『星空の下で』
「調子はどう?」
いつもの草原で、小夜はそう話しかけてきた。
「遅いぞ、3分の遅刻だ」
「ごめんて。許して?」
「まあ、許してやる」
「ありがと」
そんな他愛の無い会話をする。なんだこの会話は。
「隣、良い?」
「ああ、勿論だ」
小夜が、座っている僕の隣に座ってくる。
「大学、別れちゃったね」
「ああ、そうだな」
互いに空に浮かんで明るく輝く星を見上げながら言う。
僕は東京に、小夜はこの地元に残るそうだ。
本当は小夜と同じ所が良かった。だが僕には夢がある。
「寂しい、私と別れて?」
「ああ、寂しいな」
「おっと、いつも素直じゃ無いから言ってみたのにまさかの返答。その反撃(カウンター)に私はダメージを受ける」
小夜の顔が赤くなっている。何故だ?
「何を言っているんだ、お前は。ゲームみたいな言葉になっているぞ」
「あはは、まあ気にしないで」
「そうか、なら気にしない事にしよう」
「いやしないんかい」
「ふっ」
「あっははは!」
夜の草原に、僕達の笑い声が響く。ずっと、続くと思っていたのにな……
「……」
「……」
そして、僕達は互いに話さず、沈黙。
さっきの会話で多少空気が軽くなったかと思ったが、そうは行かないようだ。
「ねえ、約束しようよ」
小夜が僕にそう言ってくる。
「約束?どんな約束だ?」
小夜が僕の方を見て、言う。
「内容は簡単だよ。単純に……また会おうねって」
「成程な。その再会の日はいつにするんだ?」
「う〜ん、5年?10年?迷うなぁ」
「そうだな、じゃあ提案だ。7年後、つまり25歳だな。の今日、そしてこの草原にしないか?数字のキリが良いしここは大切な場所だからな」
そう提案をしたのだが、小夜は呆然と僕を見ているようで見ていないような、そんな風になっていた。
「もしかして煌驥……あの約束、、、」
何か言っている?だが聞き取れないな。
「どうした、小夜。何かあったか?」
「う、ううん!なんでも無いよ!良い提案だね!流石煌驥!」
「お褒めに預かり光栄だよ。じゃあ7年後の今日、この草原で良いな?」
「うん、おーけーだよ。ちゃんと来てよ、煌驥?」
「いつも待ち合わせに遅れたりドタキャンしたりするのはお前だろう?ちゃんと来いよ?この約束を破ったら流石の俺でも怒るぞ?」
「大丈夫大丈夫!ちゃんと来るって!任せといて!」
「その言葉、信じよう」
そして、俺たちはその場に立ち、互いの顔を見る。
「じゃあ、またね、煌驥。約束の日を楽しみにしてるよ」
「ああ、またな」
そんな別れの挨拶をした後、小夜が振り返り、歩き始める。
俺はそんな小夜の背中を見ながら考えていた。
「今、言うべきだろうか、この気持ちを」
そう、小声で呟く。家でも、小夜と会話している時も、そして今も、ずっと考えていた。
僕達が小さい頃にした、約束。30歳は長いと思って25歳に親がしたと言う、僕達が結婚すると言う約束。小夜は覚えていないかもしれないけど、俺はそれをずっと守って来た。
「いや、やめておこう。今まで我慢して来たじゃ無いか。25歳になる時、言おう。僕の気持ちと、この約束を。僕は約束は守る人間なんだ」
「何してんのー?早く行こー。どうせ家隣なんだしさー」
「ああ、わかった」
僕は走り、前にいた小夜に追いつく。
あの約束は言わないが、少しだけ釘を刺しておこう。
僕は立ち止まり、少し前に行った小夜に声をかける。
「小夜」
「ん? どーしたの?」
小夜が立ち止まり、少し後ろに居る僕の方を向く。
「約束の日、ちゃんと来いよ。僕はその日に、お前に伝えたい事がある」
「うん、分かった。楽しみにしてる」
そう言って、小夜は笑みを浮かべる。その笑顔に、俺の胸が高鳴る。
また、僕達は歩き出す。
約束の日に言おう、全てを。その時、小夜がどう言う反応をするのか、何を言うのかはわからない。
だが、僕は言う。お前が好きだと。この星空の下で
4/5/2024, 3:57:35 PM