霧雨

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5/19/2024, 1:19:00 PM

【突然の別れ】
私はラギーさんの話に、黙って耳を傾けていました。
いつも元気で、自由なイメージを持つラギーさんにも、愛する人がいて……今でもその人を大切に思っている。
放火事件……それは、二人にとって、あまりにも突然な別れだったと思います。
私は、何も言うことができませんでした。
「……ね?思った通りの恋バナじゃなかったでしょ?」
ラギーさんは、当時を思い出したのか、空のように澄んだ瞳を、少し潤ませて言いました。
「確かに、思ってたのより重かったよ」
私は、彼女の目を見ずに言いました。
「ちょっとぉ!自分でねだっといて───」
「でも、」
いつもの口調で言いかけるラギーさんに割り込んで、私は言いました。
「ラギーさんの口から、ラギーさんたちの大切な話が聞けて、本当によかった」
彼女は、一瞬キョトンとした顔で私を見つめました。そして、
「変なのー」
と少し頬を赤らめました。言った私も、何だかキザっぽいセリフが恥ずかしくて、頬が熱くなりました。
でも、私はラギーさんとの仲が深まったようで、嬉しく思っていました。
「ねえ、あたしだけ話すのはやっぱフェアじゃないよ!君も何か話して!」
ラギーさんは、私にそう詰め寄ります。
「うーん、わ、分かったよ……でも、直ぐには思いつかないし、そろそろ時間も時間だから、明日でもいい?」
「まあ……いいけど。絶対忘れないでよね!あと、考える時間があるんだから、面白い話してね!」
そう言うと、彼女は立ち上がって歩き出しました。
「分かったよー、じゃあね」
「はいはい、また明日〜」
そうして、その日は終わったのです。
私は、ラギーさんの話を聞けて、本当によかったです。
彼女と話した時間は、私にとって、かけがえのない宝物になりました。
でも、そんな彼女とも、お別れする時が来ることを、私は考えていませんでした。

5/19/2024, 3:10:40 AM

【恋物語】
ラギーさんと出会って、色々な話をするに連れ、だんだん彼女と親しくなっていきました。
その中で、彼女が話してくれた、ある恋の話をお話しましょう。

まだ黒い世界に行けなかったある日、私はラギーさんとお話をしていました。
いつもは「仕事」が終わると、直ぐに帰ってしまうラギーさんでしたが、たまに残って、私とお話をしてくれるのです。
「今日はちょっと話でもしてこーかなぁっ」
ラギーさんはそう言うと、私の前に腰をおろします。
私たちは向かい合う形で白い床に座っていました。
「今日はちょっと残っていくんだね」
「うん、ちょっとのんびりできる日だからねー。ってか、いつもこんなとこに居なくちゃならないなんて、つまんないでしょ?誰も居ないんだから、せめてあたしが話し相手になってやんないとね」
歯に衣着せぬ物言いに苦笑しつつ、「気遣ってくれてんだね、ありがとう」と、彼女の真っ直ぐな瞳を見つめます。
「あー、とは言ったものの、何にも話題思いつかないなぁ……」
「じゃあ、恋バナしようよ」
「え?恋バナ?君、恋してんの?」
「してねーわ」
「何だよそれ」
こんな軽いやり取りができることが嬉しくて、私は笑っていました。
ラギーさんの方も、口角が上がっていたので、少し安心しました。
「だからさ、私は何にもないから、ラギーさんの恋バナ聞かしてよ」
「はあ!?そんなのフェアじゃないじゃん!」
「いいからいいから」
「何それぇ……まあいいけど、君が望むような、楽しい恋愛じゃないよ?」
「いいよ、全然」
ラギーさんは、どこか腑に落ちない様子で話し始めました。

