ね。

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12/10/2025, 4:18:54 AM

私は、書き続ける。
右手に常にペンを持ち、動くままに書き続ける。自然とそれは言葉になり、文になり、物語になっていく。




20歳を迎えた朝、私の指先は、異常に冷たくなっていた。誕生日は7月なので、季節外れだったが、クローゼットから手袋を出してきて数日過ごしてみた。しかし、あたたまるどころか、指先はどんどん冷えていく一方だった。医者にいっても原因は分からず、私は途方に暮れてしまった。
そんな私の元に、差出人不明の手紙が届いたのは、8月のあたまのことだった。



『右手にペンを持ち、とにかく書き続けること。』 
ポストの奥にひっそり置いてあった封筒の中には、白い紙切れ1枚と水色の美しいペンが入っていた。


訳が分からないが、とにかく私はペンを右手に持ち、家にあったノートに文字を書いてみた。すると、スラスラとペンが動いたのだ。私の意識とは違う、ペンが意図をもって何かを書いているのだ。不思議だった。どんどんノートは埋まっていく。ピタッとペンが止まったとき、私はあれほど冷たかった指先があたたまっていることに、気づいた。





あれから数年。
私はひたすら書き続けている。
書いた物語たちが、これからどうなっていくのかは、わからない。わからないが、私は自分の指先が凍えてしまわないよう、ペンを持ち続けるしかないのだ。


12/9/2025, 4:24:36 AM

寒さで目が覚め、窓の外をみると、あたり一面雪の原が広がっていた。静かな静かな朝だ。


「ああ、もう足跡も消えてしまったな…」
わずなや雪の上に残された足跡だけが、彼女の手がかりだった。こんなに雪が積もってしまっては、もはやその足跡はすべてなくなってしまっただろう。


昨晩遅く、ボクは彼女がいないことに気づいた。いつも部屋にこもって絵を描いている彼女は、夜遅くまで起きていることも多い。ドアのすき間からランプの灯りがもれていたものの、なんとなく人の気配を感じず、部屋をそっと覗いたのだ。
描いている作品はそのままキャンバスに置かれ、飲みかけのコーヒーもそのまま。彼女だけがすっぽり消えていた。ボクは慌ててあちこち探したが、見つけたのは窓の外に続く彼女の足跡だけだった。


彼女はコートを羽織らず出ていったから、もしかしたら寒さで帰ってくるかもしれない、と思い、ボクは家で待つことにした。気まぐれな彼女のことだから、すぐ帰ってくるさ、とのんきに考えていたのだ。しかし、彼女は帰ってこなかった。いつの間にか眠ってしまっていたボクは、すぐに追いかけなかったことを心から後悔した。





「雪原の先に何があるの?」
ふと、彼女がこう言っていたことを思い出した。彼女は、窓の外をよく見ていた。新しい何かを見つけたい彼女の気持ちは、正直ボクにもよく分かった。しかし、村の人びとが謎の病で次々と倒れ、いまはボクたち二人きりでなんとか生きている状況で、この場から出ることは怖かった。そとの世界に飛びだす勇気がボクにはなかったのだ。慎ましくも彼女と暮らす、いまこの場が安全なんだ、と言い聞かせて日々暮らしてきたのだ。

…でも、彼女はいなくなってしまった




「仕方ないな。行くか。」
ボクは彼女のコートをリュックに詰めこみ、ブーツの紐をキツく結んだ。気合いを入れて、力強く足を踏み出す。彼女の足跡は消えてしまったが、方向は覚えている。


雪原の先へ、ボクは進んでいく。

12/8/2025, 6:32:55 AM

その少女が息を吐くと、たちまち周囲が凍りはじめる。そして、少女が笑うと、凍ったものたちが溶けはじめる。その不思議な光景をみたものは、二度と村に戻ることがないという……



銀色の長い髪、透きとおるような肌のその少女は、幼い頃から一人で森の奥に住んでいた。村の人びととは一切関わることがなく、どうやって生活しているのか謎だった。昼間は外出することがなく、星が輝く夜にふらふらと森の中を彷徨い歩く。村の人びとは少女を奇妙に思っていたし、木々を凍らせたり溶かしたりしている、という噂を信じて少女に近づくことを怖れていた。




ある晩、村で1番勇敢な若者がその少女の姿をひと目みたくて森の中に入った。夜の森はしん、としてとても静かだった。若者は少女を探して森の中をぐんぐん歩いたが、なかなか見つからなかった。疲れて切り株に腰をおろした若者が夜空を見上げると、数々の星たちがキラキラと瞬き、優しいメロディーを奏でていた。とても美しかった。
ふと目の前を見ると、少女が立っていることに気づいた。その美しい姿に圧倒された若者は言葉が出ず、息を呑んだ。この世のものとはおもえないほどの美しさだった。


