こんな夢を見た。顔を洗いに洗面所に行った。蛇口を捻ろうとすると手が上手く動かない。見れば私の両手首に縄が巻きついている。なんとか外せないか手首を動かすが、肉に食い込んで痛い。外すのは諦めたが、疑問が残る。この縄はどこに繋がっているんだろう。家の中を探すがどこにも繋がっておらず、縄は外へ伸びている。興味が湧いたので、たどっていくことにした。どんなに歩いても縄はどこまでも伸びている。いつまでも縄を引きずりながら歩かなくてはいけないのか。少しくたびれてきたところで縄が引っ張られた。引っ張られた方向に何かあるかもしれない。そちらへ向かう。しばらくするとまた引っ張られたので、方向転換をする。そうして、縄の終着点にたどり着いた。縄の端は誰かの左手首に巻き付いている。理由を話して外してもらおう。本当に誰がこんなことをしたんだろう。
「あの…」
「あれ?久しぶり!どうしたの、やっぱり寂しくなって会いに来たの?」
「え?」
「言わなくても分かるよ。僕と仲直りしたくて縄をたどってきたんでしょ、嬉しい。僕もキミに会いたかったんだよ!」
「だ、誰ですか」
「恥ずかしがらないでいいよ。やっぱり、僕たちの絆は切っても切れないんだね!」
嬉しそうに話す彼に少し見覚えがある。
「金銭や人間関係で色々あったけど、また仲良くしたいな。現実でも会って遊ぼうよ」
思い出した。彼は、度重なるトラブルで疎遠になった友人だ。
こんな夢を見た。郵便受けにチラシやDMが溜まっていたので、片付けることにした。一応開けて確認するが、特に大したことは書いてない。開けては捨てを繰り返していると、一枚のDMが目にとまった。簡単作業、高額時給を謳った求人情報だ。内容は倉庫でのピッキングと仕分け。正直怪しいと思うが、退屈していたので応募することにした。たまには良いだろう、どう転がっても何かネタになりそうだし。電話で問い合わせると、人が集まっていなかったのかすぐに採用された。指定の場所に行くと、大きな倉庫が建っていた。中に入ると、顔の見えない作業員が迎えてくれた。目を凝らすが、靄がかかったようにはっきりと見えない。そんな私を怪訝そうに見ながら、作業員は説明を始める。メモをとろうとすると、口頭で覚えろと注意された。驚きながらも謝り説明を頭に叩き込むと、作業にとりかかった。伝票の束に記載された商品を集め、仕分ける。仕分けた商品を搬出するために台車に乗せた。
「おー、新人。飲み込みが早いね」
作業員の一人が話しかけてきた。相変わらず顔は見えない。
「単純作業が好きなんです」
「へえー、変な奴だな。ここの仕事適職なんじゃね?ところでさ、この商品何だと思う?」
「さあ…。伝票には番号しか書かれてないんで」
「実はなこれ、今夜皆が見る夢の部品なんだよ」
「夢?」
「そう。今から工場で組み立てて、皆が寝る前に出荷するんだ」
夢は組み立て式だったのか。すごいことを聞いた。
「でも、誰も信じないだろうな。毎晩見る夢が一つ一つ手作業で出荷されてるなんてな」
「でしょうね」
「信じなくても、お前の夢も俺たちが作業して出荷したものなんだぜ。今回の求人も、こうやって俺たちが作業中に駄弁ってるのもな」
「え?」
じゃあ、これは夢?そう思った途端、手の中の伝票の束が消えた。それから作業員、商品の箱の山、最後に倉庫の電気が消え真っ暗になった。
こんな夢を見た。私は少女とともに白詰草の畑で花冠を作っている。慣れない私を尻目に、少女は鼻歌を歌いながら、花冠を作っている。
「出来た!あと、これ見つけたからどうぞ」
彼女は私の頭に花冠を被せ、四つ葉のクローバーをくれた。
「ありがとう」
「そっちの花冠はまだ出来そうにないね。他に何か作ろうかな」
私の手の中の花冠を見ながら、また白詰草を一、二本摘んだ。慣れた手つきで白詰草を編んでいる。何を作るんだろう。
「ほら、見てないで自分の完成させて?」
視線を感じたのか、彼女は手を止め苦笑した。
「そう言われても、花冠なんて作ったことないから」
「わたしは、一から君の手で編んだ花冠が欲しいんだけど。しょうがないなあ」
貸して、と差し出された彼女の手に途中までぐちゃぐちゃに編まれた花冠を渡す。
「あー、見事にぐちゃぐちゃだ。ちょっと解かないと」
「だから慣れてないし。ぐちゃぐちゃが嫌なら、それ捨ててよ」
「ぐちゃぐちゃでも君が最後まで作ってくれたんならわたしは嬉しいんだけど」
「私は気になるから。どうせあなたにあげるならきれいに編めた花冠がいい」
そう言うと彼女は手を止め、大きな目をさらに大きくした。
「…本当、そういうとこ」
「何が?」
「何も!だったら徹底的にきれいに編めるように、何個でも作らせるんだからね!」
急にやる気を出した彼女に、私は手が痛くなるまで花冠を作らさせることになった。日が落ちる頃に、ようやく私は満足する出来の花冠を作り上げた。隣でヘトヘトになった彼女の頭に花冠を載せる。
