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12/10/2025, 2:22:08 PM

ぬくもりの記憶(TOV)注:腐向け 昨日の続き

人肌のぬくもりを久しく感じていないな、と思う。
心臓がアレなこともあって、密着して人肌を感じられたのは人魔戦争の前までで。
隊の仲間たちとふざけて肩を組んだり、酔っ払って背負ったり背負われたり。
死人として復活してから人肌を恋しく思ったことは一度もないが、時々人のぬくもりを感じてドキリとすることはある。

つい先日も。

寒さに凍えていたら、ユーリに手の冷たさを確認された。
誰にも見えないポケットの中で。
手の甲が最初に触れて、温かい指がレイヴンの指先を探して動いて、指が少し絡んだ形でキュッと握られた。
動きが、とてもエロかった。

(こんの……天然タラシが!!)

思い出すだけで、頭に血がのぼってくる。

(俺が乙女か!!!)

両手を空中でブンブン振り回して、記憶を懸命に振り払った。

手が心地よく温かすぎて、意識せざるを得なかった。
自分から触れに行く事はあっても、あんな風に触れられる事には慣れていないので動揺した。
きっとそれだけのこと。

でも、アレクセイやドンは触れてくるな?
でも、何ともないな?あれ?
ダングレストのお姉様方も結構触れてくるな?
うん、まぁ、あれは嬉しい。
でも、何だろう、なんか違うな?

「………何やってんだ、おっさん」

ユーリの呆れた声がして、びっくりして飛び上がった。

「な、なんでもないわよ?!」
「そうかよ?」

顔が赤くなっているに違いないが、色黒で良かったと、この時ほど思ったことはない。
記憶を振り払う形のまま固まっていた両手を下ろし、ふへへと笑う。

「ついに頭がおかしくなっちまったのかと思ったぜ。幻覚でも見えてたのか?」
「まぁ、当たらずとも遠からず?」
「おい、ホントに大丈夫かよ」
「大丈夫大丈夫」

ユーリの背を、そっと押した。

眩しい生きた若人はこちらを気にせんでよろしい。
真っ直ぐ前を見て歩きなされ。
ぬくもりは生きた者同士が分け合えば良い。
自分には相応しくない。
与えないでほしい。

欲しくなりたくないから。

12/9/2025, 12:07:23 PM

凍える指先(TOV)注:腐向け

暑さには強いが、寒さに滅法弱い。
寒さにかじかむ手をポケットに突っ込み、何とか体温を上げようと、ぴょんぴょん跳ねていた。
「…おっさん、うざい」
寒さで首をマフラーに埋めたリタがジト目で睨んでくるが、動いていないと戦闘に差し支えるので許して欲しい。
「そうだ!リタっち!いつもみたいにファイアボール!ファイアボールちょうだい!」
「はぁ?」
「そしたらちょっとあったまるじゃない?!」
「バッカじゃないの」
「なんだ、おっさん、寒いのか」
涼しい顔をしたユーリが、振り向いて言った。
「寒いに決まってるでしょ!何、青年は寒くないの?」
「ああ、我慢できねぇほどでもないな」
「もー!代謝が良い若人は良いわね!おっさん冷え性だから手先凍っちゃって弓引くの大変なのよ!…サボっていい?」
「おいおい、堂々とサボり宣言かよ」
呆れた顔をしてレイヴンの隣まで下がって来たユーリだったが、いきなりレイヴンのポケットに手を突っ込んできた。
「!!!!な、なに?!!!」
「あ、嘘ついてんのかと思ったけど、ホント、おっさん体温低いのな」
手が触れて。
キュッと握られて。
ユーリの手は、ホカホカと温かかった。
(いや、絵面!!)
レイヴンは動揺した。
(いい年した男二人、同じポケットに手ぇ突っ込んでるって、おかしいっしょ!?)
焦ってポケットから両手を出し、万歳する。
勢いついでに、ユーリの手を弾き飛ばした。
「イテッ!おっさん、なにす…」
「おっさん!ジュディスちゃんに手、温っためてもらいたいな!!」
「あら、私の手はおじさまとあまり変わらないと思うわよ?」
ユーリと反対側にいたジュディスが、万歳をしているレイヴンの手にそっと触れてくれたが、体温を感じない程度には冷たかった。
その手を大事に両手で包むようにして下ろし、
「手が冷たい人は心が温かいって言うわよね」
と、目を合わせて言った。
自分と同様に冷えている手が心配だった。温めてあげられないことが悔しい。
「あら、ありがと」
「おい、おっさん、俺に喧嘩売ってんのか」
ユーリの目が半眼になる。
「あ!カロル君は子供体温で温かいんじゃない?!」
ユーリの追求から逃れるべく、レイヴンはカロルの方へ走った。
首に手を当てれば、ひゃっと叫び声があがる。
「やめてよレイヴン!冷たい!冷たいよ!」
「わははは!温か〜い」

