Largo giocoso

Open App

『イブの夜』


12月24日、日が沈む時から25日の日が沈む時までしか現れない妖精がいるそうだ。

その妖精の見た目は栗色のした目に、ベージュ色のくせっ毛のあるロングヘア。
そして、膝下まである白色のノースリーブのワンピース。

そして、その子に出会うと1年、幸せになれる。


という、おとぎ話を母に、小さい頃聞かされた。


小さい頃の私はそれをそのまま信じて、ずっと待っていた。

けれども、その話を聞いて約10年が経ったが、未だに1回も会えていない。

本当に、いるのだろうか。



----------------



「ぁ………の………。」


「………?」


「………っ、やっぱり、なんでも、なぃ、です。」


12月24日 夜

今日はクリスマスイブらしい。
みんな、暖かいお家で幸せそうな顔をし机を囲む。

カーテンの隙間から漏れるその光は私には眩しかった。

そして、わたひはそれを羨ましく見ることしか出来なかった。

真冬なのにノースリーブの白いワンピース。

みんな、私のことを2度見はする。
心配してくれる人もいる。

けれども、私が望んでいるのはそんなことでは無い。

暖かいマフラーも、暖かいココアも、暖かい人々の心も、全部、違う。


私には、家族が欲しかった。


けれども、そんな人は居ない。

私はしばらく食べていなかったせいでフラフラと歩いた。


「(……寒い。)」


そりゃあ、そうだ。
今日は運悪く、初雪が降った。

私は先程貰った手袋をぎゅっと握り、路地でうずくまった。


「………。キミも、1人なの?」


そんな時、その子は突然現れた。


「……ボクと、同じだね。」


その子はショートだが、顔立ちは女の子だった。
その子はニカッと笑い、私の横にしゃがんだ。

「………これ、一緒に食べよう?」


その子は持ってきたホカホカの焼き芋を半分にわり、私に渡した。


「けど………」


「多分、今夜が最後だから。」


私は何も言えなかった。
私は、俯き、その子に手袋を片方渡した。

その子は一瞬驚いたが、ありかとう。
と、受け取ってくれた。



私たちは一緒にお芋を食べ、話した。

家族について。

サンタさんについて。

嫌いな食べ物とか、好きな食べ物の話。


その時間はとてつもなく幸せで、暖かかった。

眠ったらダメなのに、眠ったら死んでしまうのに、

私たちはそれに抗えなかった。

初めて出来た友達。

私はその子をぎゅっと抱きしめ、その子も私をぎゅっと抱きしめた。

私たちはマフラーを肩にかけ、お互い向かいあわせで凍った地面に寝そべった。

彼女の鼻は真っ赤だった。

きっと、わたしもだろう。



「また、話そうね。」

「うん。」

「次は、優しいお母さんの所に行こうね。」

「うん。」

「おやすみ。」

「………うん、おやすみ。」


私たちは眠っていくように静かに息を引き取った。

今日ほど、幸せな日はなかった。


次の日、私たちが眠っていた場所には2つ、大きな花束が置かれ、私たちが着けていたマフラー、手袋が添えられ、他にもたくさんのものが置いてあった。

それは、毎年置かれるようになった。
そして、みんな、手を合わせ私たちに挨拶をする。


私たちは12月24日の日没から12月25日の日没。
その人たち、優しい心を持っている人たちに順番に、お礼をした。

そして、お祈りをした。

彼女、彼らが幸せになれますように。

と。





12/24/2022, 5:39:08 PM