こんな夢を見た。SNSを見ていると、注意喚起の呟きが目に入った。呟きの内容についてらしい。自殺や死を仄めかすような内容を呟くと、変な捨て垢から『生きる意味がないなら、代わってくれ』と返信が来る。返信を返しても返さなくても、三日以内にアカウントを乗っ取られてしまうのでそういう内容は控えるように、とのこと。
「へえ、怖いなあ。パスワードも分からないのに、アカウント乗っ取りなんてどうやってるんだろ」
「アカウントの持ち主ごと、乗っ取るんだよ」
誰かが背後から囁く。振り向いたが、誰もいない。いなくて当然だ、私は一人暮らしだからだ。
こんな夢を見た。私は行列に並んでいる。何の行列なのか分からないが、白装束を着て皆ゆらゆらと行列が進むのを待っている。
「…もしかして、ここって」
嫌な予感がして周りを見ると、頭上に抜けるような青空、自分の足元にはふわふわの白い雲。これは、いわゆる死後の世界ではないのか。
「え、私死んだの?いつの間に…」
行列が前に進み、引っ張られるように前に進む。
「何で死んだんだろう…。全然、覚えがないや」
でも、まだ死ぬつもりはなかったはずだ。だから、自殺ではない。きっと、突発的な事故や病気だろう。
「早かったなあ、まだやりたいことあったのに」
先ほどから独り言を言っているが、誰も意に介した様子はない。まるで聞こえてないみたいに。どんどん行列は前に進み、行列の先が見えてきた。
「あれ…ミキサーかな…?」
行列の先に、大きな真っ白なミキサーが鎮座していた。
「何で、ミキサー?」
時折、機械の振動音が聞こえる。透明な容器の中身はよく分からない。内側に何かが飛び散った跡があるが、形容し難い色をしていた。
「何あれ、ミキサーを使うなんて…搾りたてジュースでも配ってるのかな」
だとしても、あの形容し難い色のジュースは流石に飲めない。勧められても断ろう。行列は進んでいき、ミキサーの前から五番目に近づいた。ミキサーの近くには、全身真っ白な人たちが立っていた。髪も肌も服も、真っ白で覆われている。唯一、目の虹彩だけは血のような赤色をしていた。
「はい、次の方。あのはしごを登っていってください」
白い帽子を被った白い人に促され、最前列の白装束の男はふらふらとミキサーについたはしごを登っていく。そして一番上にたどり着くとふわりと飛び降り、ミキサーの容器の中に落ちていった。ミキサーのフタは閉まり、白い人はミキサーのスイッチを入れた。途端にゴリゴリギュリギュリと嫌な音を立て、男はミキサーの中でバラバラになった。バラバラになってもミキサーは止まらず、男だったものを細かくしていく。そして完全に液体になると、白い人はまた別のスイッチを押した。すると、今度は容器の中がぐるぐると回り始めた。ちょうど、洗濯機の脱水のようだった。中の液体はミキサーに繋がれたホースから、横のドラム缶にびちゃびちゃと落ちていく。白い人がミキサーを止めると、他の白い人たちがミキサーを開け、中の物を取り出した。取り出されたものは、赤黒くて肉塊のようだった。
「…これは、駄目です。また、悪人でしたね」
周りの白い人たちはうんうんと頷くと、ドラム缶に投げ込んだ。
「次の方、はしごへ」
そう声を掛けると、次に並んだ女が無言ではしごを登っていく。ミキサーにかけられ、また赤黒い塊が出てくる。白い人たちは首を横に振り、ドラム缶に投げ込む。それの繰り返しで、ついに私の番が来てしまった。
「次の方、はしごへどうぞ」
行きたくない。もう死んでいるとしても、体がバラバラにされるなんて嫌だ。
「次の方?」
白い人が一人近づいてきた。
「あなたの番ですよ。はしごへ登り、あの中へ」
何とか誤魔化そう。
「す、すみません。私、高所恐怖症で…。高いところに登るのを想像しただけで、足が竦んじゃって」
そう答えると帽子の白い人は首を傾げた。だがすぐに合点がいったのか、天使を思わせるような微笑みを浮かべた。
「自分で登るのが怖いんですね。ワタクシたちがあなたを抱えていきましょう」
帽子の白い人は手を差し伸べる。手を取ると他の白い人たちが体を掴み、浮かび始めた。
