「こんな夢を見た」から始まる小説

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3/27/2026, 9:06:42 AM

こんな夢を見た。味気ない部屋にモノクロの私が立っている。渇きと焦燥に似た衝動に駆られ、部屋を飛び出す。部屋を出ると、眩しいほどの色彩に溢れた建物が乱立していた。文字は読めなかったが、看板がついているので多分全て何かのお店だろう。どこを見ても、何もかも色鮮やかで胸がときめく。あの中で買えるものを身に着けたら、私はきっと満たされる!私はそう確信し、近くにあったお店に入り真っ赤なリンゴを一つ手に取った。磨き上げられたかのようにツヤツヤで、真っ赤な宝石のようだ。美味しそうだと見惚れていると、リンゴに変化が起きた。リンゴの色が急激に褪せ、萎んでいくのだ。驚いて、他のものを手に取ると、同じく色が褪せてしまう。あんなに色鮮やかで輝いていたのに。肩を落として、店を出る。多分、他の店のものもそうなるのだろう。そう言い訳をしてみても満たされず、私の中の衝動は大きくなっていく。ふらふらと歩いていると、一際輝く場所を見つけた。そこは誰かの庭だった。鮮やかな緑の芝生で覆われ、レンガの花壇には色とりどりの季節の花が咲き乱れている。それに水をまいたばかりなのか、水滴がキラキラと日光に反射している。私は一瞬で目を奪われ、衝動的に柵を乗り越え庭に入った。近くで見ると、やはりため息が出そうなほど美しい。どうにかして、この庭を私のものにできないか。
「あ、そうだ」
確認のために屈んで花に触れると、リンゴと同様に色褪せて萎んでいく。
「この庭、美しいでしょう?」
声をかけられ、振り向く。優しそうな老婦人が私に微笑みかけている。
「…ええ、とても。あ、勝手に入ってしまってごめんなさい」
慌てて取り繕い謝罪すると、彼女は上品に笑った。
「良いのよ。それくらい、近くで見たかったのでしょう」
勝手に庭に入ってきたのに、なんて余裕のある人だろう。この庭を手に入れたいという気持ちは、すっかり萎えてしまった。先ほどまでの自分の必死さが滑稽で、私は羞恥で顔を伏せた。足音が近づいてきて、彼女は私の隣に屈んだ。
「あなた、自分と生活に不満があるのね。だから、そんな風に白と黒だけになってる」
「…そうなのかもしれません」
「やっぱりね」
彼女は立ち上がる。
「あなたの不満を解消するのは、あなた自身よ。ないものねだりしても、あなたの姿は自分の中の不満を解消しなきゃ治らないの」
「どうすれば…」
「取り敢えず、お茶を飲んで花を愛でましょう。小さなことに幸せを見出す練習をするの。あなたの不満を解消させる糸口が見つかるかもしれないわ」
彼女は名案だと言わんばかりに、「そうよ、それが良いわ」と手を叩く。
「それで見つかるんですか?あまり解決に…」
「美味しいケーキも出すわよ」
美味しいケーキが出ると言われて、嫌と言えるわけがない。行きましょう、と促され私は彼女の後をついていくことにした。

3/26/2026, 3:40:40 AM

こんな夢を見た。
「あたし、先輩が好きです。付き合ってください!」
目の前の彼女は頬を赤らめ、私に告白してきた。突然の告白に私はフリーズした。面識のない学年が一つ下の女子だ。
「…ええっと、その、初対面だよね?そういうのは…」
「初対面とか関係ありません!あたしは先輩に一目惚れしたんです!それで返事は」
勢いがすごい。
「無理。私は好きですって言われて、好きになるほど単純じゃないんだ」
諦めてもらえるようにキッパリと断ったつもりだった。
「先輩、男性なのに一人称が私なんですね。それに、恋愛に対しても真面目な態度!もっと好きになっちゃいました!大丈夫です、必ず先輩を好きにさせてみせますから!」
ますます、相手の気持ちを燃え上がらせてしまった。この日から彼女からの猛烈なアピールが始まった。挨拶やスキンシップ、登下校や遊びの誘いが増え、周りから冷やかされ煩わしい。クラスメイトにいつになったら付き合うのか、と何度も聞かれた。私は、彼女の気持ちに応える気はないのだ。告白される前日に、私は聞いていた。彼女とその友人たちが話しているのを。小テストで彼女が一番成績が悪く、罰ゲームをすることになったらしい。罰ゲームで、誰かに告白しろと。しかも、すぐにオーケーするタイプ以外の男に。それで、他の学年でも堅物と知られている私に白羽の矢が立ったわけだ。ゲームのつもりで告白されても困る。好きじゃないのに、告白するなんてありえない。相手の気持ちを弄んで楽しいのか。
「先輩!」
思い出して少し気分が悪くなっていると、お腹の辺りに軽い衝撃と彼女の声が聞こえた。見れば、彼女が私に抱きついてきたらしい。
「おはようございます!今日もかっこいいですね!」
「あ、おはよう…。毎朝、どうも…」
ニコニコする彼女に引きつった笑顔を向けると、彼女はきゃあと声を上げた。耳まで赤くなっている。端から見れば、微笑ましい恋する乙女だ。これを罰ゲームでやってると考えなければ。それにしても罰ゲームとは言え、どうして頑張れるのだろう。告白を断った相手が振り向いてくれるわけがないのに。私を口説き落とすまで粘るんだろうか。
「今日のお昼、一緒に食べましょうね!」
「ああ、うん。考えておくよ」
適当に返事をし、そそくさとその場を離れる私の背に彼女の声が刺さった。
「振り向いてくれなくても大好きですよ、先輩!」