あたしさ、人を好きになったことないんだ。
でも、昔、ずっと愛するって決めた存在はいるんだ。
その存在ってのは、ヤナカっていう喋る木なんだ。喋る木なんて言われても混乱するよね。
それに、人以外のものを、人のように愛するなんて、おかしなことだと思う。でも、私はヤナカ以外の存在を、これほどまでに愛したことはない。
ヤナカは、一見すると普通の木なんだ。静かに人間たちの暮らしを見守っている。
ヤナカが死んで、初めて知ったんだけど、ヤナカが口を利くのは、ヤナカが話したいと思った人だけなんだってさ。
ヤナカも人と同じように、意思を持ってるってことなんだよね。
で、あたしがヤナカと出会ったのは、12歳を迎える年だった。
あたしには家族がいなかった。6歳の頃に、知らない人が来て、その人の家に住むことになった。学校でも、友達なんか出来なかったし、作りたいとも思っていなかった。
でも、「家」に帰るまでの道に、神社があって、その神社の森で一人でいるときが一番楽しかった。
ある日の夕方、あたしはその森で木に登って遊んでたんだ。けど、足を踏み外しちゃって。落っこちたんだ。
幸い大きい怪我はなく、かすり傷程度だった。
痛いとか、そう言うのよりも、また怪我の言い訳考えないととか、そう言う、面倒くささの方が勝って、ため息吐いたんだ。
そしたら、
「おい、大丈夫かい?」
って、突然声がしたんだ。
いきなりのことでビックリして、キョロキョロしてたんだけど、
「ああ、私なら後ろだよ、後ろ」
と、また声がして、振り返ると、そこにはデッカイ気があったのよ。
木が喋る訳ないと思っていたけど、声はその木からするみたいで、
「少し擦りむいたようだね」
何て言うわけ。
木なのに喋れるのかって聞いたら、
「私はヤナカと言って、喋れる木何だよ」
と教えてくれた。
あたしは、喋れる木が珍しくて、その日は結構長い間ヤナカと喋っていたんだ。
その日から、あたしはヤナカの所へ話しに行くようになった。
ヤナカはあたしよりもうんと長生きで、色々と生活の知恵を教えてくれた。
辛い時とか、寂しい時は、あたしの話を聞いてくれた。
もしかしたら、あたしがヤナカに抱いていたものっていうのは、ただの恩情なのかもしれない。
それでも、日に日に、ヤナカの存在は、あたしの中で肥大化していった。
「ヤナカがもし人間だったら、あたし、ヤナカと付き合いたいなっ」
ある時、私が言うと、ヤナカは、
「気持ちは嬉しいけど、私みたいなおじいちゃんなんかより、もっといい人はいっぱいいると思うよ。」
と、苦笑いして言った。あたしは、ヤナカの濁すような返事が気に食わなくて、「本当にそう思ってんだからね〜」と、頬を膨らませた。
すると、ヤナカは何かモゴモゴして、
「ありがとう……その、私もそうだったら嬉しいよ、なんて……す、すまない!ただの老いぼれの戯言だと忘れてくれ!」
とか言って。表情ないのに、こんなわかりやすい人いるんだって、何だか愛おしかった。
「ふふっ、ヤナカもあたしと同じ気持ちなんだぁ……嬉しいなあ」
「うっ、恥ずかしいな……なあ、ラギーちゃん、もう別の話をしよう」
「へへっ、やーですぅ」
こんなくだらないやり取りさえ、あたしは大好きだった。
でも次の日、朝のニュースであの神社の森が放火にあったって知った。
あたしはリュックも背負わずに、家から飛び出した。
神社には警察がいて、森の入口は、キープアウトのテープが巡らされていた。
あたしは裏道を使って、ヤナカの元へ走った。
黒焦げの木たちを見る度に、ヤナカももしかしたらって、気が気じゃなかった。
いつものところに来て───
そこにはヤナカが立っていた。ほとんど焦げて、今にも倒れそうな状態で。
「ヤナカああああああっ!!」
あたしはヤナカに駆け寄って、黒く焦げた皮膚に手を当てて叫んだ。
「ヤナカっ!ヤナカっ!!ねえ聞こえる?!ヤナカあ!」
視界がぼんやりとしている。涙だ。
次々に溢れてくる涙がうざったくて、あたしは乱暴に目を擦った。
すると、
「あ……ラギー、ちゃん……?な、んで、ここ、に……」
「!!ヤナカっ!」
「も、しかして、心配し、て……?」
「ヤナカ……!どうしてっ…!」
言葉すら上手く出なかった。ヤナカはふっと笑った。あの優しい声で。
「ごめん……ラギーちゃん、わたしは、もう……」
「いやだ!!そんなの、許さない……!」
そうは言ったものの、あたしも彼も、もう分かっていた。
「なあ、ラギーちゃん、最期に、わたしを、抱きしめてくれないか……」
でも、そんなことしたら、倒れてしまうんじゃないか。
そんなあたしの不安を分かってか、「大丈夫だよ」と、あたしを呼んだ。
あたしは、ヤナカを抱きしめた。ヤナカはこう言った。
「ラギーちゃん、わたしは、君のことが好きだ……こんなことを言うと、困らせてしまうかもしれないけど……もし、わたしが生まれ変わって、ラギーちゃんの前に現れたなら、どうか、わたしと連れ立ってくれないか……?はは…わたしは、何をいっているんだろうね……でも、君のことは、誰にも譲りたくない。この気持ちだけは…どうか、きみに、とどいてほしい」
あたしは、ヤナカをすがるように抱きしめた。
「あたりまえだよ!あたしだって、ヤナカがいい。ヤナカしかありえないっ……!」
そしたら、ヤナカは満足気に笑った。
「わたしは、しあわせものだ、な……」
それから、喋らなくなった。
あたしはずっと、ヤナカを抱きしめていた。
しばらしくて、あたしは腕を解いて、ヤナカを見つめた。
「ずっと、愛してる」
ヤナカの、まだ焼けていない皮膚に、あたしはキスをした。

