こんな夢を見た。幼い頃の私が昔住んでいた家を探索している。昔の私は怖がりで、母親の後ろにひっついて離れなかった。薄暗い廊下を歩きながら、何故怖がりになったかを考える。昔の記憶があいまいなのでよく覚えていない。だが多分、常に薄暗いこの家自体が不気味だっただけだ。特に照明がなく昼でも薄暗い廊下は、子ども心にお化け屋敷のように思えたんだろう。歩くたびにギィ、ギィと音を立てる廊下を進む。廊下の突き当たりに妙に古い引き戸を見つけた。
「…?こんな場所あったっけ…」
ガタガタ動かしていると、指が一本入るかどうかの隙間が出来た。流石に開かないか。隙間からのぞくと、一対の目があった。ビクリと肩が上がったが、親がのぞいてるだけと言い聞かせる。すぐにそれは違うと気づいた。幼い私の目の高さに一対の目が縦に並んでいたから。そして思い出した。引き戸の部屋は物置でロッカーのように縦に長く、横に寝転がれるスペースなどないと。
こんな夢を見た。棚の中からリボンのついた瓶を取り出し、ふたを開ける。瓶を軽く振ると、手の上には一粒だけ金平糖が転がり出てきた。金平糖がもうない。そう理解すると、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。この瓶入りの金平糖は、去年の星祭りの際に貰ったものだ。初めて口に入れた時の感動は今も覚えている。だから、毎日一粒ずつだけ食べていたのだが。私はため息をついた。今年の星祭りはまだまだ先だ。それまで一日の終わりの楽しみなく過ごせと言うのか。そんなの耐えられない。
「何とか、金平糖を手に入れる方法は…」
そもそも、私は去年この星に来たばかりで通貨やどこで手に入れるとかは知らない。去年配っていた人に尋ねるか?いや、「貴重だから大事に食べてね」と言っていた。きっと、この星でも貴重な食べ物なんだろう。
「自己流で作るしか…」
私は窓から輝く星空を見つめる。星の光を固めれば、それっぽい形にはなるだろう。ただ、星の光は宇宙船の燃料で食えないことはないが、とても苦い。
「……最後の一粒を成分分析にでもかけるしか…」
食べられないのは辛いが、明日から星祭りまで金平糖がない日々よりはマシだ。食べたい気持ちを抑え、成分分析の機械に投入した。五分もしない内に結果が出た。スクロースの結晶らしい。スクロースは船内の機械で作れるはずだ。拍子抜けだが簡単に作れることを知り、ホッとした。星の光を食べているわけじゃないらしい。金平糖の作り方を調べたが、かなり時間がかかる。今すぐ食べたいのに。
「…そうだ!星の光を取ってきて、スクロースで固めれば!」
私は星取り網とバケツを掴み、外へ出た。空はキラキラと星の光が輝いている。高い丘の方へ走り、星取り網をぶんぶんと振る。すると、キラキラと小さな光の粒が取れた。やっぱり金平糖の大きさと同じ。ウキウキで星取り網を夢中で振る。持参したバケツ一杯になると、私は宇宙船に駆け込んだ。機械にバケツの中のものを投入し、パネルを操作した。
「スクロースのデータも入れて…」
開始ボタンを押すとすぐにザラザラと音を立て、甘そうな星が取り出し口から溢れてきた。見た目はトゲのない金平糖だ。
「出来た!それじゃ…いただきまーす!」
口に放り込むと、待ち望んでいた甘さが広がった。しばらく口の中で転がしていると、急に苦さが出てきた。
「んぐっ…!?」
ペッと手の中に吐き出す。スクロースのコーティングがなくなった光の粒が転がった。やっぱり、スクロースの結晶だけで作らないといけないらしい。美味しいものを食べるために近道はできないということか。私は肩を落とした。
こんな夢を見た。心霊スポットに行こうと友人に誘われ、私は廃墟にやって来た。友人いわく、入った人間が必ず変死体で見つかる呪われた場所らしい。
「それを分かってて、何で連れてきた。まだ私は死にたくないんだが」
「そりゃ、肝試しだよ。気になるじゃん、変死の原因」
「そりゃ霊の仕業…」
「そんなわけないよ。霊は人間に触れないのに、どうやって人間を変死させるのさ」
オカルトが好きな割に、妙に現実的なやつだ。
「霊の仕業じゃないなら、何だと思うんだ?」
「んー、この廃墟自体に有毒性の塗料が使われているとか?あ、吸ったらまずい成分が含まれた建材を壁に使ってるのかも!ねえ、君はどう思う?」
「だったら、尚更行かない方がいいだろ。今すぐ帰ろう」
「えー、ガスマスクとゴーグル持ってきたのにー。だったら、僕だけでも行く」
彼はむくれた顔をして、スタスタと廃墟に向かっていく。流石に一人で行かせるのは危険だ。私は慌てて彼を追いかけた。
「結局、来るじゃん。何だかんだ、気になってるんでしょ?」
彼はニヤニヤしながら、ガスマスクとゴーグルを渡した。着用すると、ゴーグル越しに彼を睨む。
「そりゃそうだろ。一人で行かせて死なれたら、寝覚めが悪い」
「はいはい」
彼はスマホのライトを起動し、先へ進む。しばらく廃墟を探検したが、特に目ぼしいものは見つからなかった。
「見つからないねえ…」
「ただの廃墟探検だな…」
「あとは…」
彼は『立入禁止』の札がぶら下がったトラロープの先の階段に視線を向けた。
「あそこだけど…」
「立入禁止だな」
「でも、原因が分からないじゃん。噂通りなら、僕たち変死するらしいし。何も分からず死ぬくらいなら行ってみようよ」
呪われた場所だからって、流石に悲観しすぎな気もするが。どうして彼は死に急ごうとするのか。
