夜歌

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9/3/2023, 9:21:59 AM

 何かに熱くなるのを避け始めたのは、さていつからだったろう。なけなしのプライドが負け戦を厭うお陰で、無駄に傷付くことも無くなりはしたけれど。意識は高くも低くもなく、宙ぶらりんを漂っている。
 しかし、心の片隅で燃え続ける小さな炎を、消すことなんて出来やしない。どうせ、今度は燻り続けることが明白であるからだ。
 だけど、それでいい。抱く灯火は、猛火となり得ないかもしれないが、心が冷たくなるよりは良いはずだ。


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心の灯火

9/2/2023, 9:27:37 AM

 思いを伝えるために時間をかけて手紙を送っていた時代は、別に遥か昔の話じゃない。だのに、今やメッセージは電子に乗り、ほとんどリアルタイムに届く。今日も気が付けば大量の通知数。しかし、どれもが取るに足りない内容だ。労力を割かないお手軽さは、そのまま人間関係に反映されている。
 だから、本気になったほうが負けだったのだ。通知の波なんて今更慣れきっているのに、その中に目当てのものが紛れてやしないかと、指は諦め悪く画面をスクロール。そして、ありもしない期待に裏切られた後、通知欄の確認だけで終わる日々の繰り返し。
 だって、アプリを開いたら数字の付いていないトーク画面を見ることになる。手紙と違って届かないことを誰のせいにも出来ないなんて、この行き場のない気持ちはどこで消化すれば良いのだろう。


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開けないLINE

9/1/2023, 9:52:13 AM

 ああ、また気分が落ちてきた。自分にかかる重力がズンと大きくなった錯覚に陥って、何をするにも疲れるようだ。肥大した自己肯定感の低さは、僕の些細なやる気を一瞬で根こそぎ持っていく。頭の片隅では解っているのだ。満ち欠けがあっても月が月であるように、どんな僕も僕でしかないことを。
 それでも、今の自分には“何か”が足らず、その“何か”を手に入れさえすれば、僕はついに円を成せるのだなんて。そんな根拠のない期待に、性懲りも無く縋ってしまう。“何か”の正体も解らないくせに。僕は僕のことを、認められないのだ。


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不完全な僕

8/31/2023, 9:27:17 AM

 香りは記憶に直結するらしい。今し方すれ違った人のことを間違えようがないのも、言葉を交わしていないのに思い出がぶわりと呼び起こされたのも、恐らくは変わっていなかった香水のせいだ。一気に心臓を打つ痛み。知らないふりが上手に出来ず、わたしは足早にその場を立ち去るしかなかった。
 プルースト効果って知ってる? ──いつの日か、その人が口にした問い。いつも同じ香りを身に纏っているのには、ちゃんと理由があるのだと。その時は面映さから笑ったものだけど、今となっては知りたくなかったとさえ思ってしまう。「いつでも君に見つけてもらえるようにだよ」
 わたしはきみを忘れたいのに。脳に染み付いた香りが、いまだに消えてくれやしない。


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香水

8/30/2023, 8:29:42 AM

 触れたいと思った。こんな丸裸の感情を抱いたのは初めてだ。まるで純情と劣情を行き来するような、光が散っては集まる感覚だった。心のままに掴もうとするも、途中で思い止まる。己の手は汚れてやしなかっただろうか。今更どうしようもないことが気になって、尻込みした指先が静かに垂れる。「いくじなし」向けられた鋭い指摘は、耳心地の良い柔らかな響きを持っていた。

 嘘を吐いた。本当は言葉も欲しい。ただ、今は語られる文字の羅列ごと、飲み込んでしまおう。


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言葉はいらない、ただ・・・

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