ののの糸糸 * Ito Nonono

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12/12/2022, 3:09:28 AM

No.10『プロポーズ大作戦』
散文 / 恋愛 / 掌編小説

 お願いだから今すぐやめて欲しい。恋人に呼び出されたお洒落なレストラン。わたしたちが予約されていたらしい席に着いた途端、陽気な曲が流れ始め、ホールスタッフの人たちがひとり、またひとりと曲に合わせて踊り始めた。

「うそでしょ……」

 わたしの声に至極ご機嫌な恋人は気づくことなく、ぴったり揃った完璧なダンスは、厨房スタッフ、隣の席のお客さん、その向こうのお客さんにまで広がって行く。
 待って。皆、何でもないフリをしていたけど、これって他のお客さんも事前に練習していたってことだよね。こんな中で「僕と結婚してください!」だなんて正気なの?

 店に着くまでは「喜んで」の返事を用意していたわたしは、恋人に「ごめんなさい」と頭を下げた。


お題:何でもないフリ

12/11/2022, 9:39:46 AM

No.9『面倒臭がりの君とお節介なわたし』
散文 / 掌編小説

 生まれて来た時はひとりだったのだから、死ぬ時もひとりでいいと君は言う。クールを気取っているけど実は物凄く面倒臭がりの君は、世話を焼かれることも面倒臭いと思っているのだろう。

 子供の頃、
「ともはるくん、一緒に学校行こー!」
 毎朝、君の家の玄関先で声を張り上げては、君を誘って学校に行っていた。眠そうな目を擦りながらも君は玄関から出て来て、誘ったわたしには目もくれずにさっさと登校してしまっていたっけ。

 無口で無愛想だけどイケメンな君は、放っておいても誰かが世話を焼いていた。君は面倒臭がりながらもされるがままで、こうして立派な大人になった。

 なのに今、そんなことを言う?
 誰が世話を焼いたと思ってんの。そう言いたい言葉をグッと飲み込んだ。君に言わせれば世話を焼いてくれと言ったことはない、その通りで、大きなお世話でしかないのだから。

 ひとりで生まれてひとりで死んで逝きたい君には、世話を焼いてくれる仲間がたくさんいる。子供の頃から世話焼きでお節介なわたしには、世話を焼いてくれる仲間はひとりもいないというのに。


お題:仲間

12/7/2022, 10:59:04 PM

No.8『気ままな救世主』
散文 / 掌編小説

部屋の片隅で天敵を見つけた。
いや、なんでそこにいる?
この部屋には食べ物は置いていないはずなのに。
退治してやろうと追いかけ回すと、ガサゴソ音を立てて逃げて行く。

そこに救世主。

「ニャー!」

眠ってばかりいるお前だけれど、たまには役に立つじゃないか、タマよ。ところが、ドタンバタンとしばらく捕物劇を繰り広げていたが、飽きてしまったのか、そのうち何もなかったかのように部屋の片隅で眠り始めた。


お題:部屋の片隅で

12/7/2022, 1:06:22 AM

No.7『終焉』
散文 / 掌編小説

何もかもどうでもよくなって、わたしは高層ビルの屋上から飛び降りた。まるでプールに飛び込むかのように、頭上で両手を揃え頭からダイブ。

順風満帆な人生だった。いや、今も順風満帆で何不自由ない暮らしを漫喫している。誰もが羨む結婚をして、優しいパートナーと可愛い子供たちにも恵まれた。

だからこそ、怖くなった。順風満帆な人生が壊れることが。こんな幸せがいつまでも続くわけがない。経験したことがないから身をもっては分からないけれど、世の賢人たちはこぞって口にする。

飛び降りたはいいが、そこらのビルの屋上からとは違い、なかなか地面に到達しない。


落ちていく。どこまでも落ちていく。
真っ逆さまに落ちていく。

落ちていく最中(さなか)、真っ逆さまで見たものは……。


お題:逆さま

12/6/2022, 7:41:46 AM

No.6『君のため』
散文 / 闇 / 恋愛 / 掌編小説

今日も真っ赤な目をしている君は、泣き腫らしたのか、それとも眠れないなのかどっちなんだろう。ふとそんなことを思った。片思い歴が長すぎて、どれくらい君を見て来たのかは不明だが、君が真っ赤な目をしているのはここ最近のことだ。

そう言えば恋人の姿も最近、見掛けないような気がするが、むくりと湧き上がった期待感をぐっと胸に押し込める。もう幾度となく期待してはがっかりして来たぼくは、君の様子を慎重に見極めるようになっていた。

もし、もしもだけれど。眠れないほどの何かが君の身に起きているのだとしたら。もしかして、最近見掛けなくなった恋人が関係していたりなんかしたら、もう君のことを放ってはおけない。

今まで幾度となく声を掛けては、お節介だと跳ね除けられて来たぼくの行動。今、この時、君のために起こしてもいいのだろうか。


お題:眠れないほど

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