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4/11/2024, 8:23:53 AM

『誰よりも、ずっと』

 7年前から、この時をずっと待ち望んでいた。

 この男、陸を殺す事だけの為に生きて来た。

 この男のせいで俺の両親は死んだ。父、赤吉も、母、青子も。

 その時から決めていたんだ。絶対に復讐するって。

 今まで入念に準備して来た。武器を取り寄せたり、そいつの居場所などを探ったり。

 そして、遂に今日、陸を追い詰めた。縄で悠凛の体を柱に縛り、武器を全て排除した。後は殺すだけだ。

 「最期に言い残すことはあるか?」

 ナイフを陸に突き出しながら言う。

 陸は顔を上げて、俺と目を合わせる。

 「お前、7年前のチビだな」

 「ああ、そうだよ。お前が殺した人達は俺の両親だ」

 「そうか……あの時の……あの人の子か……」

 陸がぶつぶつと何かを呟いているが小さくて聞こえない。

 「言いたい事はそれだけか?」

 「この時を誰よりも待っていた。ずっとな」

 「は? どう言う事だ?」

 意味がわからない。この時を待っていただと? 殺される時って事か?

 「殺すならさっさと殺せ。俺はお前の両親の仇だろう?」

 そうだ。俺は復讐をしなければならない。この男の言葉に耳を貸してはいけないんだ。

 「ああ、そうする事にするよ。じゃあな」

 陸の心臓をナイフで刺す。

 次の瞬間、グサっと言う音がし、陸の心臓にナイフが刺される。陸の胸から血が出てきて、陸の来ている服に滲んでいく。俺は復讐を果たしたんだ!

 「ああ、やっとだ! この時をどれほど待ち望んだか! 7年前からずっと!」

 「お……たよ……ご…んなさ……………さん……」

 悠凛がまた何かを呟いていた。確実に心臓を刺したと思ったが、狂ったか?

 「なんだ? 聞こえないぞ」

 悠莉の口に耳を近づける。

 「終わったよ……ごめんなさい……赤吉さん……青子さん……」

 「は?」

 何故この男が俺の両親の名前を? いや、何故今謝罪をしたんだ?

 「おい! 今の言葉はどう言う意味だ! 何故俺の両親に謝った! おい!」

 陸に話しかけて見るが、返答が来ない。陸の頭は力無く項垂れ、体は1ミリも動かない。死んでいた。

 
 

4/10/2024, 8:33:25 AM

『これからも、ずっと』

 「で、なんで深夜に女性が1人で外を彷徨いて、しかも俺のアパートの近くで体育座りを?」

 「いや〜……あはは」

 「流石に話して貰いますよ。飯も風呂も用意してあげたのにまだ何も聞いてないんです」

 「ひ、人の事情にグイグイ来るのはどうなのかな?! もっと私の事を考えてさ!」

 「小夜さん以外にはしません」

 ある日、帰る家が無くて困っていると言っている女性、小夜さんが俺の住んでいるアパートの近くにいたので拾った。

 俺、煌驥は24歳。小夜さんは25歳なので1個上だ。

 それにしても、なんでこんな所にいたんだろう。不思議だ。

 「え〜と、様子を見ようかと……」

 「なんの様子見かは置いといて、小夜さん」

 「あ、写真だ〜」

 「おいこら逃げるな」

 堂々と逃走させる訳無いでしょうよ。立って写真を見に行った小夜さんをまた椅子に座らせる。

 「え〜少しくらい良いじゃん。思い出でしょ?」

 「まあ見られてやばいものでも無いですが……」

 「……やっぱり、捨てられない?」

 「……はい」

 穏やかな目で問いかけて来た言葉に、肯定を返す。

 「申し訳無いですけど、何回も捨てようと思いました。事故があった日以降、ずっとあの事故の夢を見ます。だから、忘れようとしたんです。逃げようとしたんです。でも、捨てられなかった」

 小夜さんが、身を屈めて抱きしめてくる。懐かしい感覚がした。これからもずっと隣にあると思っていた人の感覚が。目から涙が溢れる。もう出ないと思っていた。あの時に泣き枯らしたと思っていた、涙が。

 「大切な思い出だったから。俺の世界で一番愛している人との、小夜さんとの思い出だったから」

 「……ごめんね、1人にして。煌驥くんの静止を聞かないで飛び出して、男の子は守れたけど、私は車を避けきれなかった。煌驥くんは1人が苦手でしょ? だから、様子を見たくて来ちゃった」

 「小夜さん……」

 あの時、俺の伸ばした手が、小夜さんの腕を掴めていたら。小夜さんの代わりに俺が行っていれば、小夜さんは今も……

 「あまり自分を責めちゃだめだよ。私は知ってる。煌驥くんは強くて、優しくて、1人でも立ち上がれる人だって。1人にした奴が何を言っているんだって思うかもだけど、私は煌驥くんに生きて欲しい。幸せになって欲しい」

