美佐野

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6/18/2024, 7:36:02 AM

(未来)(二次創作)

 ジュピター灯台に火が入り、黄金の太陽現象が起きてしばらくして、世界は様相を大きく変えつつある。過渡期において人々の多くがそうであるように、不安に思い、少しでも先の未来を知りたいと感じる人間は後を絶たない。予知の能力を持つと言われたアステカの民の血を引くハモは、そうした人々の悩みを受け入れる側であった。
 今日もまた、多くの人々がハモの家の前に列を為している。三日に一度と制限を設けているが、その日は相談者目当ての露店も並んだりして、それなりにギアナ村の賑わいに貢献しているのも事実だった。
 相談の内容は他愛ないものだ。今いる家に残るか引っ越しをするか。旅行の予定があるので向こう一か月の天候を知りたい。恋する相手に振り向いてもらうためには。ハモはその一つ一つに丁寧に答えていく。そして少しだけ、予知の結果を添えるのだ。今日の相談者は10名ほどだが、最後尾に並んでいる人物を見て、あら、とハモは相好を崩した。
「ガルシア」
「お久しぶりです、ハモさま」
 何でも、近くまで寄ったのでハモに顔を出そうとしたところ、相談者と間違われ、列に並ぶように言われたのだとか。
「それにしても、すごいですね。ハモさまの予知の力が、こんなにたくさんの人を助けている」
「ふふ。そんな大したものでもないのよ」
 ハモは微笑む。未来は一つではない。ある時点での未来を予知することは出来るが、それはその人の行動一つでいかようにも変わるのだ。たとえば雨に降られると予知して、その日の外出を控えれば、その人は雨に濡れずに済むように。
「そうね、せっかくだし、お茶でもいかが?あなたの話も聞きたいわ」
「俺の話は、面白くないです」
「あら、面白いかどうかは私が決めるわ。あなたはただ、あなたが見て来た今のウェイアードについて、話してくれればいいの」
 ちょうど、二人目の相談者から珍しい茶葉を貰ったところだ。歩き出したハモに、ガルシアは静かについていった。

6/17/2024, 9:46:33 AM

(1年前)(二次創作)

 牧場主クレアは朝から浮足立っていた。
 よく晴れた秋の日、今日はクレアの誕生日である。昨日の夜中から降り続く雨も、クレアにとっては福音だ。何せ広げに広げた畑に水を遣らなくていいなんて、もはや世界が祝福したと言っても過言ではない。降ってわいた空き時間は、部屋の片づけをするのに適していた。とはいえいつもは気兼ねない一人暮らし、とくべつ散らかっているわけでもなし。都合、普段あまり触らない戸棚の整理を始めた途端、それがゴトリと床に落ちてきたのだ。
 古びた腕時計だった。手に取った瞬間、これをクレアに贈った人の顔が思い出された。クレアは、ニヤリと微笑む。これは面白い物を見つけた――。
 背後に何者かの気配を感じる。想定より随分早い到着だ。クレアはとっておきの笑顔を以て振り返る。
「おはよう、かっぱくん」
 クレアは早速、その時計を見せた。
「いいでしょ。他のオトコから貰ったものなの」
「興味がない」
 かっぱの返事はつれない。何事もなかったかのようにすたすたと歩くと、食卓の前に立ち、不思議な力で小さな箱を出す。
「ちぇ」
 かっぱはクレアの夫だった。人ならざる者と結婚し、もう少しで半年。一年前、まだ独身だったクレアはモテにモテた。先程の腕時計も養鶏場の息子からの贈り物だった。クレア自身は、初めてかっぱを釣り上げた日から、彼の虜だった。同じく人ならざる者たる泉の女神が心配するほどに、ぞっこんだった。今日も、自身の誕生日の祝いに来るだろう彼に、ひとつヤキモチを焼かせてやろうと目論んだのに、敢なく失敗。かっぱはいつの間にか姿を消していて(おそらく裏山の湖に帰った)、また一人きりの暮らしに戻ったクレアは、しかしてその小箱の中身に目を見張った。
「わお!」
 よく磨かれたアレキサンドライトの赤い球が嵌まった指輪だ。早速クレアは指輪をはめるといそいそと外に出た。太陽光の下で、それは確かにかっぱの肌の色に輝いていた。

6/17/2024, 12:44:55 AM

(あじさい)(二次創作)

