(※二次創作)(たまには)
たまには山を下りようと、テーブルシティに足を伸ばしたグルーシャは、早速後悔していた。
(目が、回る)
出身地も年齢も性別もてんでばらばらのアカデミー生に加え、住民たちもあちこちにいる。しばらく来ていない間に、知らない店も増えている。何なら道すら入り組んでいて迷ってしまいそうだ。普段、静寂の世界にいるグルーシャは、ふらふらと手近にあったベンチに座り込む。人に酔って、気分が悪い。
こんなに多かっただろうか?と正直、戸惑うほどだ。いくら普段はナッペ山で過ごしているとはいえ、リーグ本部に呼ばれて山を下りることはいくらでもある。時間が余ればテーブルシティ他、あちこちの街に顔を出すことだってあるのだ。なんでも、ちょうど宝探しが始まったばかりのタイミングで、より多くの生徒が学外に出ていくことから、一時的に街の人口が増えたように見えるのだとか。
目を閉じてじっとしていると、知っている声がした。
「なんや、グルーシャやん」
目を開かなくても判る。四天王のチリだ。
「どしたん。顔色悪いな」
笑われるかも、と一抹の不安はあったが正直に告白する。
「人に酔った」
「ふうん」
チリの反応はあっさりしていた。そのままグルーシャの眩暈が落ち着くまで、ベンチに座って見守ってくれた。耳目を集める容姿ゆえ、寄って来る善意の有象無象も、チリが軽くつゆ払いしたようで、正直助かった。
それまでのチリへの印象は、実力はあるが口も行動も軽い人というものだった。存外しっかりした大人なのだと、認識を改める必要がありそうだ。
「ありがとう、チリさん」
「ええよええよ。でも、たまには山降りた方がいいかもね、グルーシャ。何なら、ウチがデート、付き合うてやってもええで?」
もちろん、冗談である。
「そうだね……考えておく」
だが、案外素直に助言を受け入れるグルーシャに、チリは拍子抜けしたのであった。
(※二次創作)(大好きな君に)
――大好きなキミに。
突然こんな手紙を書くことを許してほしい。僕は、初めて会った時から、キミのことが好きだったんだ。牧場主として右も左も判らない僕は、少しでも何かアドバイスが得られないかと藁にもすがる思いで、キミの図書館に行った。それまでろくに本屋にすら行ったことのなかった僕は、当然、本の山の前で立ち尽くすしかなかったんだけど、キミはそんな僕に優しく手を差し伸べてくれた。初対面なのに、親切にしてくれた。その日から、僕は、時間があれば図書館に通うようになったんだ。
キミは僕に本当によくしてくれた。仕事に関係ないジャンルの面白い本も、いっぱい教えてくれた。キミだけが書いている秘密の物語も、こっそり読ませてくれた。僕はそのひとつひとつが、本当に嬉しかったんだ。
だから、僕は、キミのことが――。
「お、そろそろいい感じかな」
牧場主ピートは顔をあげた。手には、昨夜一晩かけて書き上げた懇親のラブレターがある。そんなピートの鼻腔を、何とも言えない香ばしい匂いがくすぐった。空は晴れ、風は少ない。絶好のチャンスだった。
「…………」
ラブレターを、くしゃくしゃと丸める。これは届くことのない手紙だ。マリーはもちろん、他の誰にも読ませるつもりはない。ぱちぱちと、火の爆ぜる音がする。ピートはそのまま、目の前の焚火にラブレターを放り込んだ。
マリーが、鍛冶師見習いのグレイと結婚したのは、つい昨日の話だ。
ピートはマリーのことが好きだったけれど、告白一つできないままに、彼女は別の男を選んだ。確かに、毎週木曜日、鍛冶屋が休みの日は、グレイを図書館でよく見かけた。今更気付いたって後の祭りだけども。
「お、焼けてる焼けてる」
焚火の中には、アルミホイルに包んだサツマイモが幾つか入っている。一つ取り出してかぶりつけば、素朴な自然の甘みが広がった。
(※二次創作)(ひなまつり)
「今日から3月か……」
地主さんから貰ったカレンダーは、この村での年間行事が書かれた優れモノで、これのお蔭で僕はつつじが咲く正確なタイミングや、正しい年末年始の過ごし方、それぞれの時期を楽しむ食べ物について知ることが出来ていた。ある程度家の手入れも終わり、困っている村のあれこれも解決した今、正直、僕は時間を持て余していた。よって、そのカレンダーを毎日朝起きて見るのが一つの楽しみになっていたわけだ。
「桃の節句……あ」
僕はあることを思い出して、ごそごそと押し入れの隅を探った。
「あったあった、ひな壇!」
以前、村の優しい女性から、いつものお礼にと譲り受けたものだ。子供さんたちも外に出て、渡しても家が狭いから困ると言われるしと僕に白羽の矢が立った。僕は、貰えるものなら何でもありがたく受け取るタイプなのだ。
女の子のお祭りをするのは、男の僕には似合わない気もするけど、ま、今更だろう。大体気楽な一人暮らし、誰に気兼ねすることもない。
