夜兎

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「……どうして、泣いてるの?」

それを、あなたが聞くのですか?
悔しさから下唇を噛んで、答えなかった

偶然とは時に残酷だ。
お茶会の帰り、ふと見かけたあなたの姿
馬車の窓から見えた光景に目を疑った。

知らない女性の肩を抱き、微笑んでいた。
飾らない笑顔は、私の前では見せない。
仏頂面で相槌すら打たない。
そんなあなたが、笑っていた。

それで、悟ってしまった。
あなたの心は、最初から私に向けられていなかった。
口吻もなく、愛の囁きもない。
心の通わない空虚な関係。

最初から愛されてなどいなかった。
その事実はストンと胸に落ちてきた。

「……若い女性との逢瀬は、楽しかったですか?」

背後からかすかに息を呑む気配がする。
ベッドから起き上がると、彼に背を向けたまま告げた。

「_____婚約、解消致しましょう」





#涙の理由

9/27/2025, 12:39:55 PM