ね。

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寒さで目が覚め、窓の外をみると、あたり一面雪の原が広がっていた。静かな静かな朝だ。


「ああ、もう足跡も消えてしまったな…」
わずなや雪の上に残された足跡だけが、彼女の手がかりだった。こんなに雪が積もってしまっては、もはやその足跡はすべてなくなってしまっただろう。


昨晩遅く、ボクは彼女がいないことに気づいた。いつも部屋にこもって絵を描いている彼女は、夜遅くまで起きていることも多い。ドアのすき間からランプの灯りがもれていたものの、なんとなく人の気配を感じず、部屋をそっと覗いたのだ。
描いている作品はそのままキャンバスに置かれ、飲みかけのコーヒーもそのまま。彼女だけがすっぽり消えていた。ボクは慌ててあちこち探したが、見つけたのは窓の外に続く彼女の足跡だけだった。


彼女はコートを羽織らず出ていったから、もしかしたら寒さで帰ってくるかもしれない、と思い、ボクは家で待つことにした。気まぐれな彼女のことだから、すぐ帰ってくるさ、とのんきに考えていたのだ。しかし、彼女は帰ってこなかった。いつの間にか眠ってしまっていたボクは、すぐに追いかけなかったことを心から後悔した。





「雪原の先に何があるの?」
ふと、彼女がこう言っていたことを思い出した。彼女は、窓の外をよく見ていた。新しい何かを見つけたい彼女の気持ちは、正直ボクにもよく分かった。しかし、村の人びとが謎の病で次々と倒れ、いまはボクたち二人きりでなんとか生きている状況で、この場から出ることは怖かった。そとの世界に飛びだす勇気がボクにはなかったのだ。慎ましくも彼女と暮らす、いまこの場が安全なんだ、と言い聞かせて日々暮らしてきたのだ。

…でも、彼女はいなくなってしまった




「仕方ないな。行くか。」
ボクは彼女のコートをリュックに詰めこみ、ブーツの紐をキツく結んだ。気合いを入れて、力強く足を踏み出す。彼女の足跡は消えてしまったが、方向は覚えている。


雪原の先へ、ボクは進んでいく。

12/9/2025, 4:24:36 AM