少女は、若者の横に立ち、ふう~っと、息を吐いた。辺り一面が輝き、凍りついた。若者はその様子を見て驚き、少女の顔をマジマジと見つめた。少女はびっくりする若者をみて、ほのかに笑った。すると今度は辺り一面が凍り付いていたたものたちがきらめきながら溶け出した。少女は若者の顔をもう一度見つめ、何もいわず去っていった。


明け方、村に戻った若者は、昨晩少女に会った話を友人たちにした。そして、皆でそこへ行ってみることにした。ようやく見つけたその場所には、少女の姿はなかったが、白い鈴のようなたくさんの花が咲いていた。風が吹くとチリンチリン、と鳴る、ちいさな可愛らしい花たちだった。
それから、村の人々はその少女のことを怖れることはなく、「スズラン」と呼んでいるという。

12/7/2025, 6:34:26 AM

その神殿には、『永遠の灯火』という、とてもとても大切なランプがありました。神殿の奥に大切に置かれているそのランプは、火が消えることのないように毎日街の人びとによって火が灯され続けていました。


今日は、エレンの初めてのお役目の日でした。火を灯すのは毎朝6時と決まっています。普段から大人しいエレンは、ドキドキで一睡もできませんでしたが、朝家を出るときに、弟のリアに「お兄ちゃんがんばって!」と声をかけられ、少しだけ緊張の糸がほどけたのでした。


エレンは神殿に着くと、教えてもらったとおりに白い衣を纏いました。そして、太いローソクに火をつけ、ゆっくりと呼吸を整えてから、静かに神殿の奥に歩き始めました。ランプのある場所までこの火を消してはなりません。コツコツコツコツ…と、エレンが歩く音が神殿内に鳴り響きます。そのとき、背後からびゅるん!と風が吹き、びっくりしたエレンは手に持っているローソクを床に落としてしまいました。



「…?!」

エレンは何が起こったのか分からず、その場に立ちすくんでしまいました。下をみると、落ちたローソクの火は消えています。涙がとめどなく流れ出てきました。どうすることもできないエレンは、ただローソクを見つめることしかできませんでした。





…どのくらい時間が過ぎたでしょう?
神殿の奥がなにやら光っています。だんだんとその光が強くなっています。エレンはその光に気づくと、とっさに落ちたローソクを拾いあげ、光に向かって走りだしました。近づくにつれエレンは目が開けられなくなりました。夢中で走っているからか、身体が溶けてなくなっているような気持ちになりました。さっきまでの悲しみもどこかに消え、ふんわりとしたあたたかさに包まれてきました。


「ああ、なんて心地よいんだ……」
エレンは、そう、つぶやきました。




⭐⭐⭐


エレンの家では、おばあちゃんが朝ごはんの支度をしています。メニューはエレンの大好物のシチューです。

「お兄ちゃん、はやく帰ってこないかなあ。」
弟のリアは、テーブルを拭きながら、そうつぶやきました。


12/6/2025, 7:11:58 AM

ゆらゆらとゆれる海の底で、輝いているのは光の塔です。そこは、住む人がみな癒やしを求めて集まるところ。海の底の静かな街です。 

生命が誕生すると、光の塔の輝きが増します。きらきらした粒があちこちに舞い踊り、軽やかなメロディーを奏でます。街の人びとはそれをみて、共に歌います。その歌に合わせて海の生きものたちも楽しそうに泳ぎ、ゆらめきます。


街が1番輝くのは、満月の日です。深い深い海の底にある街に月の光が届くのは、満月の日だけなので、みなその日を心待ちにしています。満月はとても大切な日なのです。



今夜は満月。
「今夜は特別な光が届く。みなで祈るのじゃ」
と、長老がみなに伝えました。
街の人びとはそれぞれ大切なものを持ちより、光の塔のまわりで満月を待ちます。

月が満ちて、海がぱかんと割れて、海底の街に月の光が射し込みました。なんともいえない心地よさに、みな目を瞑り、祈りはじめました。祈りは光となり、月の光と混ざり合ってさらに輝きを増しました。そして、ゆっくりゆっくりらせんを描きながら昇っていきます。人びとは目を開け、その光景を黙って見守ります。その光が海の上まで到達したとき、ぱかんと割れた海は元に戻ります。


「祈りは通じた。みなご苦労じゃった。さて今宵は朝まで歌い踊ろうじゃないか!」
長老の言葉に、みな歓声を上げ、宴がはじまりました。今夜の海底の街は、いつも以上にきらめいています。



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