黒咲由衣

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2/9/2025, 12:42:07 PM

ずっとずっと、追いかけていた。

君のその輝きに、ずっと見惚れていたんだ。

私は君に近づきたかった。
君を目に焼き付けておきたかった。

君が羨ましかった。
君が妬ましかった。
君が憎らしかった。

君を超えたくてたまらなかった。
そして、君が欲しくてたまらなかった。

君が吐くそのCO2にさえ嫉妬する日々。

長い長い梅雨が終わり、汗ばむこの季節。
蝉がしゃあしゃあと音を立て、私の聴覚を遮る。
張り付くワイシャツ。とても暑くて、気持ち悪い。
絶対的に透ける下着を悟られないように、
半ば強制的に紺色のベストを揺らしていた。

様々な妄想をする。
私と君が付き合ったら。
私と君がハグをしたら。
私と君がキスをしたら。
私と君が指を絡ませ合い、
私と君が────

「おい、聞いてんのかー。」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
突然、私の意識は舞い戻ってきた。
あれ、私、何考えて…?
いやいやいや。そんな、下品なこと………
「教科書92ページ。読んでくれ。」
「え、は、はい……。」

私が君より後ろの席でよかった。
だって、ずっと君を眺めていられるんだもん。
隣の席になるよりも、このくらいの距離感の方がいい。
君は私に気づくこともなく、
君は私に接することもなく、
ただひたすらに、私だけが得をする空間。

……なんて最高なんだ!!

この席は君の背中が見える。
エアコンが当たらないことなんか気にならなかった。
この席は君の背中が見える。
先生から見やすい位置なことなんか気にならなかった。

そんな日々があと数日だけ続いて。

“放課後、体育館裏に来てください”

「………?」
夏休み前最終日の今日、
ロッカーの中に、一通の手紙が入っていた。

特に断る道理もないので了承することにした。
しかし、万が一警察沙汰に巻き込まれては嫌なので
こっそり、カメラだけは仕込んでおくことにした。

放課後。

「………ッ!!」

そこには君がいた。
君が、まっすぐ、こちらを見ている。

君が。
ずっとずっと大好きだった、君が。

「あ、あの……っ」
君が口を開く。

私はその声を聞いた。
君の声だ。確実に君の声だ。
私に向かって、言葉を発している…?
君だ。絶対的に君だ。

「私っ。」
「あなたに見られてるの、ずっと知ってたから…」

私が君を見ていたことを、君は知っていた?
私が君を見ていたことを、君は知っていたの?
私が君を、君の背中を、ずっとずっと見ていたこと。

「あなたについて考えているうちに、気づいたの…」

そう考えているうちに、私の思考は停止した。

「わ、私…あなたのことが好きです。」
「付き合って…くれませんか…?」

「あ…ぇ…」
私は声が出なかった。
思考回路がもうめちゃくちゃだった。
君が?私に?付き合って…だなんて

そんなの、許されるはずがない……!!!
だって、だって………!!!!

「ぇ…あ…あぅ、あっ……!!!」

そうやって私は結局、
YesもNoも言えないまま逃げ出した。
大粒の涙を流しながら逃げ出した。
相変わらず蝉はしゃあしゃあと音を立てていたし、
ワイシャツは汗で張り付いて気持ち悪かったけど、
そんなことはどうでもよかった。

走った。とにかく走った。全速力で走った。
入道雲に見下された、真っ青な夏を
どこまでも、どこまでも走っていった。

私は君の背中を見ていただけだったんだ。
君の背中を見て、
君の背中を追っていただけだったんだ。
ただ、それだけなんだ。それだけ……。

私が君を変えた…?
私のせいで…?私が見ていたせいで…?
君は私を見るべきではない。
それは君じゃない。私が求める君じゃない…っ!!

そんなの、許されるはずがない……!!!
だって、だって………!!!!



君には彼氏がいるではないか!!!!

1/31/2025, 12:37:13 PM

僕はきっと、これから死ぬのだろう。
朦朧とする意識の中で、そんなことを考えていた。

走馬灯は見れない。
何故なら僕が、何も成し遂げていないから。

コンビニでお酒を買った帰り、
信号無視の車に撥ねられた。
それはもう、ことごとく綺麗に宙に浮いたさ。

僕だって横断歩道を適切に渡っていたし、
完全に悪いのは向こうの方だ。
僕は善人でもないが、悪人でもないのだ。

就職活動に行き詰まり、
ちょっと、ちょっとだけ、悩んでいたのはそうだが。

僕には趣味が無い。夢も無い。目標も無い。
なんとなく生きて、なんとなく死んでいく。
今までもそうだったし、これからもそうだった。

…でも、どうしてだろう。
いつ死んでも変わらないような人生なのに、
まだ生きていたいと願ってしまう、この気持ちは…。

僕はまだ何かを、成し遂げたかったのか…?
まだ、諦めてなんかいなかったのか…?