ひな壇は組み立て式のようだ。しばらく考えて、床の間に飾ることにした。というか、ここしか置き場はないし。ひな壇を組むのは初めてだが、思ったより簡単に組み上がった。
「あとはお内裏様とお雛様か」
僕は箱の中に入っていた二人を取り出すと、服の裾でぱっぱっと払ってやった。なんだかわくわくしてくるし、人形も嬉しそう。
「って、なんでキミが」
振り返ったひな壇には、いつの間にか猫がいて、当然のように居座っている。どいてくれるよう頼んだが、どこ吹く風で、僕はお内裏様の場所に二人分並べた。ちょっとぎゅうぎゅうだが、完成だ。立派な出来にいよいよ気分は上がり、小学校の頃に流行っていた替え歌が蘇る。
「灯りをつけましょ爆弾に〜……あ、続き忘れた」
なんだかしまらないなぁ。
(※二次創作)(たった1つの希望)
かつて、たった一つの希望はあの二人だった。
プロクス族最強の戦士と名高いサテュロスと、そのパートナーであり姉であるメナーディ。二人は、数多の同胞を失った例の嵐も乗り越え、エレメンタルスターを奪取し、4つある灯台のうち2つを灯した。だが、敵対する年若い戦士たちに敗れ、その命を散らした。
その日から、希望はメナーディの妹カーストと、そのパートナーのアガティオになった。
全ての灯台を灯さねば、迫り来る虚無にやがて世界中が喰われて消えてしまう。故郷プロクスが滅んで終わりではないのだ。
――そして今、カーストは冷たい灯台の床に、仰向けに倒れていた。
指一本、動かすこともできないほどの疲労に見舞われていた。それは、パートナーのアガティオも同じだろう。灰色の雪雲に覆われた空は、もうよく見えない。
カーストたちは、負けた。気が付いたらドラゴンの姿になっていた二人は、何者かに斃されたのだ。竜に化ける能力なんて持ってなかったのに、無理に変身した挙句、負けて――もう命も、残り少ない。
あと少しだったのに。あと少しで、灯台を登り切り、火を灯してみせたのに。だが、一方で、自分たちを斃したのは、ガルシアたちだったような気もしていた。
(あの子たちなら、きっと……)
辺りはしんと静まり返っている。視界はいよいよ暗い。ただ最期の時を待つしかないカーストは、しかしあることに気付いた。
(あたしたちはダメだったけど、でも……!)
たった一つの希望は、今やガルシアたちなのだ。自分たちは失敗したが、希望は潰えず、真に強きものに託された。もしかしたら、姉たちも、死の間際、自分たちに託したかもしれない希望は、確かに繋がった。
「アガ、ティオ……」
感覚はなく、何も見えないが、声は出るし耳も聞こえる。
「最期まで、一緒だったね……」
絶対に近くにいる男の、声がした。
「……悪くはなかった、ぞ」
きっと、そうなのだ。カーストは何も映さない目をそっと閉じた。
(※二次創作)(欲望)
僕の人生は欲望に満ちている。
まず、金が欲しい。
一にお金、二にお金。先立つものがないと何も出来ない。新しい種だって買えないし、先の収入も途絶えてしまう。この街の人たちはいい人ばかりだけど、流石にお金を直接くれたりはしないだろう。あ、そういや雑貨屋にはツケでやりくりしてる人たちはいたな。うん、その手があるかも?
次に、いい道具が欲しい。
最初からあるボロの農具でも、そりゃ、畑仕事は出来るよ?出来るけど、ちょっと耕すだけでくたびれるし、じょうろだってすぐ空っぽになる。ちょっと大きな切り株や岩となると太刀打ちできなかったり……道具を鍛えるのには鉱物もいるんだよな。
そうそう、体力だって鍛えたい。
頑張って畑耕すじゃん?収穫するじゃん?道具を鍛えるじゃん?でもお昼になる頃にはへとへとじゃあ、一日がもったいなすぎる。もちろん、ミネラル医院でちからでーるやつかれとーるを買えば済むけど、そんな薬漬けな人生は嫌すぎる。
それまで静かに僕の話を聞いていた女神さまが、ようやっと口を開く。
「ほんっっっっと、ピートちゃんって夢がいっぱいあるのね」
「夢?」
僕は驚いた。そんな滅相もない。僕が今言ったのは、すべて、ドロドロで打算に満ちた欲望だ。夢なんてのは、もっとキラキラしていて、僕を成長させてくれるような、そんな尊いものであるべきだ。
「で、他には?」
何が欲しいの?と促され、僕は答えた。
「愛も欲しい」
「愛?」
「そう。愛」
僕には好きなコがいる。宿屋のランちゃんだ。いつも明るくて、よく笑い、よく食べる。料理の腕もかなりのもので、いっぱい出荷できた日は、彼女のご飯を楽しみに宿屋に顔を出すんだ。そのうち、毎日僕のご飯を作ってくれたらな、と思うようになった。それに、ランちゃんのためなら僕、どんな大変な仕事でも頑張れる気がする。
「お金、道具、体力、ランちゃん……僕の欲望は、留まるところを知らないのさっ」
「はいはい」
女神さまは少し呆れていた。