君と、永遠にともにいられたら_____
そう、考えたこともあった。
放課後の教室にカリカリとシャーペンを動かす音が響く。
真っ白な日誌を一心不乱に書く横顔を
頬杖をつきながら眺めていた。
「俺は、見せ物じゃないよ」
静かな警告。
それは、照れ隠しでもあって、
真っ赤に染まった耳がその証拠だ。
「……ごめん。分かってるけど、君の真剣な顔見ていたいんだ」
「恥ずかしいから、やめろ」
君は照れくさそうに笑うけど、でも僕は笑えない。
だって共にいられるのは残りわずか。
別れのタイムリミットは刻一刻と近づいている。
それを、君だけが知らない。
#永遠なんて、ないけれど
「……どうして、泣いてるの?」
それを、あなたが聞くのですか?
悔しさから下唇を噛んで、答えなかった
偶然とは時に残酷だ。
お茶会の帰り、ふと見かけたあなたの姿
馬車の窓から見えた光景に目を疑った。
知らない女性の肩を抱き、微笑んでいた。
飾らない笑顔は、私の前では見せない。
仏頂面で相槌すら打たない。
そんなあなたが、笑っていた。
それで、悟ってしまった。
あなたの心は、最初から私に向けられていなかった。
口吻もなく、愛の囁きもない。
心の通わない空虚な関係。
最初から愛されてなどいなかった。
その事実はストンと胸に落ちてきた。
「……若い女性との逢瀬は、楽しかったですか?」
背後からかすかに息を呑む気配がする。
ベッドから起き上がると、彼に背を向けたまま告げた。
「_____婚約、解消致しましょう」
#涙の理由
壊れて動かなくなった懐中時計。
祖父の大事な形見で手放せない代物だ。
金細工は所々が剥げ、地金が露わになっている。
蓋を開けて秒針を確認してみても、
十二時で止まっている。
それは、祖父が天国に旅立った時間。
意識もなく、声も聞こえなかった筈の祖父が、
最後に微笑んでくれた。
幼い頃から大好きだった優しい笑顔
それが、もう見れないなんて哀しかった。
涙が頬を伝い落ちていく。
さようなら。
ゆっくり眠ってね。
#時計の針が重なって
僕と一緒に観に行った、あの星空を覚えてますか?
月明かりが差す小道を、君と歩く。
繋いだ手は温かくて、
「離したくない」なんて言えなかった。
星より君の笑顔が眩しくて、
どうしようもないくらい、ときめいて
君を想う気持ちが、もう隠しきれなかった。
それなのに、僕は意気地なしだった。
関係が変わるのが怖くて、気持ち伝えられなかった。
君と会えなくなる。
そんな事も考えなかったから。
「____君に、会いたい」
その声は、宵闇に溶けて消えていった
#僕と一緒に
曇天の空。
今にも雨が降り出しそうな重く沈んだ空模様に
心まで曇っていく。
お気に入りの傘は盗まれ
楽しみにしていた遊びに行く約束はドタキャン。
ついてないほどがあるそんな一日だった。
「あれ……葉月?」
雑踏の中でも、不思議とその声だけははっきり聞こえた。
そこに居たのは、自然と疎遠になったかつての恋人だった。
「遊真、その…久しぶり。」
「久しぶり。雨、降りそうだけど傘はねぇの?」
「その……実は、盗まれちゃって…」
「そっか。じゃあ、送ってこうか?」
手に持った傘を掲げながら、彼は首を傾げた。
どうしよう。素直に甘えていいんだろうか。
戸惑いが顔に出たのか、返事に迷ったその一瞬____
「こういう時は甘えとけ」
#cloudy