結局、レイヴンの手を温める役目はラピードの背中に落ち着いたが、ユーリの行動による動揺で血流が良くなっていたため、手もすっかり温かくなっていた。
「わんこ、あったかいわね」
素直に背中に触れさせてくれるラピードに感謝してそう呟くと、ワフンと返事をくれた。
誤魔化すために触っているのを黙っていてやる、と、言っているみたいだった。
きっと気のせいだ。
たぶん。

12/8/2025, 1:36:10 PM

雪原の先へ(オリジナル)

僕たちは春を知らなかった。
雪原の先に春がある。
大人からそう聞かされていた。

いつか春が見たいと、そう言っていた君。

生活拠点である洞窟が、獣に襲われた。
君を庇った勇敢な友は亡くなり、君も重症を負った。
僕は洞窟の奥で震えていたので助かった。
君の事を愛していたのに、助けに行けなかった己に絶望した。
君は朦朧とした意識の中、僕の無事を知って「春、みんなで見たかったね」と囁いた。
だから、僕は彼女の手を取って励ました。
「僕が春を連れてくるよ」と。

そして、大人の静止を振り切って、僕は洞窟を飛び出した。
猛吹雪に耐え、雪原を越え、山を越え。
干し肉もなくなり、来た道もわからなくなり、もはや戻る手段もなくなった。

彼女の死を受け入れたくなかった。
自分の弱さを自覚したくなかった。
友や彼女と一緒に死ねば良かった。

春は、大人たちがついた嘘だと思っている。
こんな世界に、そんな場所などあるはずない。

涙はとうに枯れ果てた。
朦朧とした意識の中、風が少しぬるくなって、頬を優しく撫でた気がした。
遠くを見渡せる峠に出た。
目の前には、崖のような急斜面。
そして、見渡す限りの白。

(やはり、春なんてなかった)

僕は力尽きて雪の上に倒れ込んだ。
雪が優しく身体を包み込む。

(約束を破ってごめん……)

男の上に、ハラハラと粉雪が降り注ぐ。

男は二度と動かなかった。




雲の隙間から時折りのぞく光が、
大地をぼんやりと照らしていた。
遠く、彼方の地平線に、
緑があった。

春はもうすぐやってくる。

12/7/2025, 1:34:18 PM

白い吐息(オリジナル)

