こんな夢を見た。一人称視点で自分の姿は見えないが、不健康そうな男性が常に隣にいた。彼に私は見えないらしく、特に反応もないまま生活を続けている。まるで幽霊にでもなったかのようだ。特にやることもないので、彼の生活を観察することにした。彼の職場はいわゆるブラック企業らしい。待遇の悪さや長時間の残業は当たり前。それに上司からの理不尽な小言や嫌味で、彼は常に具合が悪そうだった。彼を何とか元気づけたくて、色々やったがどれも失敗に終わった。そもそも気づいてもらえないし、触ることも出来ない。ずっと隣にいるのに、何も出来ないなんて。私は歯噛みしながら彼を観察し続けた。ある日彼は上司からの嫌味を受け、会社を飛び出してしまった。どこかに行く宛もないのか、ふらふらと彷徨う。
「逃げたい」
彼は呟いた。それがきっかけになったのか、彼の口からネガティブな言葉が溢れだす。消えたい、死にたいと呪詛のように繰り返す彼は痛ましかった。私は憤慨した。彼が何をしたって言うんだ。ずっと隣で見てきたから、彼の頑張りを私は知っている。結果だってそれなりに出しているはずなのに、何故。体中の血が沸騰するほど怒っていると、私の視点はまるで怪獣のように高くなった。湧き上がる怒りのまま、彼の職場を破壊し始めた。下の方から悲鳴やサイレンが聞こえる。そう言えば、彼はどこにいるんだろう。探すと彼はいつの間にか近くの建物の屋上に避難している。無事だったのか。呆然と自分の職場が破壊されるさまを眺めている。ぷっと噴き出したかと思うと、大声で笑い始めた。咽るほど笑い、笑いが収まると彼は言った。
「ありがとう」
まるで見えているかのように、彼は私にお礼を言った。
こんな夢を見た。昼食をとり、満腹になったので横になっていた。微睡みの中でふと私は思った。そうだ、図書館へ行こう。私は着替えをし、そのまま図書館へと向かった。館内に入り、本を探す。キョロキョロとしていると、あるポスターが目に入った。
『世界の全てを知りたい方は受付まで』
そのポスターには、真っ黒な背景に白い文字でそれだけが書かれている。よく分からないが、何だか興味をひかれる文言だ。私は受付へ向かい、あのポスターについて尋ねてみた。
「あれは滅多に出てこないポスターなんですよ。運が良いですね。では、ついてきてください」
司書の後をついていくと、閉架書庫に着いた。
「この中に世界の全てを記した書籍があります」
司書は本棚の横にあるタッチパネルを素早く操作する。すると、本棚はゴゴゴ…と音を立て移動し通路が出来た。
「入らず待っててくださいね。中は危ないので」
司書は通路をスタスタと歩き、すぐに見えなくなった。それから、数分もしない内に司書は一抱えもある分厚い本を持って帰ってきた。
「これです」
司書は本の埃を軽く叩き、近くの机に置いた。
「ここで必ず読んでください。持ち出し禁止なので」
イスに座り、私は本を観察する。本は革製で、四隅に金色の金具がつけられている。栞はついていないようだ。持ち上げるが、かなり重い。これを軽々と持ってきた司書はきっと普段から鍛えているのだろう。ページに折り目が付かないように、私は読み始めた。文字を目にした瞬間、私の頭は瞬時に内容を理解した。読むのではなく、頭に情報を直接書き込まれているかのよう。面白くて、ページをめくる。大量の情報が入ってくるが、私の頭はパンクする気配はない。もっと知りたいという欲求だけが、私のめくる手を動かしている。次は宇宙の仕組みについてだ。これにはどんなことが…。
「これ以上は駄目です」
司書の声がピシャリと響き、私の手は司書の手によって押さえつけられた。
「知りすぎるのは良くないんですよ」
司書は手際よく私の手から本を抜き取った。
「知りたいことがあったらまたご利用ください」
