『冬休み』
「え、もう1週間経つの?」
冬休みはあっという間にすぎる。
冬休みに入り、サンタさんからプレゼントを貰い、一家の大掃除が始まる。
そして、それが終われば紅白を見ながらみんなで蕎麦を食べ、必死に年賀状を仕上げ、お正月を迎える。
宿題なんてしてる暇無い。
あんなに大量に出す先生は鬼だ。
雪だるまも、かまくらも作らないといけないし、初詣やお正月グッズも買わないと行けないし、友達とイルミネーションも見ないと行けないのに、たった2週間の冬休みだなんて、少なすぎる。
そう思いながら、私は1人簡易コタツに毛布を置き、近くのテーブルの上にさっきスーパーで買ってきて温めた餅と、みかん、そして醤油せんべいを並べ横にある冬休みの課題を押しのけ、ゲームを起動する。
せっかく綺麗にした部屋も、私にかかれば一瞬だ。
にゃ〜ん
近寄ってきた愛猫を抱え、頬をすりすりとした。
すまんが、今年は兎年だ。
私は誰かに謝った。
そして、私は、多数の先生にも謝る羽目になった。
『変わらないものはない』
この世に変化しないものはない。
地球は常に回り続け、宇宙も常に拡張し続けている。
でも、どこかに必ず始まりがあり、終わりがある。
これだけは、変わらないと確信してもいいと思う。
だが、始まりがあり、終わりがあることで変化していることも否めない。
道端に生えている花に焦点を当てたとしても、
その近くに生えている別の花、もしくはもう枯れて土になったかもしれない花、どちらにせよ、その花が存在しているのはその他の花が命を紡いだからだ。
命を紡ぐことで、終わりを、永遠の最期にしていない。
形、姿を変えるだけで存在の欠片自体はどこかにあり、たとえそれがほとんどゼロになったとしても変化し続けていることには違いない。
ただ、ただ、
この目の前に居る人がもう、二度と目を覚まさないことがないことは、変わらない。
僕が、何度呼びかけても返事しないことも変わらない。
変化というものは、本当に残酷だ。
彼女1人が死んだからと言って、地球が止まるわけでも、隕石が降ってくるわけでもない。
いつの間にか、人々は彼女のことを忘れ、僕もいずれは死に、彼女の存在が後世に永遠と語り続けられるのはほぼ不可能だ。
仮にあったとしても、それは永遠には続かない。
彼女がいたから、会えたから、僕は変われたのに。
これだと、また、イチからだ。
地球は、宇宙は、僕達は、これからも、今、この一瞬も何か絶えず変化する。
彼女の死も、そのひとつに過ぎないと分かっていても、
辛いものは、辛いんだよ。
もう、お前に二度と会えないのが。
お願いだから、もう一度、笑っておくれよ。
もう一度、その優しい声で呼びかけてくれよ。
もう一度、その暖かかった手で、僕を、抱きしめておくれよ。
もう一度、もう一度───…………。
そう願っても、冷たくなった彼女の体に変化が起こるわけない。
いくら星に願ったって叶わない。
それが、現実だ。
『クリスマスの過ごし方』
クリスマス?
なにそれ。
なんだか外は騒がしいし、寒いし、私には関係ない。
この、暖かい部屋に入れれば私は幸せなんだ。
私はごろんと寝転がり、いびきをかいて寝た。
いつもいるあの人はなんだか出かけたし、今、私は独りだ。
いつもなら、あの人は私を見ると優しい顔をし、暖かい手で撫でてくれる。
そして、その人からお話を聞いたり、鼻歌交じりで料理している姿。
私はその人の行動一つ一つが興味深かった。
今日は機嫌がいい。
悪い。
体調が悪そう。
治ったみたいだ。
寝違えたのかな。
寝癖すごいな。
本当に、ヒトは見ていて飽きない。
けれども、その人は出かけ、部屋は真っ暗。
別に、暗いところが嫌いってわけじゃない。
なんなら、私の祖先は夜に活動していたくらいだ。
けど、私はこの胸の奥のモヤモヤが気になって仕方がなかった。
その人の帰りはいつもより遅かった。
ごーはーん!!
