No.10『プロポーズ大作戦』
散文 / 恋愛 / 掌編小説
お願いだから今すぐやめて欲しい。恋人に呼び出されたお洒落なレストラン。わたしたちが予約されていたらしい席に着いた途端、陽気な曲が流れ始め、ホールスタッフの人たちがひとり、またひとりと曲に合わせて踊り始めた。
「うそでしょ……」
わたしの声に至極ご機嫌な恋人は気づくことなく、ぴったり揃った完璧なダンスは、厨房スタッフ、隣の席のお客さん、その向こうのお客さんにまで広がって行く。
待って。皆、何でもないフリをしていたけど、これって他のお客さんも事前に練習していたってことだよね。こんな中で「僕と結婚してください!」だなんて正気なの?
店に着くまでは「喜んで」の返事を用意していたわたしは、恋人に「ごめんなさい」と頭を下げた。
お題:何でもないフリ
12/12/2022, 3:09:28 AM