僕は、僕の気持ちに気づいていなかった。
僕の心の内に秘めたる熱意に。

そうだ。
僕は子供の頃、漫画家になりたかったじゃないか。
怪我が治ったら、久しぶりに絵を描いてみよう。
自分の下手さに絶望して一度はやめた、絵を…。

朧気な記憶のまま、僕は息を引き取った。
その遺体は、満足げに微笑んでいるように見えた。

1/18/2025, 10:00:48 AM

風のいたずらだった。
麦わら帽子が、あの子のところへ。
ふわりふわりと、飛んでいった。

波打ち際。

「すみません、取ってください」
人との接し方なんてわからない私は、
サッカーボールが転がった時のような台詞を
思わず口にしてしまった。

あの子は小さな手で
落ちた麦わら帽子を拾い上げ、砂を払うと、
一切表情を変えないまま、力いっぱい振りかぶった。

私は何が起きたのかわからなかった。
気づいたら、天地は反転し、体の感覚はなかった。

首が跳ね飛ばされていた。
首と共に切られた黒髪ロングの美しい髪が、
色鮮やかな鮮血と共に舞った。

あの子はまるでフリスビーを投げるかのように、
強く、しなやかに、そして的確に、
私の首を跳ね飛ばした。一切の表情を変えずに。

私は唖然とした。
この子は、この子は、人間じゃない。

宙を駆けた生首が、鈍い音を立てて砂浜に落ち、
ごろごろと転がっていった。

波の音はいつもと変わらず、
一定のリズムで満ち干きを繰り返している。


「ねえ、お姉さん」
「お姉さんも、僕と同じ?」
そうあの子が聞いてくるもんだから、私は仕方なく
心臓を内側から破り、姿を現した。

1/15/2025, 5:11:12 PM

※今回は創作小説ではなく、事実に基づいた日記です。
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あなたのもとへ行きたかった。
ずっと、あなたに追いつきたかった。


自慢じゃないが、私は成績トップだった。
しかし、運動がてんでダメだった。
それでもそれなりに人脈はあり、
多分、信頼関係もおかれていたと思う。

だけど私には到底、届かない人がいた。
それが、同じクラスの彼だった。

彼もまた、成績優秀者だった。
運動神経もよく、体力もある。
いつもずっと忙しなく動いている人だった。
友人はいるようだったが、
プライベートを大切にしているのか、
1人でいるところをよく見かけていた。

この学校は偏差値が低いところだから、
悪く言ってしまえば、馬鹿しかいない。
私もそのうちの1人。
しかし、こんな馬鹿な学校に
どうしてあんなに聡明な彼がいるのか、
不思議で仕方なかった。

私は彼のことが気になっていた。
気になっていた、というのは、読んで字の如くだ。
私は恋愛感情をイマイチ理解しきれないところがあるので
彼のことが好きかと言われても、何も答えられない。

基本的に教室はうるさい。
騒ぎ立てる。スピーカーで音を流す。熱唱する。
興味本位でdB数を測ってみたら、MAXが88とか。
工事現場に匹敵する騒音。

こんな空間だと、席から1歩も動かずに
静かにしていられる、というだけで貴重なのだ。
彼はあまり人と群れなかった。

でも、だからこそ、
なんだか近寄り難い雰囲気を感じてしまって
関わり方がわからなかった。

授業で一緒の班になった時は話せていた。
事務的な話しかしていなかったから。
だけど、個人的な話となると別だ。
最初の一歩。それが中々踏み出せなかった。

そんな日々が数ヶ月続いた。

クラス替えをした4月の当初から、気になってはいた。
けれど、なんだか人間が怖くて。
実際にマトモに話すことが出来たのは、
文化祭の準備をする期間。つまり、9月の終わりだった。

彼は物持ちが良かった。
彼が使っていた水筒には、
10年前のポケモンが描かれていた。
ちょうど、私たちの世代のポケモンだ。

私は今でもポケモンが好きなのだが、
こんな子供らしい趣味、馬鹿にされても
おかしくないと思ってしまって、
さりげなく聞いた。

「『まだ』ポケモン好きなの?」と。

すると彼はどうだ。
いざ蓋を開けてみれば、彼は対戦ガチ勢だったのだ。

私は対戦は一切せず、図鑑を集める方の人間だったので
正直、話にはあまりついていけなかったが、
ずっと仲良くしたいと思っていた彼と
曲がりなりにも共通の趣味があったことが
心の底から嬉しかった。