「まだ死ぬって決まってないだろ。もしかすると、変死体になる原因にまだ遭ってないだけで」
とにかく帰りたかった。まだ死ぬ気なんかない、彼を説得して帰ろう。
「君は、ここで見つかった変死体ってどんなのか知ってる?」
彼は立入禁止の向こうを見つめながら、質問してきた。
「…いや?」
「死因は老衰なんだってさ。じゃあ変死体なわけじゃないよね。でも、見つかった人たちは十、二十代の若者ばかり。簡単に言えば、体の内部だけが老化して寿命を迎えたって感じ」
「見た目は若いままってことか?」
「そう。だから、僕は有害物質でも出てるんだろうと思ってた。それだったら苦しげな顔をしてそうなんだけど…」
「けど?」
彼は不安げにこちらを見た。スマホに何か文字を打ち込んでいる。
「表情がおかしいんだ。安らかな瞳をしているのに、口は叫ぼうと大きく開いている」
「何だそれ」
「僕が思うに…」
彼は続きを言わずスマホを見せた。
『見てはいけないものを見た。しかも今、階段下から何かが上がってくる音がする。逃げよう』
私が読んで理解する前に彼は私の腕を掴み、走り出した。そのまま振り返らず逃げ帰り、ファミレスで夜明けを待った。その後解散したが、まだ私も彼も死ぬ気配はない。
こんな夢を見た。一人称視点で自分の姿は見えないが、不健康そうな男性が常に隣にいた。彼に私は見えないらしく、特に反応もないまま生活を続けている。まるで幽霊にでもなったかのようだ。特にやることもないので、彼の生活を観察することにした。彼の職場はいわゆるブラック企業らしい。待遇の悪さや長時間の残業は当たり前。それに上司からの理不尽な小言や嫌味で、彼は常に具合が悪そうだった。彼を何とか元気づけたくて、色々やったがどれも失敗に終わった。そもそも気づいてもらえないし、触ることも出来ない。ずっと隣にいるのに、何も出来ないなんて。私は歯噛みしながら彼を観察し続けた。ある日彼は上司からの嫌味を受け、会社を飛び出してしまった。どこかに行く宛もないのか、ふらふらと彷徨う。
「逃げたい」
彼は呟いた。それがきっかけになったのか、彼の口からネガティブな言葉が溢れだす。消えたい、死にたいと呪詛のように繰り返す彼は痛ましかった。私は憤慨した。彼が何をしたって言うんだ。ずっと隣で見てきたから、彼の頑張りを私は知っている。結果だってそれなりに出しているはずなのに、何故。体中の血が沸騰するほど怒っていると、私の視点はまるで怪獣のように高くなった。湧き上がる怒りのまま、彼の職場を破壊し始めた。下の方から悲鳴やサイレンが聞こえる。そう言えば、彼はどこにいるんだろう。探すと彼はいつの間にか近くの建物の屋上に避難している。無事だったのか。呆然と自分の職場が破壊されるさまを眺めている。ぷっと噴き出したかと思うと、大声で笑い始めた。咽るほど笑い、笑いが収まると彼は言った。
「ありがとう」
まるで見えているかのように、彼は私にお礼を言った。
こんな夢を見た。昼食をとり、満腹になったので横になっていた。微睡みの中でふと私は思った。そうだ、図書館へ行こう。私は着替えをし、そのまま図書館へと向かった。館内に入り、本を探す。キョロキョロとしていると、あるポスターが目に入った。
『世界の全てを知りたい方は受付まで』
そのポスターには、真っ黒な背景に白い文字でそれだけが書かれている。よく分からないが、何だか興味をひかれる文言だ。私は受付へ向かい、あのポスターについて尋ねてみた。
「あれは滅多に出てこないポスターなんですよ。運が良いですね。では、ついてきてください」
司書の後をついていくと、閉架書庫に着いた。
「この中に世界の全てを記した書籍があります」
司書は本棚の横にあるタッチパネルを素早く操作する。すると、本棚はゴゴゴ…と音を立て移動し通路が出来た。
「入らず待っててくださいね。中は危ないので」
司書は通路をスタスタと歩き、すぐに見えなくなった。それから、数分もしない内に司書は一抱えもある分厚い本を持って帰ってきた。
「これです」
司書は本の埃を軽く叩き、近くの机に置いた。
「ここで必ず読んでください。持ち出し禁止なので」
イスに座り、私は本を観察する。本は革製で、四隅に金色の金具がつけられている。栞はついていないようだ。持ち上げるが、かなり重い。これを軽々と持ってきた司書はきっと普段から鍛えているのだろう。ページに折り目が付かないように、私は読み始めた。文字を目にした瞬間、私の頭は瞬時に内容を理解した。読むのではなく、頭に情報を直接書き込まれているかのよう。面白くて、ページをめくる。大量の情報が入ってくるが、私の頭はパンクする気配はない。もっと知りたいという欲求だけが、私のめくる手を動かしている。次は宇宙の仕組みについてだ。これにはどんなことが…。
「これ以上は駄目です」
司書の声がピシャリと響き、私の手は司書の手によって押さえつけられた。
「知りすぎるのは良くないんですよ」
司書は手際よく私の手から本を抜き取った。
「知りたいことがあったらまたご利用ください」
司書は本を抱え、通路の向こうに消えた。何だか興奮が冷めて、私は司書に連れられ閉架書庫から出た。帰宅後あの本を読んだ時の興奮が蘇り、私は身悶えした。まさか、勉強嫌いな私に知識欲があるとは思わなかった。あの本が読めるのはいつなんだろう。続きが読みたくてたまらない。よし、毎日通おう。そしたら、また…。