 「うん……うん」

 小夜さんの言葉で、今まで押し潰されそうだった心が軽くなる。やっぱり、小夜さんは最高の女性だ。ずっと、守りたかった。

 「だから、生きて。幸せになって。貴方を1人にしてしまった馬鹿の、最期のお願い」

 小夜さんは俺を抱きしめる腕に少し力を込めて、腕を離し、立ち上がる。暖かい感触が消えて、少し寒くなる。

 小夜さんの体が、光る。白く、もういなくなるのを暗示するかの様に。

 「ごめん、実はあまり時間なくてさ。もう行かなきゃ。煌驥くんは、大丈夫?」

 「うん、大丈夫」

 立って、ちゃんと小夜さんの顔を見る。気づかなかったが、小夜さんも涙を流していた。

 「俺は、これからもちゃんと生きていく。小夜さんが心配しなくなるくらい幸せになって、また小夜さんに会えた時に笑える様に」

 「うん、頑張って。ずっと、応援してるから。見守ってるから」

 その瞬間、小夜さんが消えた。その光に手を伸ばすが、届かない。

 「ありがとう、小夜さん。俺は、もう逃げない。全て背負っていくから。小夜さんとの思い出も、あの時の後悔も」

 これからも、ずっと。
 

 


 

 

 
 

 

4/8/2024, 6:10:44 AM

『沈む夕日』

 恋愛と言うのは甘く、苦い物だ。

 矛盾しているのはわかっている。だけど私はそうだと思う。

好きな人と付き合ったりしてイチャイチャすると言うのも恋愛だし、好きな人から振られて泣いたりするのも恋愛だ。

 私は、放課後に近くの河川敷に来ていた。幼少期の頃から来ている思い出の場所だ。お母さんに怒られたり、学校で嫌な事があったりした時は、この河川敷の夕日を見ると気持ちが軽くなったりする。

 すでに太陽は落ち始め、周りが橙色に染まっている。

 この河川敷は岸から川に行く道の途中に傾斜があり、階段があってそれを最後まで降りる事で平地にいけて、少し歩くと川の近くまで行ける、と言う様なありふれた河川敷だ。

 下まで降りれる階段を途中まで降り、手すりの下にある支柱の間をくぐり、傾斜がある芝生に座る。

 私は今日、クラスメートの煌驥に振られた。彼にも好きな人がいるらしい。勿論、その人は私じゃ無い。

 だから、振られた。とても苦しい。泣きたい。だから、この気持ちを軽くしてくれるかなって。忘れさせてくれるかなって思って、ここに来た。

 でも、人生はそう上手くは行かない。簡単にこの想いは消えないし、長い時間が経ったり、この後もずっと、何か私が大きく変わったりする出来事でも無い限り煌驥を想い続けるんだろう。

 実らないって、わかってる。もっと話しておけば、仲良くなっておけば、みたいな後悔も沢山出てくる。
 
 今そんな事を考えても、遅い。後悔は『後』から『悔やむ』こと。後を前には出来ないし、私は過去戻り出来るなんて能力も無い。

 太陽が、更に沈んで行く。

 こんな気持ちも、夕日に溶けてしまえば良いのに。

4/5/2024, 3:57:35 PM

『星空の下で』

 「調子はどう?」

 いつもの草原で、小夜はそう話しかけてきた。

 「遅いぞ、3分の遅刻だ」

 「ごめんて。許して?」

 「まあ、許してやる」

 「ありがと」

 そんな他愛の無い会話をする。なんだこの会話は。

 「隣、良い?」

 「ああ、勿論だ」

 小夜が、座っている僕の隣に座ってくる。

 「大学、別れちゃったね」

 「ああ、そうだな」

 互いに空に浮かんで明るく輝く星を見上げながら言う。

 僕は東京に、小夜はこの地元に残るそうだ。

 本当は小夜と同じ所が良かった。だが僕には夢がある。

 「寂しい、私と別れて?」

 「ああ、寂しいな」

 「おっと、いつも素直じゃ無いから言ってみたのにまさかの返答。その反撃(カウンター)に私はダメージを受ける」

 小夜の顔が赤くなっている。何故だ?