5/17/2024, 8:19:49 PM

【真夜中】
それでは、今日はイメージの世界が2つに分裂した話を書きましょう。

気がつくと、私はまた白い世界に横たわっていました。
確か、甲冑さんが亡くなって、足元の亀裂から落ちて───
何故かまた白い世界にいる。
(どういうこと……?)
とにかく、私はまだ死んでいないようです。
何だか疲れて、ぼんやりしていると、
「あれ?君、誰?」
突然声をかけられました。
振り向くとそこには派手な髪色をした少女がいました。
服は私と同じ白いワンピースでしたが、私のとは違い、彼女のはフリルがついて、ふわふわした、可愛いワンピースでした。
髪色は、色とりどりのわたあめのようで、パステルカラーが目立ちました。
「あの、あなたは……?」
私が尋ねると、彼女は輝くようにニコッと笑って言います。
「あたし?あたしはラギーだよ!」
ラギーからはいくつもの話をききましたが、驚いたのは、世界が分裂したという話でした。
「あたしも急なことでビックリしてる。あ、でも、黒の世界には行ってはいけないよ」
「え、それはまた何で?」
彼女はどこか遠い目をして言いました。
「とても暗いところなの。真夜中みたいにね。あなたにはまだ危険だよ」

5/16/2024, 2:01:06 PM

【愛があれば何でもできる?】
愛、ですか……
イメージの世界にいた頃の私なら、きっと綺麗事だと鼻で笑っていたでしょう。
確かに「愛」という言葉には、どこかドロドロとした、利己的な本音が隠れているように思えてなりません。
実際に、私が当時、友人に対して抱いていた「愛」というのは、酷く嫉妬心に溢れ、怯えたものでした。
「愛さえあれば…」なんてことも聞きますが、愛だけに限らず、何事にも程度というものがついてまわると思います。
とにかく、私個人の見解よりも先に、まずは当時のことを振り返ってみようと思います。

