かたいなか

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「先月、『見つめられると』があったな……」
己の投稿記事をさかのぼり、該当する題目を見つけた某所在住物書き。スマホに届いた通知9文字に、少々の既視感があった。
「これ、毎日お題来るじゃん、ひとつ投稿して、予備でもうひとつ用意しておくじゃん、いつか似たお題が来たら予備使ってゼロ秒投稿目指せるんじゃね?」
良いこと閃いちまった!物書きは早速今日の題目から、投稿用と予備用の2作品同時執筆を思い立つが、

「……でも俺そんな執筆スキル無くね?」
頭の固い物書きでは、そもそも投稿用自体……

――――――

都内某所、某アパート。人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者がぼっちで住む部屋に、不思議な不思議な、リアリティーガン無視の童話的子狐が、お餅を売りにやって来ました。
「あのね、これがね、ニリンソウ」
今日はなにやらコンコン子狐、いつもお餅を買ってくれる捻くれ者に、見せたいものがいっぱいの様子。
「これは早く咲いちゃったヤマツツジ」
お餅を入れている葛のカゴから、ポンポンお花を次々と。捻くれ者の目の前で、お店を広げ始めました。
「で、これが、お星さまの木のお花」
花びらが5枚だったり、花の先がとんがっていたり。星を思わせる形の花が、3・4・5、計6種。
「おとくいさん、いっつもお餅買ってくれるから、特別に1個あげる」
コンコンコン。子狐はおめめをキラキラさせて、捻くれ者を見つめました。

「『お星さまの木』?」
「この、お星さまみたいな花が、いっぱいいっぱい咲くの。だから、お星さまの木なの」
「ガマズミか、その仲間だな。花が小さいから多分」
「ちがうよ」
「えっ?」
「ととさんも間違うの。でもお星さま、墨でも、炭でもないもん。だから、これはお星さまの花なんだよ」
「ん、んん……」

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、花に詳しい捻くれ者。小狐が言う「お星さまの木の花」を、春の低木にこんもり咲くガマズミと推理しますが、
小狐コンコン、白いから炭じゃない、と聞きません。
「あの、」
あのな子狐。ガマズミの「ズミ」は、勿論諸説あるが、それでも多分「炭」でも「墨」のことでもないと、私は思うぞ。
言ってやりたい捻くれ者ですが、コンコン純粋な子狐の、キラキラまっすぐな目を見つめてしまうと、
「……その、」
どうしても、小狐の美しい勘違いを壊す気になれず、
「お星さまの花を、頂こうかな」
自分の言葉を沈め倒して、黙っていてやることにしたのでした……

4/6/2023, 1:35:29 PM