司書は本を抱え、通路の向こうに消えた。何だか興奮が冷めて、私は司書に連れられ閉架書庫から出た。帰宅後あの本を読んだ時の興奮が蘇り、私は身悶えした。まさか、勉強嫌いな私に知識欲があるとは思わなかった。あの本が読めるのはいつなんだろう。続きが読みたくてたまらない。よし、毎日通おう。そしたら、また…。
こんな夢を見た。霊感が強すぎるために、私は日常生活に支障が出ていた。幽霊の姿や声はもちろん触られることもある。それぐらいならまだマシだったが、私ほ嗅覚や味覚ですら幽霊を感じることが出来る。ちなみに、幽霊の臭いと味はどちらも食欲をなくすものだと書いておく。五感で幽霊を感じるなんて、私以外にいないだろう。見える、聞こえるまではいい。ご飯を美味しく食べられないのは嫌だ。何とか他の人と同じ平穏な日常を取り戻さなくちゃ。困った私は、同じクラスの霊感少女に相談してみた。彼女は私をジッと見つめると、何かに気づいたのかしきりに頷いていた。
「原因分かったの?」
「もちろん。たしかにそれじゃ不便だよね。えっとね、取り敢えず眉間に何か貼ってみて」
帰宅後、彼女に言われた通りにしてみた。眉間に絆創膏を貼る。変な感じがするが、しばらく様子を見よう。それはすぐに効果が出た。そもそも気配を感じなくなったのだ。今日の夕飯は久しぶりに美味しく食べることが出来た。翌日、私はお菓子を持って彼女に報告しに行った。
「おはよう!久しぶりに幽霊を感じなかったよ。はいこれ、お礼のお菓子ね」
「ありがとう。でしょうね、だってあなたの霊感は眉間から来てるものだから」
「眉間?」
「そう、第三の眼って聞いたことある?それがガン開きになってた。閉じ方の練習しようね」
私は知らぬ間に、三つ目小僧になっていたようだ。
こんな夢を見た。私はどこかの国の戦争に参加している。だが、活躍もなく既に致命傷を受け死にかけていた。これまでか。痛む体を動かし、仰向けに転がる。どうせなら、青空を見ながら死にたい。そう思い霞む視界で妙に青い空を眺めていると、影が私の顔に落ちてきた。
「おーい、生きてますかー?」
この場に場違いなほど呑気な声が降ってきた。
「…?まだ生きてると思うんだけどなー」
誰かが覗き込んできた。目を凝らすと、場違いな格好をした女が私の頬をつついていた。女児アニメの魔女っ子のような格好をしている。サバゲー会場と間違えているんだろうか。指摘してあげたいが、声は出せそうにない。でも、つつくのはやめて欲しい。抗議の意味で女の指を力なく掴む。
「あ、生きてる!良かった!愛と平和の使者としては犠牲者は…ってあれ?」
女の呑気な声を聞きながら、私はそのまま気を失った。
「……生きてる…しかも痛くない?」
「お目覚めですか?お腹に大きな穴が開いてたので、塞いでおきましたよ!いやー、出血が酷いんですから先に治療するんでしたね!」
女はコツンと自分の頭を小突いた。軽く言っているが、瀕死だった私をここまで治すなんて。
「あんた…一体何者…」
「あたしですか?だから、愛と平和の使者ですって。ここの星やたらと死人が多いから、上司に無力化してこいって言われました」
「星?それに上司に無力化って…」
「あ、あたし宇宙人なんですよ!無益な暴力と殺戮を好まない平和な星からやって来ました!」
突然の超展開に私は頭が混乱した。
「あ!侵略しに来たわけじゃないんですよ!単にボランティアで来てるんです」
「じゃあその格好は?」
「データバンクによると愛と平和の使者と言えば、この星ではこの格好が正装なんですよ!」
どんなデータを参考にしたんだ。
「まあまあ、細かいことは後にして無力化しに行きますかね。あなたも行きます?きっと面白いですよ!」
戦場なのに面白いとは。ここで転がっているのも飽きたので、頷いた。
「じゃあ、行きますよ!」
ニコニコしながら、女は私を横抱きにして軽々と抱え歩き出した。
「ちょ、ちょっと…何でお姫様抱っこ…」