私(当時中学生)は、はっきり言って、人のことを信用できませんでした。
それは、周りにいる人達が、皆、「生きることに一生懸命」になるが故に、周りを置いてけぼりにしようとして止まなかったからです。
かく言う私も、毎日我武者羅でした。
ただ、我武者羅になるがために、自分に高い理想を抱きすぎて、自分を愛せていなかったと思います。
私は自分が嫌いでした。本当に、私みたいなゴミは消えた方が社会のためだと思っていました。
私は周りを許せませんでしたし、同時に、自分自身をも酷く憎んでいました。
そうやって、自分に厳しくすることが、美徳だと教えられたのです。
しかしその考え方によって、私はイメージの世界に追いやられる羽目になったのです。
私は、大人が教えてくれたように、自分に厳しくしました。そして、他人には私に出来る最大限を尽くしました。
私は、自分の考え方に誤りがあることに気づけませんでした。
そうして、ずっと自分に厳しく当たり続けて、私は死にたくなりました。
こんなに苦しいなら、死んだ方が楽だ───
でも、私は臆病でした。死ねなかったんです。
周りに助けてくれる人はいませんでした。
いや、もしかしたら、従来の美徳に縛られて、自ら探そうともしていなかったのかも知れません。
とにかく、愛なんてものは幻想で、自分をキレイに飾りたい、「偽善者」の使う言葉だと思っていました。
実際に、私は誰も愛していませんでした。自分が助かることで必死だったからです。
それでも私は、誰かに愛されたいと願っていました。
このおかしさに気づかせてくれたのは、フリードリヒ・ニーチェのある言葉でした。
彼は、かなり辛辣に、こう吐き捨てました。
「自分から人を愛することもしないのに、君は人から愛されたいだなんて願うのかい?もしかして、大多数の人に愛されなくても、一部の人に愛されればいいとでも言うのだろうか?その一部の人だって、あなたを愛さない大多数の中に存在するというのに。」
まるでナイフで抉られるかのような気持ちでした。
確かに彼の言う通りです。
人を愛さないのに、人が愛してくれるはずもないのです。無償の愛など、存在しない。人間関係は常に、ギブアンドテイクで成り立っているのですから。
それに気がついても、私は人を愛せませんでした。
私がいくら気遣っても、誰も気づいてくれない。返してくれない。
当時の私からすれば、ギブしっぱなしだったんですね。
だから苦しいんです。ギブ「しなきゃいけない」と思うから苦しかったのです。
いつだってそうです。「しなきゃいけない」が、どれだけ私を傷つけ、私からものを奪っていったことか。
甘えだと思いますか?
そうかも知れませんね。結局私は甘えているのかも。
でも、「しなきゃいけない」から少し離れることが出来て、私は幸せになりました。
少しのことに喜びを感じられるようになりました。
すると不思議なことに、周りの人も、とてもあたたかい言葉をかけてくれるようになったのです。
それでますます、「生きててよかった」と思えるようになっていきました。
私は、自分をずっと追い詰めてきました。しかしそれは、私を不幸にしました。そして、努力もできなくなりました。
不思議ですよね。単純な事だったんです。
人が幸せを掴む一歩とは何か。
それは、自分の味方をしてあげることです。
自分を「愛する」ことで、ようやく人は幸せへの一歩を踏み出せる。
私は、「愛さえあればなんでもできる」のではなくて、「愛がなければなんにもできない」だと思います。
愛情とは、とても人間らしい感情です。
世の中には、愛の皮を被って、私たちを傷つけようとするものが、数多存在します。
しかし、どうかそんな薄っぺらい悪意に惑わされないでください。
ご自分を愛してあげてください。
ご自分を許してあげてください。
そして、人間が幸せと感じるのは、きっと周りで自分と一緒に、笑いあってくれる人がいるときも含まれます。
そうして、あなたと共に、時間の中で幸せでいてくれる人を、あなたはきっと愛してあげられるはずです。



