かたいなか

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「ちょっ、マジか!」
今日の某所在住物書きは、19時の題目通知到着早々珍しく抱腹していた。
「いや、そういう名前の曲有りそうとは、思ってたが、思ってたがな!ヒットしたのコレかよ!」
沈む夕日。スマホ内に保存してあるフリーBGMやサウンドトラック等に、同名の曲が存在するかもしれない。閃いて検索して、「沈む夕陽」、「日」の字違いが一曲だけヒット。再生1秒で物書きは崩れ落ちた。

「どうするよ、持ちネタの先輩後輩シリーズの職場に、メガネに青ジャケットと蝶ネクタイのガキでも出すか?グレー企業殺人事件?」
書こうと思えば判例コピペのクソシナリオは書けるぜ、立花書房と東京法規なら数冊持ってるからな!
腹筋の痛みに耐えつつ、物書きは曲の再生を止めた。

――――――

今週の水曜日。今月から新しくウチの部署の係長になった、名字どおりの「ゴマスリ」オヤジ、後増利係長から、先輩が大量の仕事を押し付けられた。
当初2週間で終わらせろって指示だったそれは、いつの間にか期間が詰まって、来週末期限のお達し。
私もちょっと手伝ってるけど、先輩は昨日から職場での残業をやめて、定時ちょい過ぎで上がって、自宅で仕事をするようになった。
ここでやるより何倍も進むからって。
まぁそうなるよね。クソ上司の邪魔が無いもん。

今日も先輩は定時ちょい過ぎ上がり。
沈む夕日と一緒に、荷物まとめて「お先します」。
せっかくだから、私も今日は早めに帰ることにした。

「どうした。体調不良か?」
ロッカーで先輩に追いついて、靴を履き替えると、私の帰宅に驚いた先輩が、心配そうな声をかけてきた。
「だって定時だもん」
定時ってのは、定時に帰るために、存在するものだと思うんですよ。
どこかのA=Aな政治家構文モドキを付け加えると、先輩は少し首を傾けながら、それでも、数度頷いた。

「先輩ゴマスリの仕事どうなってる?」
「係長殿のご要望に沿えるよう、誠意対応中だ」
「ゴマスリのせいで体壊したりとかしないでよ?」
「それまでに8割は終わらせる。後は頼、」
「だから。クソオヤジのせいで体壊さないでよって」

「労災。傷病手当。楽して収入。ざまあみろ後増利」
「やーめーて、って。先輩のアパート押しかけるよ」

私がほっぺた膨らませるのを、ちょっと楽しそうに見て笑う先輩。自分が大変な筈なのに、なんかそれが他人事のような印象だ。
「安心しろ。まだ問題無い。まだな」
自嘲自虐な笑顔で、先輩は出ていった。
「……ガチで部屋押しかけよっかな」
沈む夕日のオレンジ色が眩しいロッカールームでポツリ呟いたけど、多分先輩には、届いてないと思う。

4/7/2023, 11:55:32 AM