その少女が息を吐くと、たちまち周囲が凍りはじめる。そして、少女が笑うと、凍ったものたちが溶けはじめる。その不思議な光景をみたものは、二度と村に戻ることがないという……
銀色の長い髪、透きとおるような肌のその少女は、幼い頃から一人で森の奥に住んでいた。村の人びととは一切関わることがなく、どうやって生活しているのか謎だった。昼間は外出することがなく、星が輝く夜にふらふらと森の中を彷徨い歩く。村の人びとは少女を奇妙に思っていたし、木々を凍らせたり溶かしたりしている、という噂を信じて少女に近づくことを怖れていた。
ある晩、村で1番勇敢な若者がその少女の姿をひと目みたくて森の中に入った。夜の森はしん、としてとても静かだった。若者は少女を探して森の中をぐんぐん歩いたが、なかなか見つからなかった。疲れて切り株に腰をおろした若者が夜空を見上げると、数々の星たちがキラキラと瞬き、優しいメロディーを奏でていた。とても美しかった。
ふと目の前を見ると、少女が立っていることに気づいた。その美しい姿に圧倒された若者は言葉が出ず、息を呑んだ。この世のものとはおもえないほどの美しさだった。
少女は、若者の横に立ち、ふう~っと、息を吐いた。辺り一面が輝き、凍りついた。若者はその様子を見て驚き、少女の顔をマジマジと見つめた。少女はびっくりする若者をみて、ほのかに笑った。すると今度は辺り一面が凍り付いていたたものたちがきらめきながら溶け出した。少女は若者の顔をもう一度見つめ、何もいわず去っていった。
明け方、村に戻った若者は、昨晩少女に会った話を友人たちにした。そして、皆でそこへ行ってみることにした。ようやく見つけたその場所には、少女の姿はなかったが、白い鈴のようなたくさんの花が咲いていた。風が吹くとチリンチリン、と鳴る、ちいさな可愛らしい花たちだった。
それから、村の人々はその少女のことを怖れることはなく、「スズラン」と呼んでいるという。
12/8/2025, 6:32:55 AM