3/25/2026, 8:57:14 AM

こんな夢を見た。雨が降るというので、傘を持ち出かけた。だが、一向に降る気配はない。
「何だ、雨降らないじゃん」
「いいえ、降ってますよ」
振り向くと、傘を差しレインコートを着込んだ女性が立っていた。彼女の頭上には雨が降っており、雨粒が傘を叩いている。
「ちゃんと降ってるんです。わたしの頭上には必ず。天気予報の『ところにより雨』ってわたしのことなんですよ」
いわゆる雨女なのだろうか。反応に困っていると、彼女はまた話し始めた。
「わたし、昔は雨女じゃなかったんです。ただ雨が好きで、傘やレインコート、長靴を集めるのが趣味な女だったんですよ」
「はあ…」
「ある時、思ったんです。雨が毎日降ってくれれば、集めた雨具が使えるのにって。そしてそれは突然叶いました。まさか、自分の頭上から降り続けるとは思いませんでしたが」
滅多なことを願うものじゃありませんね。そう彼女が肩を落とすと、雨脚が強まった気がした。
「雨のせいで、住んでいたアパートを追い出されるし、職場も退職する羽目になるし。散々ですよ」
「それで今はどうしてるんです?」
私が尋ねると、彼女は近づいてきた。
「今の話、全て今日あったことなんです。困ってるんです。家も仕事もなくして、これからどうすれば良いんでしょう」
「うーん…」
悩んでいると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、中年女性が怪訝そうに見ている。
「あんた、何してんの。その人に関わっちゃ駄目よ」
「え?」
中年女性に腕を掴まれ、近くの喫茶店に連れ込まれた。席に腰を下ろしコーヒーと紅茶を注文すると、彼女に謝られた。
「ごめんなさいね、強引なことをして」
「え、いや別に…」
「あの辺ね、雨女っていう妖怪が出るのよ。あなたが話してた雨具を着けた女がそれなの。ああやって近づいて、自分の雨で濡らして仲間にしちゃうのよ」
まさか、妖怪だったとは。
「あまり変な人に近づかないようにね」
彼女はそんな風には見えなかったが。
「ほら、こっち見てるよ」
促され、窓の外を見る。同じ雨具を着けた同じ顔の女たちがずらりと並び、私たちを凝視していた。

3/24/2026, 9:33:36 AM

こんな夢を見た。私は誰かに膝枕され、縁側から雨の庭を眺めている。何だか憂鬱な気分でぼそりぼそりと愚痴を言っていると、頭を撫でられた。共感も理解を示す言葉もなく、ただ私の頭を撫でているだけ。それだけでも何だか気分が晴れてくるような気がして、私は誰かにお礼を言った。
「お礼なんかいいよ、当然のことだから」
私を膝枕しているのは男性らしい。だから、ちょっと膝枕が硬かったのか。それにしても、愚痴を聞くのが当然なんて。人の愚痴なんか面白くもないだろうに。
「当然って…」
「愚痴るなんて、生きてたらよくあることだよ。キミに取り柄がなくてもいいし、情けない部分があっても僕は好ましいと思うんだ」
彼は優しく諭すように話し、私の髪を手櫛で梳かす。随分、私に対して甘い人だ。全く心当たりがなくて、少し申し訳ない気がした。
「どうして、そこまで…」
「キミはやっぱり忘れてるみたいだけど、僕にとって特別な存在だから」
私は彼を知っている気がする。顔を見ようと身動ぎした途端、視界が手で覆われた。
「ちゃんと思い出してくれるまでは駄目だよ」
真っ暗な視界の向こうで、彼はいたずらっぽく笑った。

3/23/2026, 3:52:39 AM

こんな夢を見た。毎日郵便受けを確認するが、何も届いていない。やっぱりなと思いながらも、確認するのがやめられない。きっと今日は入っている、と期待してしまうのだ。
「本当、バカみたい」
自嘲するが、明日も私は郵便受けを確認するのだろう。部屋に戻ろうとして、ふと思った。
「私は何を待っているの?」
少し考えてみる。郵便受けに何が届いたら、私は郵便受けを覗かなくなるんだろう。手紙の返事、何かの合否通知、はたまた懸賞の商品…。
「何か出してたっけ?」
考えながら部屋に戻ると、テーブルの上に封筒が二枚とハガキがたくさん散らばっていた。私は懸賞に応募したり、文通をするので大体テーブルの上は書き損じとかで散らかってる。いや、待てよ。これは書き損じとかじゃないな。
「なんだろう…?」
手に取ると、私は思い出した。これは文通相手の返事と資格の受験申し込み書、あと懸賞に出すハガキたちだ。どおりでいくら待っても来ないはずだ。嫌な予感がして締め切りを確認すると、受験申し込みは今日までだ。いけない、早く郵便局に行かないと!私はテーブルのものをまとめると、慌てて外に飛び出した。すると、私は部屋の中のテーブルに突っ伏していた。郵便局に行こうと外へ出たはずなのに。
「おかしいな…」
首を傾げながら、もう一度部屋の外へ出た。真っ白な光に包まれ、気づくと部屋の中にいる。窓から外を眺めると、真っ白な空間しかない。そもそも、外の世界がないみたいだ。つまり、私は来るはずのない郵便を待っていたらしい。何だかどっと疲れてその場に座り込む。どうして忘れていたんだろう。いや、きっと信じたくなくて現実逃避で記憶を閉じ込めてただけ。そんなことしたって意味ないのに。バカみたい、ともう一度自嘲した。

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