ずっとずっと、追いかけていた。
君のその輝きに、ずっと見惚れていたんだ。
私は君に近づきたかった。
君を目に焼き付けておきたかった。
君が羨ましかった。
君が妬ましかった。
君が憎らしかった。
君を超えたくてたまらなかった。
そして、君が欲しくてたまらなかった。
君が吐くそのCO2にさえ嫉妬する日々。
長い長い梅雨が終わり、汗ばむこの季節。
蝉がしゃあしゃあと音を立て、私の聴覚を遮る。
張り付くワイシャツ。とても暑くて、気持ち悪い。
絶対的に透ける下着を悟られないように、
半ば強制的に紺色のベストを揺らしていた。
様々な妄想をする。
私と君が付き合ったら。
私と君がハグをしたら。
私と君がキスをしたら。
私と君が指を絡ませ合い、
私と君が────
「おい、聞いてんのかー。」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
突然、私の意識は舞い戻ってきた。
あれ、私、何考えて…?
いやいやいや。そんな、下品なこと………
「教科書92ページ。読んでくれ。」
「え、は、はい……。」
私が君より後ろの席でよかった。
だって、ずっと君を眺めていられるんだもん。
隣の席になるよりも、このくらいの距離感の方がいい。
君は私に気づくこともなく、
君は私に接することもなく、
ただひたすらに、私だけが得をする空間。
……なんて最高なんだ!!
この席は君の背中が見える。
エアコンが当たらないことなんか気にならなかった。
この席は君の背中が見える。
先生から見やすい位置なことなんか気にならなかった。
そんな日々があと数日だけ続いて。
“放課後、体育館裏に来てください”
「………?」
夏休み前最終日の今日、
ロッカーの中に、一通の手紙が入っていた。
特に断る道理もないので了承することにした。
しかし、万が一警察沙汰に巻き込まれては嫌なので
こっそり、カメラだけは仕込んでおくことにした。
放課後。
「………ッ!!」
そこには君がいた。
君が、まっすぐ、こちらを見ている。
君が。
ずっとずっと大好きだった、君が。
「あ、あの……っ」
君が口を開く。
私はその声を聞いた。
君の声だ。確実に君の声だ。
私に向かって、言葉を発している…?
君だ。絶対的に君だ。
「私っ。」
「あなたに見られてるの、ずっと知ってたから…」
私が君を見ていたことを、君は知っていた?
私が君を見ていたことを、君は知っていたの?
私が君を、君の背中を、ずっとずっと見ていたこと。
「あなたについて考えているうちに、気づいたの…」
そう考えているうちに、私の思考は停止した。
「わ、私…あなたのことが好きです。」
「付き合って…くれませんか…?」
「あ…ぇ…」
私は声が出なかった。
思考回路がもうめちゃくちゃだった。
君が?私に?付き合って…だなんて
そんなの、許されるはずがない……!!!
だって、だって………!!!!
「ぇ…あ…あぅ、あっ……!!!」
そうやって私は結局、
YesもNoも言えないまま逃げ出した。
大粒の涙を流しながら逃げ出した。
相変わらず蝉はしゃあしゃあと音を立てていたし、
ワイシャツは汗で張り付いて気持ち悪かったけど、
そんなことはどうでもよかった。
走った。とにかく走った。全速力で走った。
入道雲に見下された、真っ青な夏を
どこまでも、どこまでも走っていった。
私は君の背中を見ていただけだったんだ。
君の背中を見て、
君の背中を追っていただけだったんだ。
ただ、それだけなんだ。それだけ……。
私が君を変えた…?
私のせいで…?私が見ていたせいで…?
君は私を見るべきではない。
それは君じゃない。私が求める君じゃない…っ!!
そんなの、許されるはずがない……!!!
だって、だって………!!!!
君には彼氏がいるではないか!!!!
2/9/2025, 12:42:07 PM