ある冬のこと。
僕は友人を誘ってハイキングに出かけた。
共通の友人から、彼が変わってしまったと聞いたからだ。
1年ほど前、本人と一緒に飲む機会があった。その時は仕事が激務でパワハラに巻き込まれたりして、ちょっと鬱っぽくなっているということだった。
部外者に何ができるわけもなく、何か困った事があったら言えよ、くらいの励まししかできなかったように思う。
少しの心配と後悔から気晴らしにハイキングに誘ってみたのだが。
1年ぶりに会う彼は、確かにかなり痩せていた。
顔色も真っ白で、悪い病気を疑ってしまうくらいであったが、思ったよりやつれた感じはなかった。
ポツポツと、近況を話しながら歩きだす。
あれから、やはり修羅場があったそうだ。
パワハラ上司は蒸発し、彼の負担は減り、現在は通常通りに戻っているという。
「良かったな」
心からそう言うと、彼は笑いもせず、
「ああ」
と言った。
まだ情緒が壊れているのかもしれない。
この辺りが彼が変わってしまったと周囲に思われてしまう所以なのかもしれない。
自然に癒されて少しは気晴らしになると良いのだが。
そう思っていたのだが、気が散っていたせいか、迷子になってしまった。
正直に迷った事を言い、来た道を引き返す。
日が傾き、薄暗くなってきていたので焦ったが、無事見覚えのある道まで戻れて、安堵のため息をついた。
「ごめんな、予定より少し遅くなりそうだ」
「終電までに帰れれば良いさ」
彼の寛容さがありがたかった。
山道を抜け、民家の並ぶ通りに出た頃には、すっかり日が落ちていた。
冬の夜は寒い。
一気に冷え込んで、吐く息が白くなった。
「寒くないか?」
「平気」
ダウンを着込んではいるが、汗が冷えたりすると寒くなるだろうと心配して声をかけると、そう返事が返ってきた。
違和感を抱く。
何か気になる。
何だろう。
駅までの道のりを、並んで歩く。
あれ、そういえば、
「聞いていいかわかんないんだけど、大きい病気とかはしてないよな」
「うん、病気は特にないかな」
「そ、そうか、それなら、よ、良かった」
動揺のあまり、どもってしまった。

彼の口から吐かれる息が、白く煙らなかった。

自分の息はこんなにも白いのに。
吐く息は体内と外気との差で白くなるはず。
湿度が足りないか、温度が足りないか。
しかし、体温のあがるハイキングをして、ふたりして程よく水分も取っていたのに。
どういう事だ?
あまり凝視もできず横目で伺うも、やはり全く呼気に色がない。
ゾッとした。

彼は何だ。

目が合った。

彼は、うっすらと笑った。

12/6/2025, 3:10:34 PM

消えない灯り(オリジナル)

向かいのマンションの3階角部屋。
自分の部屋から真正面に見えるそれ。
最初に気づいたのは終電で帰った日の事だった。
シャワーを浴びた後、翌日が休みのこともあって夜更かしをしていてふと窓の外を見ると、遠く、向かいのマンションの部屋の灯りがついているのが見えた。
その時は同じように夜更かしをする人間が住んでいるんだなと思っただけだったが、その後も不定期に夜中に窓を見ると、いつも灯りがついている。
もちろん厚いカーテン越しなので、中は見えない。
夜に家で仕事をする人なのだろうか。
何でいつも電気がついているんだろう。
酒を飲みながら、色々と夢想した。
気になって徹夜をした事もあるが、結局、朝までずっとついていた。
そのうち、ちょっと怖い可能性を思いついた。
中の人は灯りをつけたまま亡くなっていて、天涯孤独ゆえ誰も気づいていないとか、あるだろうか。
いやいや、さすがに隣人が気づくだろうし。
しかし、一度考え出すと悪い妄想が止まらなくなった。
居ても立っても居られなくなり、そのマンションに行ってみる事にする。
夜の10時、当該マンションに到着して、はてと思う。
どう確かめれば良いのやら。
古いマンションで、各家の呼び出しは家の前までいかないと鳴らせない仕組みのようだった。
とりあえず3階まで行き、角部屋まで来て、表札がかかって人が住んでいる事を確かめ、ええいままよと玄関チャイムを鳴らした。
少しして、がちゃりとドアが開き、どなたか知らないけれど、生きていた、と、ホッとする。
「………どなた?」
若い女性だった。
ドアチェーン越しに、こちらを訝しげに見ている。
自分が、夜中に訪問する非常識な危ないおじさんである事を一気に自覚して、一瞬で脳内が真っ白になった。
「あっ、あの、い、生きてればそれで良いんで」
「はぁ?」
「じゃ!し、失礼します!!」
あまりの恥ずかしさに飛んで帰りたくなり、文字通り飛んで帰った。

その後、近所のスーパーで彼女とばったり遭遇し、夜の闇が怖くて電気をつけっぱなしにしないと眠れないのだという事情が聞けて、消えない灯りの謎は解けたのであった。

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