不整脈

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8/15/2025, 4:29:29 AM

君が見た景色を私も見てみたい
同じ色で、同じ音で、同じ風に触れて

だけどきっと
君の目の奥で、それは少し違っていて
私には届かないかもしれない

それでも
その景色を話す君の顔は
世界で一番きれいだから
私はそれを覚えておく

君が見た景色を
いつか私も同じ場所で同じ気持ちで
見られますように

8/14/2025, 2:42:53 AM

口を開けば零れてしまいそうで、
けれど音にすれば、
それはもう別の形になってしまう。

夕暮れの街角、
風に揺れながら私を見ている。
夕陽は、遠くで響く足音と混ざり、
私の胸を、不安と甘さで満たしていく。

刹那の好奇心と、
静かな後悔のあいだに生まれた沈黙。
あの沈黙こそが、
今も私の中で膨らみ続けている。

波打ち際に立ち、
足首を濡らす泡の音を聞いても、
心の奥のあれは形を変えない。
潮風も、月明かりも、
まだ名前を与えてくれない。

言葉にならないものは、
静かに、けれど確実に、
私を繋ぎ止める鎖になる。
甘い香りと、冷たい影とを編み込みながら、
それはずっと、胸の底で呼吸している。

8/13/2025, 12:54:37 AM

あの年の夏は、やけに音が遠かったの。
セミの声も、波の音も、君の笑い声も、
どこかでフィルターをかけたみたいな。

白いシャツが透けて、
背中の骨の形が見えちゃった。
触れたら、熱で指がやけどしそうで
ただ目を細めた。

かき氷のあおが舌に残って、
君がそれを指差して笑ってた。
わたしは笑い返せなくて、
かわりにスプーンを差し出した。

真夏の空気は、もうとっくに消えたのに、
あの時の匂いだけ、今もまとわりつくんだ。
塩と日焼け止めと、汗の混ざった匂い。

思い出すたびに、
胸の奥で少しあたたまる。
まるで海みたいに。

8/11/2025, 2:15:27 PM

陽射しは真上、
舗装されたアスファルトは、
息をするように熱を放つ。
その上で、
バニラ色の雫が静かに溶けていく。

ほんの数秒前まで、
私の手の中で冷たく、甘く、
確かに存在していたもの。
それが今は、
形も香りも崩れ、ただ黒い路面に染みていく。

屈んで手を伸ばせば、
指先はもうべたつく熱と、
戻らない甘さだけを拾う。

あのとき落ちなければ、と
頭の中で繰り返しても、
風はそれを慰めるどころか、
砂埃を連れてきて、最後の輝きを曇らせた。

溶けてしまった甘さは、
口に運べないまま、
靴底に貼りつく記憶だけを
残して消えていった。

8/10/2025, 1:59:39 PM


やさしさなんて、たいしたことない。
ほら、笑ってドアを開けるだけ。
コップに水を入れて渡すだけ。
欲しがりそうなものをあげるだけ。
そんなの、だれにだってできる。

「優しいね」って言われると、へんな気分。
わたしはただ退屈だっただけなのに。
ひとりでいる私に飽きたから、
声をかけただけ。
そんなの、やさしさじゃない。

ほんとうのやさしさなんて、
もっと重たいんだよ。
手がしびれて、背中が曲がって、
心の奥まで削れるくらいの。
でもみんな、それはやらない。
今のわたしは、もうやらない。

ときどき思う。
やさしさって、あげた人じゃなくて、
もらった人が決めるんだって。
じゃあ、わたしが思ってないやさしさでも、
誰かがそうだって言ったら、
それはやさしさなんだ。
変なの。

でも、やさしさはたまに嘘くさい。
笑顔の下で、ため息を隠してる。
「気にしないで」って言いながら、
ちょっと気にしてほしそうにしてる。

わたしもやるの、そういうこと。
だから、人のやさしさもすぐわかる。
それをもらうと、うれしいより先に
「どうせ」って思っちゃう。
ひどいよね。わたし。

やさしさなんて、あってもなくても同じ。
でもね、なくなったら、きっと困る。
困るくせに、簡単に信じないの。

わたしは、そういう人間なんだ。

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