夜兎

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9/28/2025, 11:23:31 AM

君と、永遠にともにいられたら_____
そう、考えたこともあった。

放課後の教室にカリカリとシャーペンを動かす音が響く。
真っ白な日誌を一心不乱に書く横顔を
頬杖をつきながら眺めていた。

「俺は、見せ物じゃないよ」

静かな警告。
それは、照れ隠しでもあって、
真っ赤に染まった耳がその証拠だ。

「……ごめん。分かってるけど、君の真剣な顔見ていたいんだ」

「恥ずかしいから、やめろ」

君は照れくさそうに笑うけど、でも僕は笑えない。

だって共にいられるのは残りわずか。
別れのタイムリミットは刻一刻と近づいている。

それを、君だけが知らない。



#永遠なんて、ないけれど


9/27/2025, 12:39:55 PM

「……どうして、泣いてるの?」

それを、あなたが聞くのですか?
悔しさから下唇を噛んで、答えなかった

偶然とは時に残酷だ。
お茶会の帰り、ふと見かけたあなたの姿
馬車の窓から見えた光景に目を疑った。

知らない女性の肩を抱き、微笑んでいた。
飾らない笑顔は、私の前では見せない。
仏頂面で相槌すら打たない。
そんなあなたが、笑っていた。

それで、悟ってしまった。
あなたの心は、最初から私に向けられていなかった。
口吻もなく、愛の囁きもない。
心の通わない空虚な関係。

最初から愛されてなどいなかった。
その事実はストンと胸に落ちてきた。

「……若い女性との逢瀬は、楽しかったですか?」

背後からかすかに息を呑む気配がする。
ベッドから起き上がると、彼に背を向けたまま告げた。

「_____婚約、解消致しましょう」





#涙の理由

9/24/2025, 10:29:51 AM

壊れて動かなくなった懐中時計。
祖父の大事な形見で手放せない代物だ。

金細工は所々が剥げ、地金が露わになっている。
蓋を開けて秒針を確認してみても、
十二時で止まっている。

それは、祖父が天国に旅立った時間。
意識もなく、声も聞こえなかった筈の祖父が、
最後に微笑んでくれた。

幼い頃から大好きだった優しい笑顔
それが、もう見れないなんて哀しかった。

涙が頬を伝い落ちていく。

さようなら。
ゆっくり眠ってね。


#時計の針が重なって

9/23/2025, 11:38:07 AM

僕と一緒に観に行った、あの星空を覚えてますか?

月明かりが差す小道を、君と歩く。

繋いだ手は温かくて、
「離したくない」なんて言えなかった。

星より君の笑顔が眩しくて、
どうしようもないくらい、ときめいて
君を想う気持ちが、もう隠しきれなかった。

それなのに、僕は意気地なしだった。

関係が変わるのが怖くて、気持ち伝えられなかった。

君と会えなくなる。
そんな事も考えなかったから。

「____君に、会いたい」

その声は、宵闇に溶けて消えていった


#僕と一緒に

9/22/2025, 10:53:08 AM

曇天の空。
今にも雨が降り出しそうな重く沈んだ空模様に
心まで曇っていく。


お気に入りの傘は盗まれ
楽しみにしていた遊びに行く約束はドタキャン。
ついてないほどがあるそんな一日だった。

「あれ……葉月?」

雑踏の中でも、不思議とその声だけははっきり聞こえた。
そこに居たのは、自然と疎遠になったかつての恋人だった。

「遊真、その…久しぶり。」

「久しぶり。雨、降りそうだけど傘はねぇの?」

「その……実は、盗まれちゃって…」

「そっか。じゃあ、送ってこうか?」

手に持った傘を掲げながら、彼は首を傾げた。

どうしよう。素直に甘えていいんだろうか。
戸惑いが顔に出たのか、返事に迷ったその一瞬____

「こういう時は甘えとけ」


#cloudy

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