風のいたずらだった。
麦わら帽子が、あの子のところへ。
ふわりふわりと、飛んでいった。
波打ち際。
「すみません、取ってください」
人との接し方なんてわからない私は、
サッカーボールが転がった時のような台詞を
思わず口にしてしまった。
あの子は小さな手で
落ちた麦わら帽子を拾い上げ、砂を払うと、
一切表情を変えないまま、力いっぱい振りかぶった。
私は何が起きたのかわからなかった。
気づいたら、天地は反転し、体の感覚はなかった。
首が跳ね飛ばされていた。
首と共に切られた黒髪ロングの美しい髪が、
色鮮やかな鮮血と共に舞った。
あの子はまるでフリスビーを投げるかのように、
強く、しなやかに、そして的確に、
私の首を跳ね飛ばした。一切の表情を変えずに。
私は唖然とした。
この子は、この子は、人間じゃない。
宙を駆けた生首が、鈍い音を立てて砂浜に落ち、
ごろごろと転がっていった。
波の音はいつもと変わらず、
一定のリズムで満ち干きを繰り返している。
「ねえ、お姉さん」
「お姉さんも、僕と同じ?」
そうあの子が聞いてくるもんだから、私は仕方なく
心臓を内側から破り、姿を現した。
1/18/2025, 10:00:48 AM