「足、怪我してるじゃないですか。治療はしましたけど、無理しちゃ駄目ですよ!」
そう言われると、ぐうの音も出ない。私たちは丸腰で戦場を歩き続けた。途中、銃撃や手榴弾が飛んできたが、女はお構いなく歩く。私たちに飛んできた銃弾はアメ玉とガム、手榴弾はポップコーンへと無力化された。
「何だこれ…アメ玉やガムになってる」
「お腹空いてるなら食べていいですよ。本物のお菓子ですから」
今は食欲はない。取り敢えず、胸ポケットにアメ玉とガムを突っ込んだ。一部始終を見ていた兵士たちは銃を取り落とし、投降した。それでも何人かはナイフを持って突っ込んできた。だが、ナイフもナイフ型のチョコに変わり戦意喪失した。
「皆さんもそれ食べていいですよ。美味しいものは元気になりますから」
急に声をかけられて兵士たちは戸惑ったように顔を見合わせる。返事は帰ってこなかったので、先に進んだ。激戦区に近づいてくると、戦車がうろついている。戦車は私たちに標準を合わせると撃ってきたが、砲弾は大きなマシュマロに変化した。
「戦車は流石にこっちも無力化しないといけませんね」
女が戦車の装甲を撫でると、甘い香りが周り一体を包んだ。チョコ菓子とロールケーキだろうか。
「うん、これで大丈夫ですね」
戦車まで無力化された兵士たちは投降してきた。もうこちらに敵意を向ける兵士はいない。これではもう戦いを続けられないだろう。女は私をゆっくり下ろすと、手をパンパンと打ち鳴らした。
「さあ、おやつの時間にしましょうか」
周りがざわついた。だが、皆空腹だったのかすぐにお菓子にかじりつき始めた。「うまい」「甘い」と小さな呟きや、鼻をすする音も聞こえてきた。
「あたし、思うんです。武力で自分たちが飢えるのって本末転倒なんですよ。武器のために飢えるくらいなら、いっそ武器なんかお菓子にしてしまえばいいんだって」
変な奴と思っていたが、何だかんだちゃんと考えてるんだな。少し感心していると女は宣言した。
「…だから、決めました。あたし、この星の武器を全てお菓子にします!そうすればきっと平和になるんですよ!」
何を言ってるんだ。戦争は武器だけの問題じゃない。
「そんな単純な話じゃ…」
「やって見ないと分かりませんよ!まずは行動!さあ、次の戦場に行きましょう!」
女に強引に手を引かれ、私はため息をついた。
こんな夢を見た。郵便受けにガコンと何かが投函された音で目が覚めた。寝ぼけ眼を擦り、郵便受けを見に行く。郵便受けを開けると、分厚い茶封筒が入っていた。表を見ると、見慣れた筆跡で『大人になった私へ』とある。これは学生時代に私が未来の私へ宛てて書いたものだ。何を書いたんだっけ。ペリペリとペーパーナイフで開け、中身を見る。三枚ほどの手紙と写真が複数枚入っていた。手紙を読むと、学生時代の私の悩み、今やってること、未来への期待が書かれていた。我ながら微笑ましいと思いつつ、写真を見る。写真は卒業アルバムに入らなかった私の写真らしい。過ぎ去った日々に思いを馳せ、感傷に浸る。こういうのも良いものだ。そして、最後の一枚になったところで違和感を覚えた。私は手紙を書いただけで写真は入れなかったはずだ。手紙を入れた後、私が封をしたのだから写真は入れていない。後から先生が入れたかと思ったが、封は私が開けるまでそのままだった。じゃあどうやって?勝手に写真が封筒の中に瞬間移動でもしたというのか。それにこの写真も変だ。校内の写真ならまだ分かるが、私の登下校時の写真だ。いつ撮ったのだろう。それ以外にも校外に私と友人が遊びに行く写真がある。気味が悪い。もっと嫌なことに気づいてしまった。この封筒、消印がない。私は今一人暮らしで、卒業後誰とも連絡を取り合っていない。だから、私の現在の住所をクラスメイトや先生が知るはずがないのだ。じゃあ、今郵便受けに直接投函してきたのは一体…?先ほどよりも温度が下がった部屋の中で私は身震いした。