「あなたは善人でしょうか、悪人でしょうか。善人なら、ワタクシたちの仲間になれるのですが」
どうやら、仲間を探しているらしい。話しているうちにはしごの一番上についてしまった。
「さあここまで来れば、あとは飛び込むだけです」
その時ゴボゴボとドラム缶が泡立ち、ホースから液体がミキサーの中へ逆流し始めた。
「しまった!まだ意識があったか!」
白い人たちが逃げようとした瞬間、液体が大きな手のように持ち上がった。液体は白い人たちを一人残らず呑み込み、ミキサーの中へ沈んだ。私は慌ててミキサーのフタを閉め、大急ぎではしごを降りた。スイッチを適当に押すと、ミキサーは起動し白い人たちと液体は混ざり始めた。そうして液体がドラム缶に排出され、出てきた塊は赤黒い塊ばかりだった。
こんな夢を見た。資料によると、今日は流星群が見える夜。つまり、私が待ち望んでいた星祭りだ。星祭りに参加すると、瓶にぎっしり詰まった金平糖が貰える。この前は金平糖を自作するのに失敗し、文字通り苦汁をなめることになった。そこで今回の星祭りでは、どこから仕入れたものかを尋ねる。そして仕入れ先から作り方や必要な機械を聞き出し、船内で大量生産出来るようにするのだ。そうすれば、好きなだけ金平糖を食べることが出来る。ウキウキしながら会場に行くと、既に人々は集まっていた。食べ物などの屋台があったが、私の目的は一つ。まっすぐ広場に向かい、夜空を仕立てたようなワンピースの少女に話しかける。
「こんばんは」
「こんばんは、星祭りへようこそ!あなたにも、星の導きがありますように!」
少女は背後の箱から、金平糖が詰まった瓶を手に取り手渡した。色とりどりの小さな星が瓶の中にぎっしりと詰められ、ずっしりと重たい。
「おお…!」
感動で手を震わせていると視線を感じ、少女の怪訝そうな目と目が合った。そうだ、仕入れ先を聞かなくては。
「あー、そのすみません、この…」
突然歓声が上がりそちらを見ると、無数の星の光が夜空に流線を描き消えていく。流星群だ。気づいた少女は目を輝かせ、夜空に夢中になっている。この状況で仕入れ先を聞くなんて、野暮と言うものだろう。少し残念だが、来年の自分に任せよう。会場を歩き回っていると人々は、流星群に向かって何やら呟いている。何だろう?耳を澄ますと、自分の欲望を呪文のように唱えている。端末で調べると、この星のジンクスについての資料が出てきた。流れ星に願いを三回唱えると叶う、そう言う流星信仰があるみたいだ。
「願いが叶う、ねえ…。でも、この光は確か…」
今日の流星群に願いを叶える能力は無い。何故ならこれはスピード狂の宇宙人たちが、自慢のマシンで走り回っている光だからだ。情緒も何も無いが、事実だから仕方ない。とは言え、金平糖のお礼ぐらいはして良いだろう。
「何か、あったっけ?…あ、そうだ。あれ、使えるかも」
スピード狂たちによる流星群を背に、端末を操作すると高く掲げる。すると、星の光が会場全体に優しく降り注いだ。これは、パーティ用のエフェクトアプリだ。持て余していたが、使い道があって良かった。歓声がますます大きくなり、会場は盛り上がった。これで、金平糖のお礼は出来ただろう。
「さて、と…」
帰って、金平糖をゆっくり味わおう。重たい金平糖の瓶を落とさないよう抱きかかえると、帰路を急いだ。
こんな夢を見た。私は憧れの学校の制服に袖を通し、浮かれた気分で入学式に参加した。校長からの新入生への挨拶が終わり、一息つく。多分、これで終わりだろう。挨拶が終わった校長は壇上から降りずスーツの懐から封筒を取り出し、便箋を広げた。
「げっ…何あの枚数…」
近くの女子がうんざりしたように呟く。確かに遠くからなので分からないが、紙束のようになっている。今から、これを読み上げるつもりだろう。
「この学校に入学するにあたって、皆さんには必ず学校生活のルールを覚えていただきたいのです。これから読み上げますので、しっかりと聞いて覚えましょう。覚えられなくても、後から配る生徒手帳に書いてありますからね」
