底から見上げた水面、
身体はふわりと揺蕩い流れ。
口から漂う気泡は浮かび、
記憶は二度と失う勿れ。
毒を以て毒を制す。
貴方の想いよ泡沫と共に。
底から見上げた水面、
身体は遂に砂の下。
/ 酸素
余波すら立てず沈みゆく身体。自然を動かすなど烏滸がましいこと。溶け込んだはずの酸素は天中問わず劇物で。指の隙間をぷかぷかくるくる、ミズクラゲが揺蕩うなか、あっという間に地の底へ。時は流れて自然へ還る。
目と、香と、味と、音。
不意に触れたそれらは
ふと彼(か)の記憶を呼び覚ます。
踏み出す為に蓋を用い、
きつくきつく縛り付け。
深に没入。潜り果てへと。
遠く過ぎた日、君の元へと。
/ 記憶の海
日常のふとしたところで思い出す。心締め付けられるようなこと。綺麗さっぱり忘れてしまおう。深く深くしまい込み、いつの日にか、笑って話せるように。
たったひとつだけの特別、
未だ知らない高揚。
その存在に気づける時は
果たしていつの日にくるものか。
若さ溢れ、先は知らず。
想像の果てすら視野は狭い。
濃霧の晴れ、思いの向こう。
私は君に会いに行く。
/ ただ君だけ
「君だけ」と、絞る行為に末恐ろしさを覚える。貴方とこの先を歩んでいくのだという覚悟。一生の舵取りを他人に委ねる恐怖と縛りにがんじがらめ。未だ若く浅い経験では、雷に打たれたような感覚を体験する術はない。
薄青の空が暗がりを染め、
徐々に街を明かしていく。
きらきらひかる水面の凹凸は
反転した夜空に見えた。
地平に進む私有船。
明日は鈍足にも着々と。
/未来への船
未来とは漠然とした将来設計ともいえ、また数秒先、一秒先をもいう。明日という日が来るのか、夜は明けるのかという不安は誰しもにあるもので。それに反し、明日が来るなと願う人もいる。すべてが、曖昧な概念で、それが美しいと思える。
海は離別の象徴、波はひいてゆく。
あついあつい砂浜、砂の城、打ち上げられた海月。
愛し合う者が永遠足りうる場所。
手からこぼれ落ちて、水を掴む。
けれど全ては海の中。
生まれも消えるも此処にある。
ざざあ、ざざあと心が鳴る。
ひいてはかえす、波の音。
/海へ
海の表情は良くも悪くも一定である。時に牙を剥くものの、概ね穏やかに我々に手をこまねく。じいっと満ち干きを見つめ、足先を塩水が濡らす。絶望が見えた時、既に身体は浮かんでいた。訳も分からず伝うは、涙。