そこからはよく覚えていない。
彼のLINEを手に入れてからは、
よくLINE上で会話していた。

電話が苦手なのと同じ理論で、
私は口下手だけど文面にすると流暢な
タイプのコミュ障だったからだ。

だけど段々と、対面でも話せるようになってきて
いつしか、手に触れることも許してくれた。

それでも私はなんとなく、
彼との壁を感じてしまっていた。

「多大なる尊敬と嫉妬」
この言葉が似合う人だった。

でも彼は、私のことを「友達」だと言った。
私は驚いた。友達だったのか?って。
思えば私は友達かそうじゃないかの線引きも曖昧だ。

嬉しかった。
彼に認めてもらえること。
特別じゃなくてもいいから、私を私として
個として見てくれるのが堪らなく嬉しかった。

そんな彼のことをもっと知りたいと思って、
たくさん話をした。

そんな中でも、特に彼を尊敬しているところが、
自己肯定感が高いところだ。

私はある時、彼に聞いてみた。
どうしてこの学校に来たのかと。
すると彼は言った。

「家から1番近かったから」

私は唖然とした。
長年の疑問があっさりと解かれてしまった。
私は馬鹿な自分を変えたくて、
必死の思いでここに入学したっていうのに。

曰く、彼は馬鹿ではない。それは昔からのようだった。
家から近いからとここの学校を志願した時、
当時の先生から止められたようだ。
何故なら、偏差値的にもっといい所へ行けるから。

でも、彼は自分の意見を曲げなかった。
それが私には随分、猟奇的に見えた。

それを無しにも彼は、常に自分ファーストだ。
自分の時間を大切にする。人に振り回されない。
そして何より、自分で自分を肯定していた。

私は逆。地の底まで自己肯定感が低い。
結果を出せなかった自分を変えたくて、挽回した。
そのお陰で、私は成績優秀者になれた。
でも、自分を誇ることは出来なかった。

他人が見たら絶対に羨むような、
そんな素晴らしい結果を手に入れても、だ。
こればかりは性格なんだと思う。
だから、当分の目標は「自己肯定」だ。

私は彼のような、かっこいい人になりたい。
そしてら彼のような、強い信念を持ち、
自分の為に生きれる人になりたい。

その為にも私は、彼に興味がある。
心の内から湧き上がるこの探究心に支配されてゆく。
彼のことをもっと知りたい。

あなたのもとへ行きたかった。
だから、あなたのもとへ行った。
そうしたらどうだ。とても幸せだった。

彼は私のことを優しく肯定してくれた。
それがとても嬉しかった。

憧れ。
多大なる尊敬と嫉妬。


眠くなってきたので、そろそろ終いにします。
長文お連れ様でした。

1/13/2025, 5:29:52 PM

僕は知らないうちに、抑圧され続けてきたんだと思う。

18になってやっと、門限が撤廃された。
今までは午後6時には家に着かないといけなかった。
門限を破ったらこっぴどく叱られて、
次の日はスマホを取り上げられてしまうので、
僕は従うしかなかった。

そもそも、与えられたスマホも連絡用で、
保護者権限で隅々までチェックが入る。
学校の友達にゲームを誘われても、
インストールするのにいちいち許可が必要だった。

厄介なのが、大抵、インストールを拒否されること。
家族との連絡用に、と入れたLINEくらいしか
まともなアプリは入れさせて貰えなかったんじゃないか。
僕はもっとソシャゲをやってみたかったのに。
2次元の女の子とキャッキャウフフしたかったのに。
今まではそれが叶わなかったわけだ。

それもやっと撤廃された。
18になって、やっとだ。
曲がりなりにも成人したんだ、
そう強く噛み締めた。

特にそうゆう意識が色濃く出たのは、
空の色の変化だった。

今まではお母さんに怒られるのが怖くて
早め早めに家に帰っていたので、
空を見る暇もなかったのだが、
やっと気づいたことがある。

門限であった時間を過ぎると、
空はどんどん色を変え、深みを増していくこと。

こんな空、知らなかった。
淡い光が水溜まりを染めていくのを初めて見た。

僕も18なのだから行こうと思えば
パチンコ屋にでもなんでも行けるのだが、
そんなことより、星が綺麗で仕方がなかった。

僕は今日も、愛すべき『彼女』を携えて、
夜の地元を散歩するのだ。
新たな星を見つけるために。

まだ見ぬ景色を求めて

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