整脈と不整脈と

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8/3/2025, 3:19:13 PM

冷えてると思ってた。
だけど飲んだら、ぬるかった。
しゅわしゅわって音もせず、
ただ、ぐったりと甘くて、のどに残った。

君と話したいと思ってた。
だけど今日も、君は無口だった。
わたしの話にうなずきもしないし、
下を向いて目も合わせない。そういうやつ。

君は、冷たくて、呼吸のかすかな音を出して。
なんだか炭酸の泡みたい。
甘くないところは炭酸とちがうね。
君の味はたぶんちょっぴりほろ苦いと思うし。

「話すことないの?」って聞きたいけど、
聞いたら、たぶんもっと黙られる。
「別に」って言われたら、たぶん泣いちゃう。
だから言わない。わたしって、変みたい。

君の沈黙の中に、意味を探すのは疲れる。
なんかあるの? ないの? ねえ、ないの?
…ないならない、って言ってよ。
でも言われたら、それもなんだかさみしい。

ぬるい炭酸は、ぬるいまま終わる。
冷たくならない。はじけない。
わたしの言葉も、君には届かない。

でも一緒にいる。今日も、また。
君は冷たく無口なまま、わたしが勝手に話す。
そうしていたら、きっと君はぬるくなってく。炭酸みたいに。
そうだったらいいな。

8/2/2025, 12:42:28 PM

濡れた足跡の先に、封筒が落ちていた。
角がくしゃりと折れて、
滲んだ文字が踊っている。
開けるのが遅かったのか、
あるいは、開けない方が良かったのか。
判断を誤ったのは、私の方だろう。
砂の上にしゃがんで、
その紙片に指を触れた。
指紋を吸い取るように、ざらりとした感触。
潮の湿り気に溶けていく告白。

だけどもう、この手紙は波のものだった。
波が封筒を攫っていく。
見ている私の方が、
置いていかれるような気がした。
ただ黙って、それを見ていた。

夕陽は、あまりに優しすぎて、
誰かの悲しみを許す色をしていた。
私は自分の手のひらを見下ろす。
何も握っていない。何も掴めなかった。
私はただ一人だった。

ただ濡れた手だけが、私の罪をなぞっている。

8/2/2025, 1:13:54 AM

蝉の声に包まれた午後、
私はひとり、止まった時計を見ていた。
日焼け止めの匂い、遠くの花火、
どれもが「君」を思い出させてしまうから。
あの夏、君はまっすぐな瞳で、
「また来年もここで」と笑った。
風鈴が揺れて、影が重なった縁側。
その記憶が、今も風に紛れて耳に届く。

8月の光は優しくて、残酷だ。
懐かしさに触れれば触れるほど、
君のいない現実が、ひりひりする。

それでも私は今年も
同じ道を歩いてしまう。
君が走った、白い道。
君が立っていた、青い空。

「8月、君に会いたい」
そんな言葉を胸にしまって、
蝉の声に耳を澄ませる。
君の気配が、また風に乗る気がして。

7/31/2025, 1:37:17 PM

あの子、まぶしいんだ。
まっすぐで、きれいで、光ってて。
笑うとき、ちょっとまぶしすぎるくらい。

だから、あんまり見ないようにしてる。

だって見たら、比べちゃうじゃん。
わたしの顔とか、声とか、足の速さとか、
わたしの全部がしょぼく見えちゃう。

ほんとはあの子のこと、
きらいじゃないんだよ。
むしろ、ちょっと憧れてる。
でも憧れてるなんて言ったら、
わたしの負けみたいだから言わない。

だって、まぶしいんだもん。

まぶしいってことは、
まぶしくないわたしがいるってことで、
それってなんか悔しくて、
ちょっと泣きたくなる。

でも泣いたら笑われそうだから、
まばたきしてごまかす。
まぶしいから、
目がしょぼしょぼしただけ、って。

あの子のこと、ほんとはすごく気になる。
でもたぶん、
あの子はわたしのこと気にしてない。
それもまぶしくて、つらい。

光ってる人ってずるい。
光ってるだけで勝ちみたいな顔してる。
でもほんとは違うんだよ、って言いたいけど、
光ってないわたしが言っても、
説得力ないじゃん。

だからやっぱり、見ないようにしてる。
まぶしいの、苦手だから。

7/30/2025, 11:50:26 AM

明滅する駅の蛍光灯、
その下で発した言葉は
通過列車にかき消されて
何を呟いたのか、もう覚えていない。
ただ、胸の奥が、焼けるようだった。

鼓動は、嘘をつかない。
忘れたふりをしても、痛みのリズムが裏切る。
夜の温度に溶けなかった汗が、
背中を伝い、呼吸を塞ぐ。

ホームの端、靴の先端が少しだけ浮く。
線路の向こうから、電車が向かってくる。
目を瞑る。鼓動が早まる。この体は、
まだ何かを伝えようとしていた。

手を伸ばす。だけど、触れる前に
電車が来て、鼓動が跳ねる。
後ずさる。間に合わなかった?
荒い呼吸音。瞳孔が動くのを感じる。

下を向く。
スマホに、私の顔が映る。
その中で、熱い鼓動だけが、
何も失わずに、そこにいた。

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