不整脈

Open App

どこへ向かっているのか、
分からなくなってしまったのは、
風が止まったせいでも、
海が荒れたせいでもなく、
多分、私の中の磁力が壊れていたから。
羅針盤は静かに回っていた。
狂ったみたいに、
北を指さず、思い出を指した。

あの日、私がついた小さな嘘。
笑いながら隠した震え。
わたしが「平気」と言った夜の声の色。

全部、針が刻んでいる。
地図にない方角。
名前のない港。

でも、戻れない。
引き返すことも、
風を読んで進むことも
私の中の羅針盤はもう、
他人を指し示してくれない。

どこを向いても、
空が広すぎる。

だけど
それでもいいって、
最近は思うようになった。

私の心が向いた方角を、
北って呼んでいい。
誰も信じてくれなくても、
この錆びついた針だけは、
わたしを見失わないから。

心の羅針盤は、
もう世界を導いてはいない。
ただ、私という小さな船のために
静かに震えている。

それが、
今の私の「まっすぐ」なんだと思う。

8/8/2025, 2:03:54 AM