私は少し拗ねていつもよりしつこく言った。
その人は驚いた顔をした。
そりゃあ、そうだ。
ティッシュペーパーを部屋にばら撒き、ゴミ袋は敗れ、そこからゴミが溢れ出ている。
その上、椅子にかけてあったカーディガンは私の今日の寝床にして毛だらけにしてやった。
私は今拗ねてるのだ。
そのオーラを出した。
その人はやれやれといった表情で部屋の片付けをした。
そして、部屋が綺麗になり、その人は「おいで」と手を広げた。
いつもならそれに応じ、近くに行くが今回は行かなかった。
「もう、拗ねないでよ。」
なら、知らない人の匂いをつけてくるな。
私は愛おしいその人を睨み、しっぽをパタパタとさせた。
その後、その人はお風呂に入り、いつもの匂いになった。
私はその人に近づき、いつも以上にマーキングしてやった。
こいつは私のだ。
まぁ、当の本人は気づいてないみたいだけどな。
『イブの夜』
12月24日、日が沈む時から25日の日が沈む時までしか現れない妖精がいるそうだ。
その妖精の見た目は栗色のした目に、ベージュ色のくせっ毛のあるロングヘア。
そして、膝下まである白色のノースリーブのワンピース。
そして、その子に出会うと1年、幸せになれる。
という、おとぎ話を母に、小さい頃聞かされた。
小さい頃の私はそれをそのまま信じて、ずっと待っていた。
けれども、その話を聞いて約10年が経ったが、未だに1回も会えていない。
本当に、いるのだろうか。
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「ぁ………の………。」
「………?」
「………っ、やっぱり、なんでも、なぃ、です。」
12月24日 夜
今日はクリスマスイブらしい。
みんな、暖かいお家で幸せそうな顔をし机を囲む。
カーテンの隙間から漏れるその光は私には眩しかった。
そして、わたひはそれを羨ましく見ることしか出来なかった。
真冬なのにノースリーブの白いワンピース。
みんな、私のことを2度見はする。
心配してくれる人もいる。
けれども、私が望んでいるのはそんなことでは無い。
暖かいマフラーも、暖かいココアも、暖かい人々の心も、全部、違う。
私には、家族が欲しかった。
けれども、そんな人は居ない。
私はしばらく食べていなかったせいでフラフラと歩いた。
「(……寒い。)」
そりゃあ、そうだ。
今日は運悪く、初雪が降った。
私は先程貰った手袋をぎゅっと握り、路地でうずくまった。
「………。キミも、1人なの?」
そんな時、その子は突然現れた。
「……ボクと、同じだね。」
その子はショートだが、顔立ちは女の子だった。
その子はニカッと笑い、私の横にしゃがんだ。
「………これ、一緒に食べよう?」
その子は持ってきたホカホカの焼き芋を半分にわり、私に渡した。
「けど………」
「多分、今夜が最後だから。」
私は何も言えなかった。
私は、俯き、その子に手袋を片方渡した。
その子は一瞬驚いたが、ありかとう。
と、受け取ってくれた。
私たちは一緒にお芋を食べ、話した。
家族について。
サンタさんについて。
嫌いな食べ物とか、好きな食べ物の話。
その時間はとてつもなく幸せで、暖かかった。
眠ったらダメなのに、眠ったら死んでしまうのに、
私たちはそれに抗えなかった。
初めて出来た友達。
私はその子をぎゅっと抱きしめ、その子も私をぎゅっと抱きしめた。
私たちはマフラーを肩にかけ、お互い向かいあわせで凍った地面に寝そべった。
彼女の鼻は真っ赤だった。
きっと、わたしもだろう。
「また、話そうね。」
「うん。」
「次は、優しいお母さんの所に行こうね。」
「うん。」
「おやすみ。」
「………うん、おやすみ。」
私たちは眠っていくように静かに息を引き取った。
今日ほど、幸せな日はなかった。
次の日、私たちが眠っていた場所には2つ、大きな花束が置かれ、私たちが着けていたマフラー、手袋が添えられ、他にもたくさんのものが置いてあった。
それは、毎年置かれるようになった。
そして、みんな、手を合わせ私たちに挨拶をする。
私たちは12月24日の日没から12月25日の日没。
その人たち、優しい心を持っている人たちに順番に、お礼をした。
そして、お祈りをした。
彼女、彼らが幸せになれますように。
と。
『プレゼント』
「こんなゴミ、要らねぇよ。」
目の前で捨てられた僕が用意したプレゼント。
彼は中身を見て、ポイッと捨てた。
今日はクラスメイトで集まり、プレゼント交換会をすることになっていた。
「酷いよ!ゆうきくん。
せっかくれんくん用意してくれたのに。」
「ゴミなんか要らねぇ。
というか、誰だよ。こんなこと企画したやつ。
お前ら全員知ってるだろ?こいつがまともなもの用意できないって。」
辺りはシーンとした。
「どうせ、貰ったやつはこいつのいねぇ所でグチグチ文句言って、陰口言って、自分はこいつよりかは上とかそういう強者感を味わいたいだけだろ。
悪いが、俺はそういうのが大嫌いなんだ。」
彼はそう言い、要らないとか言いながら、僕のプレゼントを拾い上げ、その部屋を出ていった。
そして、1人の子が「ごめん。」と僕に謝った。
それに続けてたくさんの人が僕に謝った。
けれども、初めて知ったこの人たちの裏の顔。
僕は到底彼女、彼らのことを信じられなかった。
僕のことをそんなふうに思っていただなんて、僕は悔しかった。
僕を育ててくれた母親を恨み、ギャンブルに明け暮れるだけ明け暮れ、蒸発した父親を憎み、何より、大好きな母親を恨んだ自分が嫌で、ぐちゃぐちゃの感情になった。
そして、僕はその場を何とか誤魔化し、用事がある。と、彼らと別れた。
だが、その部屋から出た瞬間、涙が込み上げてきた。
近所の人の少し大きな黒い上着を握りしめ、僕はうずくまった。
「………男の癖にメソメソすんな。
ムカついたなら、殴ればいいだろ。」
「………ヒック………。
僕、そんなに、強くないもん。」
「ならずっと一生泣いてるんだな。」
「………っ。」
「嫌なら変われ。
………さっきは悪かった。
これ、やる。」
そう言い、彼は僕に近くの自販機で買ったであろう暖かいコンスープを渡してくれた。
「メリクリ。」
彼は優しく微笑み、白い息を吐きその場を離れた。
コンスープの温かさと、彼の本当の心の温かさで胸がいっぱいになった。
僕は、1口1口大事にコンスープを飲んだ。
その時間は何とも幸せだった。
「お前、ほんとコンスープ好きだよな。」
僕はあの日から、彼とよく行動することになった。
「そう?」
「あぁ。冬ならまだしも、夏までそんな暑いのよく飲むな。」
「うーん、これ飲むと、落ち着くっていうか……?」
「は、なんだよそれ。」
彼は目を細め、口角をあげ、ニッと笑った。
その瞬間、僕はドキッとした。
きっと少し顔が赤くなっているのはコンスープのせいだ。