かたいなか

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「自分でも、うまく説明できねぇ現象なんだけどさ」
これもひとつの「届かぬ想い」なのやも。某所在住物書きは茶を飲みポテチをかじって、ひと息をつく。
「お題来るじゃん。クソ悩んで短文投稿するじゃん。投稿した後で閃く方が、最初に上げたやつよりイイ話を書ける気がする、みたいな。なんかそういう」
隣の芝が青い理論なんかな。それとも実際に、前より良い話が書けてんのかな。首を傾ける物書きは、
「逆に、最初に良いモンがポンと出てきてくれりゃ、バチクソ楽なのにさ」
ほら、ビールも最初の方が絶対美味いじゃん、と普段飲まぬ酒の話を引き合いに出し……

――――――

「届いた」
都内某所、某アパート。過労により職場で体調を崩し、金曜の午後から休みを取っていた捻くれ者が、
己のその日の仕事を引き継ぎ、一切の対応をこなしてくれた後輩に、礼をしようと奮闘していた。
「本当に1日で作れるんだな。……すごい」
速達で届いた小包の中には、春の花の写真が印刷された10cm四方の紙が、絵柄8種各15枚入り、合計120枚。送料込みで2500円。
相場を知らぬ捻くれ者は、値引き交渉をせず、言い値を支払った。

後輩の、欲しいものはカネと菓子だが、それ遣るよりは花の画が良い。
金曜の礼に何を贈るべきか、ひょんなことからアドバイスを得た捻くれ者。花の画像など後輩の何の役にも立たぬと、首を傾ける。
欲しいものが菓子であれば、その欲しいものを贈った方が、喜びは大きい筈である。
良い案は無いかと外に出て、出くわしたのが、ハンドメイド作家による小規模マルシェ。
概念アクセサリーなるジャンルで出店する女性が、差し入れ用概念ワックスペーパーなる紙を売っていた。
飴やチョコ等を包む際、使用できるという。

自分の好きな写真でチョコを包めるのか。
尋ねると作家は即答で、できます、と言った。
なんたる幸運。捻くれ者は、早速スマホとマネークリップを取り出した。
明日発送できます。お菓子よく作られるんですか。
いや。日頃世話になってる後輩に、礼がしたくて。
金を支払い少しの雑談を挟んで、その日はそれで帰宅した捻くれ者。翌日作家の言う通り、小包が届いた。
キクザキイチゲにフクジュソウ、スイセンにスミレ、等々。計8種。蜜蝋引きのワックスペーパーが。

「あいつには、『たまたま良い柄の紙が有ったから』とでも、言っておくか」
同封された、キューブチョコを包む手書きの説明書を見ながら、10cm四方の上にチョコを置き、折り包んで、両端を捻る。
「あっ。破れた。意外と難しいな」
己が紙とチョコを相手に格闘していることなど、その最中の照れと苦労を含めた諸々の感情など、
後輩には一切届かぬ想像であろうと、この時の捻くれ者は、信じて疑わなかった。
「そうか。こうやって破くから、『多めに発注した方が良いですよ』なのか……」

4/16/2023, 8:45:54 AM