 「何を言っているんだ、お前は。ゲームみたいな言葉になっているぞ」

 「あはは、まあ気にしないで」

 「そうか、なら気にしない事にしよう」

 「いやしないんかい」

 「ふっ」

 「あっははは!」

 夜の草原に、僕達の笑い声が響く。ずっと、続くと思っていたのにな……

 「……」

「……」

 そして、僕達は互いに話さず、沈黙。

 さっきの会話で多少空気が軽くなったかと思ったが、そうは行かないようだ。

 「ねえ、約束しようよ」

 小夜が僕にそう言ってくる。

 「約束?どんな約束だ?」

 小夜が僕の方を見て、言う。

 「内容は簡単だよ。単純に……また会おうねって」

 「成程な。その再会の日はいつにするんだ?」

 「う〜ん、5年?10年?迷うなぁ」

 「そうだな、じゃあ提案だ。7年後、つまり25歳だな。の今日、そしてこの草原にしないか?数字のキリが良いしここは大切な場所だからな」

 そう提案をしたのだが、小夜は呆然と僕を見ているようで見ていないような、そんな風になっていた。

 「もしかして煌驥……あの約束、、、」

 何か言っている?だが聞き取れないな。

 「どうした、小夜。何かあったか?」

 「う、ううん!なんでも無いよ!良い提案だね!流石煌驥!」

  「お褒めに預かり光栄だよ。じゃあ7年後の今日、この草原で良いな?」

 「うん、おーけーだよ。ちゃんと来てよ、煌驥?」

 「いつも待ち合わせに遅れたりドタキャンしたりするのはお前だろう?ちゃんと来いよ?この約束を破ったら流石の俺でも怒るぞ?」

「大丈夫大丈夫!ちゃんと来るって!任せといて!」

「その言葉、信じよう」

 そして、俺たちはその場に立ち、互いの顔を見る。

 「じゃあ、またね、煌驥。約束の日を楽しみにしてるよ」

 「ああ、またな」

 そんな別れの挨拶をした後、小夜が振り返り、歩き始める。

 俺はそんな小夜の背中を見ながら考えていた。

 「今、言うべきだろうか、この気持ちを」

 そう、小声で呟く。家でも、小夜と会話している時も、そして今も、ずっと考えていた。

 僕達が小さい頃にした、約束。30歳は長いと思って25歳に親がしたと言う、僕達が結婚すると言う約束。小夜は覚えていないかもしれないけど、俺はそれをずっと守って来た。

 「いや、やめておこう。今まで我慢して来たじゃ無いか。25歳になる時、言おう。僕の気持ちと、この約束を。僕は約束は守る人間なんだ」

 「何してんのー?早く行こー。どうせ家隣なんだしさー」

 「ああ、わかった」

 僕は走り、前にいた小夜に追いつく。

 あの約束は言わないが、少しだけ釘を刺しておこう。

 僕は立ち止まり、少し前に行った小夜に声をかける。

 「小夜」

 「ん? どーしたの?」

 小夜が立ち止まり、少し後ろに居る僕の方を向く。

 「約束の日、ちゃんと来いよ。僕はその日に、お前に伝えたい事がある」

 「うん、分かった。楽しみにしてる」

 そう言って、小夜は笑みを浮かべる。その笑顔に、俺の胸が高鳴る。

 また、僕達は歩き出す。

 約束の日に言おう、全てを。その時、小夜がどう言う反応をするのか、何を言うのかはわからない。

 だが、僕は言う。お前が好きだと。この星空の下で
 
 


 

 

 
 

 

3/27/2024, 7:59:09 AM

『ないものねだり』

 私には昔から、何も出来ない。

 勉強も、運動、他のことも、何もかも。

 今まで努力して来た。学校の休み時間は勉強をし、放課後は勉強や運動、友達に遊びに誘われても断って勉強をし、スマホなどを与えられても触らずに自分磨きに費やして来た。客観的に見てもかなり努力したと思う。

 でも、実らなかった。予習復習、問題集などをやっても点数はあまり上がらなかった。毎日ランニングを続けたのに、何も変わらなかった。

 そのせいで親からも冷たい目で見られている。

 どうしてなんだろう。何が駄目なんだろう? 努力が足りない? こんなにしてきたのに? こんなに頑張って来たのにまだ足りないと?

 今日は前に受けた期末テストの結果が張り出される。私は441人中50位。

 あんなに努力して来たのに50位? 私の上の49人は私以上に努力をしてきたと? この私に勝ると?

 「やっぱり1位の煌驥君凄いよね〜」
 
 「本当にね〜。今までずっと一位から落ちた事ないもんね。私達とは格が違うよね〜。いっつも他の男子達と遊んでたり夜も家に居ないで外で遊んでて勉強してないって噂だし。やっぱり才能かな〜?」

 そんな会話をする女子達が視界に入る。

 ふざけるな。才能? そんな物に私は負けたのか?
 何も努力していないくせに。生まれつきに得た力で私の今までの積み重ねてきた努力が負けたのか?

 「ねえ、なんかこっち見てない?」

 「こわっ! なんであの子睨んで来てるの?」

 「し、知らないよ。き、聞いてみる?」

 ありえないありえないありえない。そんな事はあってはならない!

 「あ、あの〜? なんか顔が怖いよ?」

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 失せろ!」

 「は、はい! ごめんなさい!」

 「な、なにあいつ! きもいんだけど!」

 そう言って女子達は去っていく。

 欲しい。その才能という物が。私の努力を一瞬で上回るほどの力を持つそれが。

 

 

 

  

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