「こんな夢を見た」から始まる小説

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こんな夢を見た。半年前に付き合い始めた無愛想な彼のことについて、共通の友人に相談をすることにした。
「ええっと…それは、あいつとあんたが本当に付き合ってるか分からなくなったと言いたいわけ?」
彼女は困惑しながら、相談事をまとめてくれた。私は頷いた。半年前にこちらから告白し、数日後にオーケーをもらった。しかし、恋人のようなことが未だに出来ていない。
「大丈夫だって。あいつも、ちゃんとあんたのこと好きだって。無愛想なだけで」
「だったら、どうして彼は手を繋いでくれないの」
「恥ずかしいだけでしょ。ただでさえあんたからの告白の後、あたしのとこに来て…」
彼女はあ、やべと自分の口を抑えた。
「告白の後、彼が来たの?」
「来たよ。でも、心配するほどのことでもないから」
彼女は誤魔化すように笑った。何だか怪しい。もしかすると私から告白されて、彼は困って彼女に相談しにきたのかもしれない。
「心配するほどのことでもないなら、教えてよ。彼は、何を相談しに来たの?」
詰め寄ると、彼女は苦笑した。
「あはは…教えるから、そう怖い顔しないでよ。あいつは、あんたからの告白をすっごく喜んでたよ。ただ…」
「ただ…?」
「その分、すっごく悩んでてね。無愛想で自分の容姿を気にしてるから、あんたに嫌われたらどうしようってずっとうじうじ言ってた」
そういうとこは似た者同士だね、と彼女は笑う。
「無愛想や容姿なんか関係なく惚れたのはあいつの優しさだけで、きっとあんたに嫌われる要素なんか無いのにさ」
ね、と同意を求められたので頷いた。当たり前だ、私は彼の不器用な優しさに惚れて告白したんだから。
「早めにオーケーすればって言ったらさ、あいつもう顔真っ赤。面白かったなあ。『付き合ったら手を繋いだり、それ以上のこともするだろ。スキンシップなんてしたら死ぬ』だって!」
やっぱり迷惑だったんだ。私の顔が暗くなったのに気づいて、彼女は慌てて付け足した。
「あ!あいつが嫌って言った訳じゃないから!単にあいつが初心なだけだから。それじゃ断ったらって言ったら、それは嫌だって。で、数日押し問答した後、あんたと付き合うってあいつ決めたんだ。あいつに、情けないから黙っておいてって言われたんだけど…口が滑っちゃった」
「そうだったんだ」
「それで、確認なんだけど。あんたは、あいつのこと好き?」
「うん」
「なら、待っててやってよ。あいつ、初心だけどあんたのこと本気で好きだからさ。不安になって、あいつのことフるなんてのはやめてね」
彼をフるなんて、有り得ない。
「でさ、これは今日の話なんだけど、あんたの前にあいつ来たんだよ」
「え?彼が来た?」
「うん。あんたのことについて、相談しに来た」
「私のこと?」
頭の中の嫌な想像を振り払い、話の続きを聞く。
「好きすぎてスキンシップが出来ないってさ。手を握るのも、心臓が壊れそうだって」
私は、安堵のため息をついた。それから、話の内容を理解し赤面した。
「今日のあんたの顔、百面相で面白いね。で、助言が欲しいって言うから…」
ガラッと音がして振り向くと、彼が立っていた。
「お、噂をすれば。どうした?」
彼女が彼に話しかけると、彼はズンズンと近寄り私の手を取ると早歩きで歩き出した。手を引っ張られながら彼女の方を振り返ると、ひらひらと手を振られた。廊下に出た彼は周りを見回し、誰もいないことを確認するとこちらに向き直った。
「……」
彼は思い詰めたような顔で、口を真一文字に結んでいる。どうしたんだろう。不安になったが先ほどの話を思い出し、彼が話すのを待つことにした。
「…………あのさ」
「何?」
「……ごめん。……俺、無愛想だしあまり格好良くないし…スキンシップも出来なくて…不安にさせたかもしれないんだけど…。その……」
そこから彼は口ごもってしまった。何も言わずに彼の言葉を待っていると、彼は意を決したように私の両手を握ってきた。
「……ちゃんと、お前のことが本気で好きなんだ!し、信じてくれ!」
彼がこんな風に直球で言ってくれるなんて。彼からの言葉を噛み締めていると、彼は不安そうに私の目を覗き込んできた。
「も、もう…嫌いになったのか…?」
うるうるとした彼の目と目が合い、胸の奥がぎゅうと締めつけられた。
「ううん、好きだよ。君の容姿も無愛想なとこも、私の告白をちゃんと受け止めて悩んでくれる優しさも、恥ずかしくてスキンシップが出来ないとこも大好き」
そう言うと、彼は動揺し赤面した。
「な、何で知って…!」
「何でだろうね?」
あいつ話しやがった、と彼はか細い声で呟く。
「ねえ、今スキンシップ出来てるよ」
呪詛を吐く彼の手を握り返すと、ビクンッと彼の肩が跳ね上がった。
「……本当だ…俺、必死だったからつい…」
「やっと、手を繋げたね」
「……そ、そうだな……」
彼も恐る恐る私の手を触る。なんだか、可愛い。
「私さ、君のペースに合わせようと思うんだ。スキンシップも関係も」
「え…?で、でも…」
「大丈夫。私も、恋人同士なんだからって少し思い詰めてたみたい。ゆっくりでいいよ」
困る彼の指に指を絡めると、またビクンッと彼の肩が跳ねた。

5/3/2026, 9:57:39 AM