黒咲由衣

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3/28/2025, 5:32:21 AM

春の匂いがする。

名残惜しい別れと、
新天地への期待を
胸に秘める。

雨の匂いがする。
もうすぐ、この桜も散る。

彼の匂いがする。
私からは逃げられない。


お題『春爛漫』

3/27/2025, 9:58:52 AM

「ふふっ、ありがとう」
1,嬉しい表情。

「嘘でしょ?そんなぁ…」
2,悲しい表情。

「ちょっと。真面目にやって」
3,怒った表情。

「ごっ、ごめんなさいっ!!」
4,怯えた表情。

「いやぁ、そんなことないよぉ~」
5,照れた表情。

「うわぁっ!な…なんだよぉ、もう~…」
6,驚いた表情。


僕が密かに思いを寄せているあの子は、
コロコロと表情を変える。
その様を傍から見ているだけで面白くて、
無関係なこちらまで幸せな気持ちになってくる。

だけどあの子には彼氏がいる。
僕よりもずっと背が高くて、頭も良くて、
性格も良い、完璧な年上男性だと聞いた。

僕なんか、関わったこともない、知り合い以下。
そもそも眼中に無いだろう。
それに、我ながら言うのも悲しいが、
僕なんかは君には釣り合わない。

こんなド陰キャでコミュ障な僕なんか…
友達すらいない僕なんか、存在が空気な僕なんかに
あんなにキラキラ輝く君は、到底釣り合わないのだ。


──と、思っていた。


「あれ…君、同じクラスの…だったよね?」
「あちゃあ…見つかっちゃったかあ~…」

僕は目を疑った。

背筋が凍り、足がすくみ、膝をガタガタと震わせて、
一刻も早くその場から立ち去りたいのに、
体が言うことを聞かなかった。

「まぁ、見られちゃったんなら…」
「生かしては、おけないよねェ。」

あんなにキラキラと輝いていた君が、
笑顔が素敵だった君が、天真爛漫な君が、
そこで何をしているんだ…?

もしかして、その男の人は、彼氏さん?
どうして、血まみれなんだ?
そのナイフは?

まさか…殺したのか?

聞きたいことは山ほどあったが、
混乱した頭と、言うことを聞かない体では、
流暢に喋るなんてことは、到底出来なかった。

7,
見たこともないような、
色気のある、
恍惚とした表情。

ゆらゆらとあの子が近づいてくる。
ふわりと、何かの香水の匂いがして、
不覚にも僕は心臓の鼓動を早め、唾を飲む。

「ねぇ、君────」

そう声が聞こえたのもつかの間、
いつの間にかあの子は、僕の目の前にいた。
心臓が破裂しそうだ。
ゼロ距離だった。唇が触れそうだった。

「私の事、好きでしょ」

そう言ってあの子は上目遣いで、
僕を嘲笑うかのように、憎たらしく笑った。
鮮やかな返り血を浴びながら。



お題『七色』

3/19/2025, 3:49:14 PM

「ねえ、どこ行くの?」
僕は君のその、小さくて白い手を掴んで走った。
ただ何も言わずに走った。
清楚な君の黒いロングヘアが揺れている。
白いワンピースに、大きな麦わら帽子。
裸足は草で所々切れて流血している。

「どこまで…っは、どこまで行くの?」
僕は白い半袖Tシャツに汗を滲ませる。
カーキ色のホットパンツに、青いスニーカー。
下の歯は最近抜けたばかりだった。

「ねえ、ねえってば」
僕は君の声が聞こえないフリをした。
君は執拗に問いかけてくるが、それどころではない。
僕に出来ること。僕にしか出来ないことだった。

焼けるほど暑い夏。
蝉は大合唱を捧げ、蚊はここぞとばかりに群がる。

僕は決して、白くて柔らかいその手を離さなかった。
僕は決して、夏休みの宿題に手をつけなかった。


「僕は──」

「君が好きだ」


そうやって微笑む。

焼けるほど暑い夏。
君は涙を流す暇もなく堕ちた。


「これでずっと一緒にいられるね」


小学4年生の夏休み。
僕は君を崖に突き落とした。

山の上には綺麗な花が咲いていたが、
斜面は岩石と根を張った木ばかりで
転げ落ちたらひとたまりもない危険だった。

僕は君のその純粋無垢な笑顔が好きだった。
華奢な手が、白い肌が、大きな目が、そばかすが、
優しさが、正しさが、弱さが、
その全てに僕は魅了されていた。

君が悪いんだ。
君はそんなに清く正しく素晴らしい人なのに、
不良じみているようなガラの悪い奴と
付き合ってしまったのが間違っていたのだ。

絶対的にそうだ。君にアイツは釣り合わない。
僕は何度もそう言った。
でも君は、誰にも見た事のないような苦笑いと
その奥に潜めた嫌悪をあらわにした。

おかしい。間違っている。
きっと騙されているに違いないんだ。
何か、弱みを握られているんだ。そうだ。

僕はアイツから、君を救わなきゃいけない。
そう思った。

でも、喧嘩の強いアイツには、力では勝てなかった。
だけど、こんなに気弱な僕でも、
華奢な女の君よりは流石に上だった。

だから君を殺した。
アイツから引き剥がし、僕と付き合ってもらうために。
僕のものにするために。
ずっとずっとずーっと、僕と一緒にいられるように。

「これで、永遠に一緒だね」
僕はそう言って、生い茂った草木にマッチをつけた。

あたたかな光に包まれながら、ゆっくりと目を閉じる。
僕は紅く染まった君に、優しくキスをした。


花畑に、小さなピンクのサンダルが落ちていた。
そして、夏休みの宿題は最後まで白紙だった。


お題『どこ?』

3/8/2025, 2:11:28 AM

らららコッペパン
らららコッペパン

どうしてコッペパンなの?

語感じゃない?

2/18/2025, 8:59:27 PM

「あれぇ~、どこいったっけな……」
俺は“お手紙”を探していた。

とは言っても、本物の手紙ではなくて
学校から配布されたプリントのことだ。
小学生の頃から母に「お手紙出して」と
言われ続けたせいで、高校に入学した今でも
その癖は抜けていない。

「あっ。これかな」
俺は真っ黒なスポーツリュックの中から
くしゃくしゃになった紙の束を引っ張り出し、
その中から異様な雰囲気を放つ
“お手紙”を1枚、引っ張り出した。

両手で軽く紙についたシワを整える。

「はい、コレ。あったよ」
そう言って母親に“お手紙”を渡すと、
次の瞬間から俺の意識は飛んだ。

───そう、赤紙。
異様な雰囲気を放つ、真っ赤な紙。

俺は怒鳴り声をBGMにして、
たわいもない妄想に耽るなどしていた。
保育園時代仲良かったアイツ元気かな、とか。

「え?あぁ、あのお手紙?どこやったっけな…」

“お手紙”だけでなく、整理整頓が苦手なのも
小学生時代から変わっていない。

『手紙の行方』

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