(※二次創作)(たまには)
たまには山を下りようと、テーブルシティに足を伸ばしたグルーシャは、早速後悔していた。
(目が、回る)
出身地も年齢も性別もてんでばらばらのアカデミー生に加え、住民たちもあちこちにいる。しばらく来ていない間に、知らない店も増えている。何なら道すら入り組んでいて迷ってしまいそうだ。普段、静寂の世界にいるグルーシャは、ふらふらと手近にあったベンチに座り込む。人に酔って、気分が悪い。
こんなに多かっただろうか?と正直、戸惑うほどだ。いくら普段はナッペ山で過ごしているとはいえ、リーグ本部に呼ばれて山を下りることはいくらでもある。時間が余ればテーブルシティ他、あちこちの街に顔を出すことだってあるのだ。なんでも、ちょうど宝探しが始まったばかりのタイミングで、より多くの生徒が学外に出ていくことから、一時的に街の人口が増えたように見えるのだとか。
目を閉じてじっとしていると、知っている声がした。
「なんや、グルーシャやん」
目を開かなくても判る。四天王のチリだ。
「どしたん。顔色悪いな」
笑われるかも、と一抹の不安はあったが正直に告白する。
「人に酔った」
「ふうん」
チリの反応はあっさりしていた。そのままグルーシャの眩暈が落ち着くまで、ベンチに座って見守ってくれた。耳目を集める容姿ゆえ、寄って来る善意の有象無象も、チリが軽くつゆ払いしたようで、正直助かった。
それまでのチリへの印象は、実力はあるが口も行動も軽い人というものだった。存外しっかりした大人なのだと、認識を改める必要がありそうだ。
「ありがとう、チリさん」
「ええよええよ。でも、たまには山降りた方がいいかもね、グルーシャ。何なら、ウチがデート、付き合うてやってもええで?」
もちろん、冗談である。
「そうだね……考えておく」
だが、案外素直に助言を受け入れるグルーシャに、チリは拍子抜けしたのであった。
3/7/2024, 5:43:40 AM