(あじさい)(二次創作)
6月は暇だ。何しろ一日中雨が降っている。畑仕事なんて水やりの必要がないだけでやることがぐっと減るし、外で作業してもいいんだけどぐっしょり濡れるから何かヤだ。風呂だって下手すると雨水たっぷりになってしまうがまあそれはそれとして、とかく僕は暇だった。
(そうだ、紫陽花を探しに行こう)
外で作業はしたくないが、散策するのは別である。僕は早速、合羽を着込むと家を出た。雨の日だろうと散歩をしたい犬が寄って来るのを、お前は家で待っておけと制する。猫はまず出てこない。余談だが、そろそろこの二匹に決まった名前を付けたい。もうツーとユーでいいかな。ちょうど梅雨だし。って、うち鶏もいるんだった。
(随分賑やかだよなあ)
ここに来たのは去年の3月か4月だった。ボロボロの古民家を直すところから始めたのだ。散らかったゴミを片付け、床を直して、雑巾がけをして、もちろん庭の草も取って。地主さんに認められたのもその時だ。今までも何人か田舎暮らしに憧れて引っ越してきた若者はいたけれど、誰も長続きしなかったから、つい疑ってしまったんだって。
神社の前を通り抜け、集落に向かう。去年は集落に続く道端に、それこそ紫陽花が咲いていた。今年はまだ咲いていない。いや、蕾すらついてないから、咲かないのかも?この集落の紫陽花は、あちこちに株があるけれど、その年に咲く株はある1箇所だけらしい。実は僕の家を出たところにも、株だけはあるんだ。去年も今年も咲かなかったけどね。
(あー、ここだったかぁ)
何人かの観光客とすれ違いながら、花開いた紫陽花の株を見つけたのは、地主さんの庭の前だった。集落に出た僕は、すぐに曲がって商店の前を通り、お寺、墓地、学校と下ってきた。もし集落からまっすぐ橋を渡っていれば、もっと早く見つけられたんだけど、まあいいかと思い直す。雨に濡れた紫陽花はいよいよ瑞々しくて華やかだし、いい時間潰しにもなったし、僕は満足だ。
6/17/2024, 12:44:55 AM