不整脈

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朝の光が、ちょっと変だった。
ふつうより細くて、
へんな角度で差し込んでた。
それで、わたしは思ったんだ。
「あ、これは夢かもしれない」って。

でもね、
ポケットの中にチョコがひとつあった。
夕べ確かに入れたやつ。
夢だったら、
ポケットにチョコは入らないよね。
だから、夢じゃない。たぶん。

だれかが突然笑って、
わたしはびっくりして転んだ。
夢なら転んでも痛くないって聞くけど、
ちょっとだけ痛かった。
やっぱり現実だった。

「それ、夢でしょ?」って
言われるとムカつく。
だってほんとうに起きたことなんだもん。
でも、たまに時間がねじれてる気がして、
どれが本当かわかんなくなるんだよ。

誰かがくれた言葉が耳の奥でまだ鳴ってる。
あれは夢か、それとも現実か。
夢だって言われたら、
簡単に忘れられるのかな。
忘れたくないな。わたしは強く思う。

指先の小さなやけどの跡。
ノートの隅の落書き。
パパの大きな手。
全部、触れる。確かめられる。
だから夢じゃない。

でも夜になると、怖くなるよ。
夢ならいつか終わるけど、
起きてたらずっと続くから。
わたしは続くのが苦手で、
じっとしてるのも下手で。
それでも、これは「夢じゃない」って、
自分に言い聞かせる。

ほんとうは、誰かに言ってほしい。
「それ、夢じゃないよ」って。
でも言われなくても、わたしは知ってる。
胸の中で、小さな音が鳴ってる。消えない音。

だから今日も手を伸ばす。
触れられるものを、ひとつずつ。
それで、確かめるの。
わたしの世界は、
夢じゃない。たぶん。
でも、これでいい。

8/9/2025, 1:29:47 AM