黒咲由衣

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僕はきっと、これから死ぬのだろう。
朦朧とする意識の中で、そんなことを考えていた。

走馬灯は見れない。
何故なら僕が、何も成し遂げていないから。

コンビニでお酒を買った帰り、
信号無視の車に撥ねられた。
それはもう、ことごとく綺麗に宙に浮いたさ。

僕だって横断歩道を適切に渡っていたし、
完全に悪いのは向こうの方だ。
僕は善人でもないが、悪人でもないのだ。

就職活動に行き詰まり、
ちょっと、ちょっとだけ、悩んでいたのはそうだが。

僕には趣味が無い。夢も無い。目標も無い。
なんとなく生きて、なんとなく死んでいく。
今までもそうだったし、これからもそうだった。

…でも、どうしてだろう。
いつ死んでも変わらないような人生なのに、
まだ生きていたいと願ってしまう、この気持ちは…。

僕はまだ何かを、成し遂げたかったのか…?
まだ、諦めてなんかいなかったのか…?

僕は、僕の気持ちに気づいていなかった。
僕の心の内に秘めたる熱意に。

そうだ。
僕は子供の頃、漫画家になりたかったじゃないか。
怪我が治ったら、久しぶりに絵を描いてみよう。
自分の下手さに絶望して一度はやめた、絵を…。

朧気な記憶のまま、僕は息を引き取った。
その遺体は、満足げに微笑んでいるように見えた。

1/31/2025, 12:37:13 PM