5/15/2024, 1:02:48 PM

【後悔】
闇の中に落ちていく間、私はずっと甲冑さんのことを思い出していました。
無理もなかったのかも知れませんが、やはり、隠れた優しさに気づけずに、一方的に酷く当たってしまったことが、私は悔しかったのです。
甲冑さんが亡くなった今、私を守る存在は一つとしてありません。
今はこうして落ちていくだけでも、もし、地面が現れたら、私は無事では済まないでしょう。
それで、運良く一瞬で死ねたならば、私はまた元の世界に戻れるかも知れない。
それに、例えばこの世界で死んで、現実世界の私の肉体も目覚めなくなったとしたら、それはそれで良いと思っていました。
もし死ぬことができたなら、こんなくだらない苦しみからも開放される。
今なら、自殺してしまう人の気持ちが分かるような気がしますね。
「死は救済だ」なんて、いかにも悪役の言いそうなことですが、生にしがみついて、無駄に傷ついて、醜く歪んでいくならば、死ぬ方がまだましだと、その時の私は考えていました。
そう思うと、今から死ねるかもしれないということは、とても幸福な事のようにも思えました。
私は口元にほんの少しの笑みを浮かべて、心があたたかく満たされていくのを感じました。
そして、甲冑さんとのある日を思い出しました。

甲冑さんは、以前お話したように、火を踏んで消したり、地面から壁を生やしたりと、魔法のようなことができる人でした。
毎日がつまらなかった私は、試しに、彼女にこう言ってみました。
「ねえ、いつも壁生やしたり、火ィ消したりしてるけど、他にも何かできたりするの?」
彼女は黙ったまんま、炊飯器をセットしています。
(また、無視か……)
予想通りの結果でしたが、やはり無視をされるのはこたえます。
私がガックリと肩を落とすと、甲冑さんはどこからか、木の棒を取り出しました。
私は、彼女は一体何をするんだろう、とぼんやり眺めていました。
甲冑さんは、その木の棒を焚き火に突っ込んで火をつけると、突然、棒を宙に向けてブンッと振りました。
私はいきなりのことで驚いていましたが、もっと驚いたのは、木の棒についていた火が、まん丸の球体になって、空中でチョンチョンと踊り始めたことでした。
そして、甲冑さんが、木の棒でその球を優しくつつくと、球は2つに分裂して、それぞれが円を描くように踊り出しました。
甲冑さんは、またそれぞれの球をちょんちょんとつつきます。すると球は分裂して4つになりました。
彼女はどんどん球の数を増やしていき、気がつくと、焚き火の周りは、小さな宝石のような橙の球でいっぱいになっていました。
すると、甲冑さんは、球を増やすのを止め、踊る球たちに向けて、木の棒を向けました。
すると、球達は、ピタリとその動きを止めました。
私は何が起こるのかと、ソワソワしていました。
甲冑さんは、棒を少し下げてから、勢いよく振り上げました。
すると、火の球達も、その動きに合わせて、少し沈んでから、物凄いスピードで、空に舞い上がりました。
また、甲冑さんが棒をふると、球は集合して、大きなクジラの形になりました。
火のクジラは、甲冑さんの指揮に合わせて、気持ちよさそうに空を泳いでいました。
私は感嘆のあまり、ため息が出ました。
ひとしきり泳いだあと、甲冑さんは、棒で丸を描いてから、棒を横向きにして静止させました。まるで、タクトで演奏を終えるかのように。
クジラは背面跳びをして、火の粉になって消えました。

私は、あの夢のような時間を思い出して、幸せな気持ちになりました。
しかし、それ故に、大きな後悔が押し寄せてきました。
思えば、甲冑さんは、言葉さえ話しませんが、本当の意味で私を無視したことはありませんでした。
私は幸せと後悔に挟まれて、何を言うべきか分かりませんでした。
真っ暗闇の中に落ちていきながら、もしかするとこれが私への罰なのかも知れない、そうだとするなら天罰下るの早すぎるよな、と苦笑しました。
そして、誰もいない闇の中に向かって一言だけこう言いました。
「あなたに出会えて、私はこんなに幸せだよ」と。

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