「こんな夢を見た」から始まる小説

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こんな夢を見た。気怠い体を引きずりながら、テレビの前に座る。リモコンで電源を点けると、天気予報が流れた。
「晴れ…今日も暑くなりそうだな…」
天気予報が終わると、ニュースではなく『今日の心模様』と言う番組に変わった。
「今日の心模様?こんな番組、番組表になかったけど…」
画面が切り替わると、真っ白なスタジオに真っ白なキャンバスだけが置かれていた。
「あれ…誰もいない」
しばらく待つと軽やかな音楽と共に、大量のペンキ缶と新品の刷毛を持った女性が出てきた。頭に安全ゴーグル、ペンキが付着したつなぎを着た女性だ。鼻歌を歌いながらペンキ缶を開けると、彼女はこちらを向いた。
『おはようございます。今日の心模様の時間です。実は直感で選ぶ色は自分の本心に近いそうですよ。今思いついたんですけど』
彼女は適当なことを話しながら、一人で番組を進行している。色占いの番組なんだろうか。
『さて、そろそろ絵を描きますか。テレビの前のあなた、おまたせしました。絵を描くための色を選んでください』
安全ゴーグルを着けた彼女は、カメラ越しに私を見つめている。じっと見つめ返すが、動かない。
「…もしかして、私に言ってる?」
『はい、テレビの前のあなたです。この番組は今、あなたのためだけに放送されています。あなたの好きな色は何ですか?』
「え、じゃあ…黄色?」
『黄色。なるほど』
彼女は刷毛と黄色のペンキ缶を持つと、刷毛にたっぷりとペンキを浸した。彼女は黄色くなった刷毛を真っ白なキャンバスにベチャッと叩きつけた。
『次は?』
彼女に促され、また色を選ぶ。それを五回続けたところで、彼女は振り向いた。
『ねえ、これ何に見えます?』
彼女はキャンバスが見えるように横に移動した。自分が選んだ色がべたべたと塗られている。
「うーん…この辺りが人の顔に見える…かも」
『人の顔…確かに、この辺とかそう見えますね。じゃあこの辺りは何に見えます?』
「えーと…花、かな」
『花。ありがとうございます、絵の方向性が決まりました。今から描きます、時間が押してるので』
彼女はそう言うと刷毛を握り、絵を描き始めた。刷毛とは思えないほどの細かな筆致で、ただペンキを叩きつけただけの色に意味が与えられていく。
『おまたせしました。あなたの今日の心模様は、こんな感じです。…疲れてるみたいですね』
彼女が見せたキャンバスの絵は、人の顔に花が咲いていた。だが花びらが散っており、泣いてるように見えた。
『精神的に随分疲れてるみたいです。体が怠いんじゃないですか?』
「そう言えば…」
『精神的な疲れは、肉体にも影響を及ぼします。リフレッシュのために休んではいかがですか?』
「今忙しいから、休めないよ」
『でしたら、これを持っていってください。診断書代わりです』
ニュッとテレビの画面からキャンバスが出てきた。
『これを見せれば、誰からも文句も出ません。大手を振って休めます』
言われた通り職場に行き、キャンバスを見せる。上司は目を丸くし、すんなりと有給休暇を取ることが出来た。
「今日の心模様って番組だろ。大体、何かしら追い詰められてる人のとこに来るんだよ」
だから、これを見せろと言ったのか。

4/24/2026, 9:56:03 AM