かたいなか

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東京は、ザ・星空って星空が珍しい。コウガイ、またはヒカリガイの影響だ、って職場の先輩は言う。
光の害、と書いて光害。地上の光が強いと、天上の星が観測しづらくなるから、それをひとつの理由として田舎の星空は星が多く、都会の星空は星が少なく見える、場合が多い、とか。
他にも空気の層云々ゆらぎ云々、皆既月食云々言ってた気がするけど忘れた。
要するに今空が曇ってるから全然星が無いって話。

今夜は職場のイライラやモヤモヤの毒抜き。
低糖質バイキングの屋外席で、美味いもん食わなきゃやってらんねーよパーティーだ。先輩による私のメンタル保全工事とも言う。毎度ご迷惑おかけします。

「残念だったな。せっかくのテラス席に星無しで」
田舎出身という、職場の先輩。私が「晴れてたら星見れたのに」と呟いたら、昔月食の日に撮ったっていう故郷の、メッチャ綺麗な夜空の写真を見せてくれた。
「星空の下で。温かい料理に冷えたドリンク。映えるエディブルフラワーのサラダ。丁度良かったものを」
こんにゃくパスタを、フォークでくるくるくる。パスタソースをひとさじ追加して、イタズラに笑った。

「残念だったのは、先輩じゃない?」
私はガッツリ肉にくニク。大豆ミートも見つけたけど、なかなか、おいしい。でもやっぱり肉が良い。
「私、美味しいもの食べられればそれでいいし。先輩よく花とか景色とか撮ってるし」
ニラみたいな山菜の肉巻きはおいしかった。北海道出身だっていう男性スタッフさんが、近い味ならニラと豚バラとお好みの味付けでできますよ、だって。
なんか雪国あるあるで先輩と意気投合してた。
別にうらやましくない。
「何かアカウントとかあるの?」

「SNSは何もやっていない」
「誰にも見せないのに写真撮ってるの?」
「だれ、……そうだな。今は」
「初恋のひと宛てだった?酷い失恋したっていう?」
「まだその話を引っ張るか。否定はしないがそのネタほどほどにしてくれ。一応傷のたぐい」

「じゃあこれから私に見せれば良いね」
「は?」
「私もメッッッチャ昔黒歴史書いてたから、ちょっと分かるもん。見せて、イイネくれる人居たほうが、絶対楽しいよ。これから私に見せなよ」
「は、……はぁ……」

私なんかの写真など見て、何が楽しいんだ。
首を傾けて、また反対方向にカクンする先輩は、私の提案が相当に不思議だったらしいけど、夜のせいかテラス席の照明だけじゃ、表情が少し分かりづらい。
ただただ、こんにゃくパスタをくるくるして、大きなパスタ団子にしてた。

4/6/2023, 3:28:09 AM