黒咲由衣

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「ふふっ、ありがとう」
1,嬉しい表情。

「嘘でしょ?そんなぁ…」
2,悲しい表情。

「ちょっと。真面目にやって」
3,怒った表情。

「ごっ、ごめんなさいっ!!」
4,怯えた表情。

「いやぁ、そんなことないよぉ~」
5,照れた表情。

「うわぁっ!な…なんだよぉ、もう~…」
6,驚いた表情。


僕が密かに思いを寄せているあの子は、
コロコロと表情を変える。
その様を傍から見ているだけで面白くて、
無関係なこちらまで幸せな気持ちになってくる。

だけどあの子には彼氏がいる。
僕よりもずっと背が高くて、頭も良くて、
性格も良い、完璧な年上男性だと聞いた。

僕なんか、関わったこともない、知り合い以下。
そもそも眼中に無いだろう。
それに、我ながら言うのも悲しいが、
僕なんかは君には釣り合わない。

こんなド陰キャでコミュ障な僕なんか…
友達すらいない僕なんか、存在が空気な僕なんかに
あんなにキラキラ輝く君は、到底釣り合わないのだ。


──と、思っていた。


「あれ…君、同じクラスの…だったよね?」
「あちゃあ…見つかっちゃったかあ~…」

僕は目を疑った。

背筋が凍り、足がすくみ、膝をガタガタと震わせて、
一刻も早くその場から立ち去りたいのに、
体が言うことを聞かなかった。

「まぁ、見られちゃったんなら…」
「生かしては、おけないよねェ。」

あんなにキラキラと輝いていた君が、
笑顔が素敵だった君が、天真爛漫な君が、
そこで何をしているんだ…?

もしかして、その男の人は、彼氏さん?
どうして、血まみれなんだ?
そのナイフは?

まさか…殺したのか?

聞きたいことは山ほどあったが、
混乱した頭と、言うことを聞かない体では、
流暢に喋るなんてことは、到底出来なかった。

7,
見たこともないような、
色気のある、
恍惚とした表情。

ゆらゆらとあの子が近づいてくる。
ふわりと、何かの香水の匂いがして、
不覚にも僕は心臓の鼓動を早め、唾を飲む。

「ねぇ、君────」

そう声が聞こえたのもつかの間、
いつの間にかあの子は、僕の目の前にいた。
心臓が破裂しそうだ。
ゼロ距離だった。唇が触れそうだった。

「私の事、好きでしょ」

そう言ってあの子は上目遣いで、
僕を嘲笑うかのように、憎たらしく笑った。
鮮やかな返り血を浴びながら。



お題『七色』

3/27/2025, 9:58:52 AM