不整脈

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濡れた足跡の先に、封筒が落ちていた。
角がくしゃりと折れて、
滲んだ文字が踊っている。
開けるのが遅かったのか、
あるいは、開けない方が良かったのか。
判断を誤ったのは、私の方だろう。
砂の上にしゃがんで、
その紙片に指を触れた。
指紋を吸い取るように、ざらりとした感触。
潮の湿り気に溶けていく告白。

だけどもう、この手紙は波のものだった。
波が封筒を攫っていく。
見ている私の方が、
置いていかれるような気がした。
ただ黙って、それを見ていた。

夕陽は、あまりに優しすぎて、
誰かの悲しみを許す色をしていた。
私は自分の手のひらを見下ろす。
何も握っていない。何も掴めなかった。
私はただ一人だった。

ただ濡れた手だけが、私の罪をなぞっている。

8/2/2025, 12:42:28 PM