香りは記憶に直結するらしい。今し方すれ違った人のことを間違えようがないのも、言葉を交わしていないのに思い出がぶわりと呼び起こされたのも、恐らくは変わっていなかった香水のせいだ。一気に心臓を打つ痛み。知らないふりが上手に出来ず、わたしは足早にその場を立ち去るしかなかった。
プルースト効果って知ってる? ──いつの日か、その人が口にした問い。いつも同じ香りを身に纏っているのには、ちゃんと理由があるのだと。その時は面映さから笑ったものだけど、今となっては知りたくなかったとさえ思ってしまう。「いつでも君に見つけてもらえるようにだよ」
わたしはきみを忘れたいのに。脳に染み付いた香りが、いまだに消えてくれやしない。
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香水
8/31/2023, 9:27:17 AM