かたいなか

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「まさかガチで、この置き石使う日が来るとはな」
4月12日、「言葉にできない」の題目で投稿した過去作品を確認しながら、某所在住物書きは珍しく、ニヤリ満足な笑顔を浮かべた。
「3〜4個、シリーズもののテンプレ作って、それで日々のお題を回すにあたってさ。いつか使えるようにって、『その話に関係無いネタ』を、置き石だの伏線だのを何個か仕込んでおいてんのよ」
使い所無いと思ってたが、まさかドンピシャが突っ込んでくるとはね。物書きは笑い、ひとつ息を吐き、
「……で、問題はその、せっかく置いた置き石をちゃんと上手に扱えるかよな」
結局最終的に、頭をかいて、うんうん唸り悩む。

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最近最近の都内某所。不思議な不思議な稲荷神社と、「ここ」ではない「どこか」のおはなしです。
敷地内の一軒家で、化け狐の末裔が家族で暮らすその稲荷神社は、草が花が山菜が、いつかの過去を留めて芽吹く、昔ながらの森の中。
時折妙な連中が芽吹いたり、頭を出したり、■■■したりしていますが、そういうのは大抵、都内で漢方医として労働し納税する父狐に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれるのです。

多分気にしちゃいけません。きっと別の世界のおはなしです。「ここ」ではないどこかのおはなしです。
ですが今日は少しだけ、神社にやってくる「妙な連中」に、目を向けてみることにしましょう。

ある時ガマズミの花が咲いた頃、完璧な星の模様の赤キノコが顔を出しました。
そのキノコの香りを嗅ぐと、昔食べた思い出深い料理の、香りと余韻を完璧に思い出すのでした。
父狐はそれを「アジナシカオリダケ」と呼び、周囲の土ごと掘り起こして、『世界線管理局 植物・菌類担当行き』の黒穴にブチ込みました。

またある時キバナノアマナが実をつける頃、どの黒よりも黒い前羽と、光を反射して透き通る青い後羽を持つチョウチョがやって来ました。
チョウチョは誰かの左目を隠したがり、目を隠されたモノは人も獣でも、心の中の何か恥ずかしい――カッコイイ設定を、カッコよく演じたくなるのでした。
父狐はそれを「クロレキシジミ」と呼び、カッコ良さげな虫かごに入れて、『世界線管理局 節足動物・昆虫担当行き』の黒穴に放り込みました。

そしてある時ヤマニンジンが食べ頃な頃、白百合のような花を右耳の裏か首筋あたりに付けた白い狼が、神社敷地内の一軒家のインターホンを鳴らしました。
狼は、ここではない別のおはなしの世界の、恐ろしい裂け目に落ちて、ここに来てしまったと言いました。
父狐は彼を「ただの迷子」と呼び、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』の黒穴へ案内しました。

最近最近の都内某所。不思議な不思議な稲荷神社は、今日も「ここ」ではない「どこか」の世界と、繋がり、関わり、送り返しています。

4/16/2023, 1:51:05 PM