(やりたいこと)(二次創作)
むらびとも含めたった6人で暮らし始めたこの小さな島も、随分と賑やかになりました。
たぬきちさんに習ったDIYで様々な家具や小物を作りました。博物館を誘致するために、虫や魚をたくさん捕まえました。本当の無人島に遊びに行って、偶然出会ったキャンパーを島暮らしに勧誘しました。しずえさんが加わり、きぬよさん姉妹も店を出し、そして遂にたぬきちさんの夢でもあった「とたけけのライブ」を達成したのです。
しかも、とたけけは、これから毎週土曜日に、ライブを開きに来てくれると言うのです。
しかしむらびとは、困っていました。
「何をすればいい?」
右も左も判らない移住当初から、むらびとはいつも、たぬきちさんの助言を求めていました。住民が10人になったのも、様々な来訪者が顔を見せるようになったのも、すべてはむらびとの功績でした。しかしどれも、たぬきちさんの言葉に従って動いていただけ。
たぬきちさんは、にっこりと答えます。
「なーんも!これからは、むらびとさんがしたいようにすればいいんだも。やりたいことをやって、行きたい場所に行って、飾りたいものを飾って、会いたい人と会って――むらびとさんはもう、自由なんだも」
(やりたいこと……)
それが無いから困っているのです。むらびとは、一人、空を仰ぎました。
たとえば、新しく出来るようになった料理に取り組みましょうか。たとえば、まだ見ぬ大物を求めて釣り糸を垂らしましょうか。夜になると出てきてはこちらを刺していなくなる、にっくりサソリをとっ捕まえてもよいでしょう。しずえさんやレイジが話していた、黒い薔薇から咲くという金の薔薇を追い求めてみましょうか。
どれもこれも、たいへん魅力的です。
魅力的なのですが、何故か、ひとつもしっくりこないのです。
(そもそも、どうしてこの島に来たんだっけ)
移住ですらその場の勢いで決めたむらびとは、降ってわいた自由を持て余していました。
6/13/2024, 5:52:13 AM