハズの先輩が、真面目に答えてる。
嫌なら転職した方が良いと。

「強過ぎ、長過ぎなストレスで、コルチゾールがじゃんじゃん脳に来ると、そこで色々あって神経細胞が活発になる。ただ活発に、なり過ぎるから、最終的にそいつらは死んでしまうそうだ。つまり過労死だな。
お前にとって今の仕事が苦痛なら、この頭の過労死がずっと、これからもずっと、繰り返されるワケだ。
高血圧高血糖、心臓発作や脳卒中のリスクも上がる。文字通り仕事で『体を壊す』前に、離れろ」
あの職場と心中してやる恩も義理も無いだろう。
先輩はそう結んで、コーヒーをひとくち飲んだ。

「先輩は、」
「ん?」
「先輩だって、今の仕事ストレスなんじゃないの?」
「何故私の心配をする?」
「先輩、絶対私より大変だし。絶対過労死中だし」
「お前に頼む手伝いは、最小限になるよう努力しているつもりだが、……何か無理強いしただろうか」
「あのさ、そうじゃ、そうじゃなくてさぁ」
「んん………?」

なんで先輩の、この手の話は、先輩本人のエクストリームハードな状況が勘定に入ってないんだろう。
私がため息ついて目をそらして、バニラシェイクをちゅーちゅーすると、
視界の端っこで先輩が、やはり何か無理強いとか悪いこと言ったりとかしただろうか、って、ちょっと困ったような顔でコーヒー飲んでた。

4/9/2023, 3:52:34 AM