No.31『安らかに』
散文 / 掌編小説
愛猫が虹の橋を渡った。享年20歳。人生の半分以上をともにして、最期はとても安らかに眠りについた。
彼女のお腹のにおいを嗅ぐのが好きだった。芳しいにおいを周りの空気ごと吸い上げるのが好きだった。
大好きだった。好きだった。
安らかな寝顔の彼女を見ていると、真っ直ぐわたしを見てくれる彼女の瞳を思い出す。
※このお話はフィクションです。
お題:安らかな瞳
No.30『年末のご挨拶』
散文 / エッセイ
2022年も残すところ5時間を切りました。あっという間に過ぎた一年でしたが、特に師匠が走る12月の疾走感は凄まじかったですね。気づけば大晦日。年越し蕎麦ならぬカップ麺のうどんを食べ、こたつに蜜柑を準備して、年越しの瞬間を迎え撃とうとしております。
最近はめっきり見なくなったテレビを見て、チャンネルをあちこち変えながら2023年を迎えようと思います。
皆々さま。
本年はお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
良いお年を。
お題:良いお年を
No.29『2022年まとめ』
散文 / エッセイ
今年も残り数時間になったので、今年一年間を振り返ってみようと思う。特に何があったでもなく、ただ、あっという間に年末を迎えた、そんな一年だった。
学生の頃なら駆け抜けたという言葉がよく似合った一年だと思うが、駆け抜けた実感はまるでない。学生の頃と同じように気づけば大晦日になっていたのだけれど、いろいろありすぎてあっという間の学生の頃とは違い、何もないのに気づけば大晦日になってしまっていた。
ただ、メモ的な日記しか書かなかったわたしだったが、12月1日(だったかな?)に書く習慣アプリを始めたのはとてもいいいことだったと思う。メモをとる、つぶやくという概念の日記じゃなく、一日一回文章を書くことを日課にできた。
それとは別に小説の創作活動もしてきたけれど、それは毎日活動できたわけではなくて。言葉は悪いが半ば強制的に書くことを日課にできたのは、文章を読み、書くのが趣味のわたしにはとても勉強になったし、書く練習にもなった。
あと数時間で、今年最後のお題が出題される。それが今年の書き納めになるかな。皆さま、来年もよろしく。
お題:一年間を振り返る
No.28『マー坊』
散文 / 140字小説
こたつの上に蜜柑の皮がひとつも乗っていないところを見ると、彼はまだ来ていないのだろう。案の定、
「なあ、美咲。マー坊、今日は来んのんえ?」
そう聞かれてしまった。それにしても何故おばあちゃんはいつも私にそう聞くのだろう。マー坊の姿が見えるのは、おばあちゃんだけなのに。
お題:みかん
No.27『冬休み』
散文 / エッセイ
書く習慣アプリを開いて、わたしは頭を抱えた。出題されているお題が冬休みと、今のわたしに全く関係のない話題だったからだ。本格的な冬休みがあった学生時代は遥か昔のことで、ずっとサービス業に従事しているわたしには、冬休みに該当する長期休暇はない。クリスマスシーズンはもとより、年末年始こそ稼ぎどころで忙しい職業だから仕方ないが、なので今回は、フィクション作品として創作するのを諦めてしまった。
だからこうして、エッセイ記事のようなものを書いてはいるが、何を書けばいいのかまた頭を抱える。冬休みの思い出といってもこれといってないし、年末年始とか冬休みシーズンのことを考えるとなおさら、仕事のことしか思い浮かばない。
そうだ。理想の冬休みを考えるのはどうか。その時、わたしの頭に浮かんだのは、コタツの中でうたた寝したり蜜柑を食べているところで、一般的にはつまらない休みだろうが、わたしにとっては最高の休みだと思わず含み笑った。
ということで、これからもお題で思い浮かばない時は散文エッセイか、エッセイ風の掌編小説になると思いますので、よろしくお願いします。
かしこ。
お題:冬休み
No.26『プレゼント』
散文 / 恋愛 / 掌編小説
吐く息が真っ白になる昼下がり。私はかじかむ手に息を吹きかけて、空を見上げた。見上げた空はどこまでも澄み渡り、遥か遠くに低い雲が浮かんでいるのが見える。おそらくはそこから飛ばされて来たであろう風花が、ひらりひらりと舞い落ちて来た。
「やっぱ手袋に挑戦してみようかな……」
クリスマスに恋人からリクエストされたのは手編みのマフラーだけど、あかぎれとしもやけだらけの彼の手が頭から離れない。真冬に冷たい水を使う職業に就いている彼の手は、痛々しくて見ているのも辛いのだ。
「やっぱ手袋にしよ」
独りごちて久しぶりに手芸店に寄り、白と青の二色の毛糸と編み物の本を買った。マフラーなら本を見なくても編めるのだけれど、手袋になるとそうはいかない。
「うそでしょ……」
それから数週間が過ぎ、とうとうクリスマス。結局、手袋は片方しか編み上がらなくて。数週間後にもう片方を編み上げるからと、とりあえず編み上がった片方だけを彼に贈った。
その帰りに早速、手袋を使ってくれた彼の片方の手は、私の手と一緒に彼のポケットの中にある。
お題:手ぶくろ