「やっと、出来た…。君、凝り性なんだね。形だけなら五個目で出来てたでしょ」
「だって、あなたにあげるものだからね」
「また、そういうこと言う…。それにしても、本当にきれいに…あれ?」
「もらった四つ葉のクローバー編み込んでおいた。可愛いでしょ」
彼女は大きなため息をつくと、花冠をぎゅうと胸に抱いた。
「わたしがあげたもの、またわたしに返すなんて…」
「嫌だった?」
「ううん。ところで、白詰草って何の意味があるか知ってる?」
「知らない」
知ってるが、知らないフリをする。それは彼女にとって私に言ってほしい言葉だから。
「嘘つき、知ってるくせに。わたしと初めて会った日にいろんな植物の名前とか由来とか教えてくれたじゃない」
「そうだっけ。私、適当なこと言ってたかもよ」
彼女は恨めしげに睨むと、私の左手をつかみ、指先に何かを通した。
「白詰草の指輪…?いつの間に」
「わたしにかかれば片手間で出来るよ。それで、いつになったらちゃんと言ってくれるの」
彼女の気持ちは分かっている。だが、下手に軽い気持ちで返事すると、彼女が傷つくだろう。
「やめようよ、こんなの。私、あなたと植物の世話したり花冠作ったりするだけでも幸せだよ。無理に関係を進める必要なんかないよ」
「いや。君はそれでも良いかもしれないけど、わたしの気持ちはどうなるの?」
どうしてこんなことに。
「わたし、諦めないからね。大好きな君に愛の告白してもらうの」
彼女は私の左手をとり、恋人繋ぎのように指を絡めた。
「時間ならたくさんあるから」
こんな夢を見た。疲れていたのか、私は机に突っ伏した状態で目を覚ました。何だか肩が重い。変な寝方をしていて、肩が凝ったのだろうか。肩に触れると、何か布が掛けられていた。毛布かと思いきや、きれいな刺繍がしてあるサラサラした重みのある布だ。これは着物だ。だが、私は着物は持っていない。気味が悪かったが、きれいに畳み部屋の隅に置いた。だが、今日だけにおさまらず、次の日も着物が肩にかけられていた。その次の日もそのまた次の日も。そうして、畳んで部屋の隅に置いた着物は十一枚になった。これは十二単なのでは?十二単と言えば、昔のお姫様が着るものだ。もっと身近なものだと、ひなまつりのお雛様…。そこで私はハ、と気づいた。これは何者かが私を雛人形に仕立てようとしているのだ。仕立ててどうするつもりなのか。飾る?いや、もっと本来の用途が…。…そうだ、流し雛だ。厄落としのために私は雛人形に仕立てられ、川へ流されるんだろう。誰かの身代わりにされて、川へ流されるなんてごめんだ。よし、身代わりを作ろう。私はベッドの掛け布団の中に、大きめの袋に服を入れ人の形にしたものを寝かせた。これでよし。私は押し入れに隠れ、夜が更けるのを待った。眠気をこらえながら、待っているとベッドに影が近寄ってきた。この影が着物をかけていたのか。私の推測通り、影は掛け布団の膨らみに着物を優しくかけた。これで最後の一枚だ、次はどうなる?影はすうっと消え、気配はなくなった。どういうことだ、単に着物を毎晩かけに来るだけだったのか。
「なんて可愛らしいことを。さあ、かくれんぼはおしまいですよ。お迎えに上がりました、姫」
耳元で囁かれ、私は飛び退いた。続けざまに押し入れが勝手に開き、巨大な手が私を掴んだ。
こんな夢を見た。宇宙服を着た私は何かを持って荒れ果てた土地を歩いている。その何かとは大きな瓶であり、中に白の大きな花弁がついた花が入っている。これは、ガーベラだろう。何故持ち歩いているのかは分からないが、とても大事なものな気がする。その時、耳元でノイズが聞こえた。私は無意識に耳元のツマミを回し、周波数を合わせた。
『…おい、見つけられたか?』
通信の向こうの男がぶっきらぼうに言う。見つけたというのはガーベラのことだろう。
「ええ、はい。ガーベラは見つけました」
報告すると、スピーカーから安堵のため息が聞こえた。やっぱり大事なものだったらしい。
『…良かった。やはり姉さんの日記の通りだ』
通信をしていく内に、今の状況を何となく理解できた。私が降り立った場所は生前彼の姉が営んでいた植物園で、日記にあった植物園の植物を回収しに来たこと。ここは地球で、大気汚染やら酸性雨やらが重なって人が住めなくなったこと。このガーベラは地球を救うかもしれないこと。
『枯れていない花を見つけられたのは大手柄だ。今の地球の環境に適応してるガーベラを研究すれば何か分かるかもしれない。俺たちは一歩前進したんだ』
もちろん、これ一本だけでは無理だ。私たちの船に持ち帰り、研究する必要があるらしい。
『何年かかっても絶対に地球に帰ってやる。だから、お前も最後まで手伝えよな』
それでも、たった一本のガーベラは彼にとってたった一つの希望なのだ。
「もちろん。地球を花いっぱいにしましょうね」