 6月は暇だ。何しろ一日中雨が降っている。畑仕事なんて水やりの必要がないだけでやることがぐっと減るし、外で作業してもいいんだけどぐっしょり濡れるから何かヤだ。風呂だって下手すると雨水たっぷりになってしまうがまあそれはそれとして、とかく僕は暇だった。
(そうだ、紫陽花を探しに行こう)
 外で作業はしたくないが、散策するのは別である。僕は早速、合羽を着込むと家を出た。雨の日だろうと散歩をしたい犬が寄って来るのを、お前は家で待っておけと制する。猫はまず出てこない。余談だが、そろそろこの二匹に決まった名前を付けたい。もうツーとユーでいいかな。ちょうど梅雨だし。って、うち鶏もいるんだった。
(随分賑やかだよなあ)
 ここに来たのは去年の3月か4月だった。ボロボロの古民家を直すところから始めたのだ。散らかったゴミを片付け、床を直して、雑巾がけをして、もちろん庭の草も取って。地主さんに認められたのもその時だ。今までも何人か田舎暮らしに憧れて引っ越してきた若者はいたけれど、誰も長続きしなかったから、つい疑ってしまったんだって。
 神社の前を通り抜け、集落に向かう。去年は集落に続く道端に、それこそ紫陽花が咲いていた。今年はまだ咲いていない。いや、蕾すらついてないから、咲かないのかも?この集落の紫陽花は、あちこちに株があるけれど、その年に咲く株はある1箇所だけらしい。実は僕の家を出たところにも、株だけはあるんだ。去年も今年も咲かなかったけどね。
(あー、ここだったかぁ)
 何人かの観光客とすれ違いながら、花開いた紫陽花の株を見つけたのは、地主さんの庭の前だった。集落に出た僕は、すぐに曲がって商店の前を通り、お寺、墓地、学校と下ってきた。もし集落からまっすぐ橋を渡っていれば、もっと早く見つけられたんだけど、まあいいかと思い直す。雨に濡れた紫陽花はいよいよ瑞々しくて華やかだし、いい時間潰しにもなったし、僕は満足だ。

6/13/2024, 6:11:16 AM

(好き嫌い)(二次創作)

 リーグ本部の廊下を歩いていたグルーシャは、何やら行く手がたいへん賑やかなことに気付いた。ジムリーダーたちが集まり、一般トレーナーの挑戦を受ける立場として、どんな人物なら嬉しいか、反対にどんな人物だと辟易するかをやいのやいの言い合っているようだ。至極くだらない話で、通り過ぎようとし、あえなくグルーシャは捕まった。
「グルーシャやないの。せっかくや、自分も話混ざってな」
 グルーシャを捕まえたのはチリ。最近グルーシャを見掛ける度にちょっかいを出してくる、グルーシャからすれば変わり者の人物だ。少しぐらい聞こえないふりをしても通じない彼女に呼ばれ、結局その輪に加わることとなった。
 ハッコウジムのナンジャモに、カラフジムのハイダイ、リーグの面接担当チリに、最近チャンピオンになったばかりのハルトと、なかなかな面子である。グルーシャは、四人がわいわい話しているのを静かに聞いていた。実力が足りないのはまだいいけどマナーがなってないとか、こちらの都合も考えずに飛び込んでくるとか、どちらかというと愚痴に偏っているが楽しそうだ。そして部屋に入ってから知ったのだが、片隅にチャンプルジムのアオキが控えている。彼もまた、話に加わるつもりはなさそうだ。
 ちょうどいい、自分も壁の花になろうとするグルーシャを、しかし放っておいてくれないのがチリなのだ。アオキは放っているのに、グルーシャ相手だとそうはいかないらしい。
「なあ、自分はなんかおらんの。苦手なタイプとかさ」
「ジムリーダーが好き嫌いしても仕方ないでしょ」
「んな教科書的な答えやのうてさあ」
「そもそもそんなに挑戦者が来ないからね。好きも嫌いもない」
 二、三問答を繰り返したところで、今度はハルトが最近頻発する迷惑挑戦者の話をし始めた。何人かはチリのところにも来たようで、お陰様で彼女の注意がグルーシャから離れる。ほっと一息ついて、傍らのアオキを見やれば、目を開けたまま居眠りをしていた。

6/13/2024, 5:52:13 AM

(やりたいこと)(二次創作)

 むらびとも含めたった6人で暮らし始めたこの小さな島も、随分と賑やかになりました。
 たぬきちさんに習ったDIYで様々な家具や小物を作りました。博物館を誘致するために、虫や魚をたくさん捕まえました。本当の無人島に遊びに行って、偶然出会ったキャンパーを島暮らしに勧誘しました。しずえさんが加わり、きぬよさん姉妹も店を出し、そして遂にたぬきちさんの夢でもあった「とたけけのライブ」を達成したのです。
 しかも、とたけけは、これから毎週土曜日に、ライブを開きに来てくれると言うのです。
 しかしむらびとは、困っていました。
「何をすればいい?」
 右も左も判らない移住当初から、むらびとはいつも、たぬきちさんの助言を求めていました。住民が10人になったのも、様々な来訪者が顔を見せるようになったのも、すべてはむらびとの功績でした。しかしどれも、たぬきちさんの言葉に従って動いていただけ。
 たぬきちさんは、にっこりと答えます。
「なーんも!これからは、むらびとさんがしたいようにすればいいんだも。やりたいことをやって、行きたい場所に行って、飾りたいものを飾って、会いたい人と会って――むらびとさんはもう、自由なんだも」
(やりたいこと……)
 それが無いから困っているのです。むらびとは、一人、空を仰ぎました。
 たとえば、新しく出来るようになった料理に取り組みましょうか。たとえば、まだ見ぬ大物を求めて釣り糸を垂らしましょうか。夜になると出てきてはこちらを刺していなくなる、にっくりサソリをとっ捕まえてもよいでしょう。しずえさんやレイジが話していた、黒い薔薇から咲くという金の薔薇を追い求めてみましょうか。
 どれもこれも、たいへん魅力的です。
 魅力的なのですが、何故か、ひとつもしっくりこないのです。
(そもそも、どうしてこの島に来たんだっけ)
 移住ですらその場の勢いで決めたむらびとは、降ってわいた自由を持て余していました。

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