そうして校長は、便箋の内容を読み上げ始めた。覚えられるはずがない。ただでさえ、式への緊張や長い話で疲れているのに。私のまぶたは少しずつ重くなっていく。と、いきなり背中をどつかれる。驚き振り向こうとすると、背後から囁かれた。
「振り向かずに聞いて。寝たら駄目だよ。即刻、退学になるよ」
慌てて姿勢を正す。
「ここはね、品行方正であることを強制されるの。居眠りなんて重罪だよ?特に校長の前ではね」
右斜め前で、パイプ椅子の倒れる音がした。驚いてそちらに見やると、職員たちに一人の生徒が羽交い締めにされ叫んでいた。それを気にかけることなく、職員たちは体育館の外へと生徒を連れ出した。
「ほら、君もあんな風になるとこだったんだよ」
随分厳しいところに入ってしまったようだ。先ほどの騒ぎで周りの緊張感が高まり、息が詰まる。
「三年間大変だけど、卒業出来るようにお互い頑張ろうね」
そうだ、私はここに憧れて入ったんだ。ルールごときで、退学になってたまるか。背後からの囁きに私は力強く頷いた。
こんな夢を見た。気怠い体を引きずりながら、テレビの前に座る。リモコンで電源を点けると、天気予報が流れた。
「晴れ…今日も暑くなりそうだな…」
天気予報が終わると、ニュースではなく『今日の心模様』と言う番組に変わった。
「今日の心模様?こんな番組、番組表になかったけど…」
画面が切り替わると、真っ白なスタジオに真っ白なキャンバスだけが置かれていた。
「あれ…誰もいない」
しばらく待つと軽やかな音楽と共に、大量のペンキ缶と新品の刷毛を持った女性が出てきた。頭に安全ゴーグル、ペンキが付着したつなぎを着た女性だ。鼻歌を歌いながらペンキ缶を開けると、彼女はこちらを向いた。
『おはようございます。今日の心模様の時間です。実は直感で選ぶ色は自分の本心に近いそうですよ。今思いついたんですけど』
彼女は適当なことを話しながら、一人で番組を進行している。色占いの番組なんだろうか。
『さて、そろそろ絵を描きますか。テレビの前のあなた、おまたせしました。絵を描くための色を選んでください』
安全ゴーグルを着けた彼女は、カメラ越しに私を見つめている。じっと見つめ返すが、動かない。
「…もしかして、私に言ってる?」
『はい、テレビの前のあなたです。この番組は今、あなたのためだけに放送されています。あなたの好きな色は何ですか?』
「え、じゃあ…黄色?」
『黄色。なるほど』
彼女は刷毛と黄色のペンキ缶を持つと、刷毛にたっぷりとペンキを浸した。彼女は黄色くなった刷毛を真っ白なキャンバスにベチャッと叩きつけた。
『次は?』
彼女に促され、また色を選ぶ。それを五回続けたところで、彼女は振り向いた。
『ねえ、これ何に見えます?』
彼女はキャンバスが見えるように横に移動した。自分が選んだ色がべたべたと塗られている。
「うーん…この辺りが人の顔に見える…かも」
『人の顔…確かに、この辺とかそう見えますね。じゃあこの辺りは何に見えます?』
「えーと…花、かな」
『花。ありがとうございます、絵の方向性が決まりました。今から描きます、時間が押してるので』
彼女はそう言うと刷毛を握り、絵を描き始めた。刷毛とは思えないほどの細かな筆致で、ただペンキを叩きつけただけの色に意味が与えられていく。
『おまたせしました。あなたの今日の心模様は、こんな感じです。…疲れてるみたいですね』
彼女が見せたキャンバスの絵は、人の顔に花が咲いていた。だが花びらが散っており、泣いてるように見えた。
『精神的に随分疲れてるみたいです。体が怠いんじゃないですか?』
「そう言えば…」
『精神的な疲れは、肉体にも影響を及ぼします。リフレッシュのために休んではいかがですか?』
「今忙しいから、休めないよ」
『でしたら、これを持っていってください。診断書代わりです』
ニュッとテレビの画面からキャンバスが出てきた。
『これを見せれば、誰からも文句も出ません。大手を振って休めます』
言われた通り職場に行き、キャンバスを見せる。上司は目を丸くし、すんなりと有給休暇を取ることが出来た。
「今日の心模様って番組だろ。大体、何かしら追い詰められてる人のとこに来るんだよ」
だから、これを見せろと言ったのか。