月夜(オリジナル)(異世界ファンタジー)
満月が照らす夜だった。
(あいつ…本当に何やってんだ)
ラッツは宿を出て歩いていた。
何やら胸騒ぎがして、アレスを探していた。
本当は、しつこく追ってくる彼を避けていたのだが、数日前、街で彼に遭遇したユーズが、今日会う約束をすっぽかされたと言って心配していた。
あの、真面目が服を着て歩いているようなアレスが、である。
何か事情があったに違いない。
そして、ユーズが心配していたのも無理はない。
今この街では満月の夜、連続殺人鬼が現れるという。
おかげで、真夜中かつ満月の今、道には人っ子1人いない。
アレスは剣の腕は確かであるが、ただのヒトである。もしも殺人鬼が強力な魔術師や半獣であったら勝てるかどうか。
「はぁ」
ラッツはため息をついた。
全く、彼を探す義理も助ける義理もないのであるが、彼をよこした王様に悪いというか、ここで死なれると寝覚めが悪いというか。
(どうせなら、俺の知らぬところでどうにかなって欲しいもんだ)
そう、物騒な事を考えて、閉店後の明かりの消えた飲食店街を通り過ぎる。
と、左側の路地の向こうで、何やら物音がした。
(?)
ラッツは左の細い路地に入った。
通り抜けた先は、円形の広場だった。
中央に噴水があって、右手に人影がある。
フードを被った、いかにも怪しい手合いであった。
「おい」
ラッツはそう声をかけて、後悔した。
フードの男の足元に、血溜まりがあったからだ。
そして、刺殺死体。
フードの男の右手に握られた剣。
剣から放たれる黒いモヤ。
(魔剣か!)
ラッツは剣を鞘走らせた。フードの男が飛びかかってくる。
ギィン!!
重い一撃に、手が痺れた。
ラッツはかろうじて身をかわし、再度男に対峙した。
「お前がやったのか!」
男の目が、闇に爛々と赤く光っている。
正気を失って、何かに操られているようであった。
(もしかして、満月に現れる殺人鬼って、あの魔剣の仕業か?!)
操られた殺人鬼は、次なる獲物をラッツに定めたらしい。凄まじい殺気を放って飛びかかってきた。
「わっ!」
剣を絡め取って弾こうとするが、腕力負けして逆に押し込まれる。
鍔迫り合いをしながら男の顔が近づき、その顔を正面からまともに見て、ラッツは舌打ちをした。
アレスだった。
アレスはこの街に来たばかりなので噂の殺人鬼ではあり得ない。ただこの数日の間にこの剣を手にする機会があったのだろう。
「おっまえ…どこでこんなの手に入れた!!」
剣をそらして壁に激突させ、膠着から抜け出し、ラッツは叫んだ。
正気を失っているアレスは何も応えない。
「こんの…馬鹿野郎が!!」
ラッツはアレスに飛びかかった。
アレスを気絶させ、何とか魔剣をもぎ取る事に成功したラッツだったが、2人とも満身創痍だった。
アレスは正義感の強い、クソ真面目な性格だ。
剣に操られたとはいえ、民間人を手にかけた事がわかれば、かなりショックを受けるだろう。
知ったことではない。知ったことではないが。
ラッツは考え、ユーズとネオに頼る事に決めた。
ユーズに傷を治してもらい、ネオにはアレスを元の宿の寝室まで運んでもらう。
何もなかった。
そういう風にしようと決めた。
そこまでは自力で運ばなければならない。
アレスを背負う。
気を失っている大柄な男は、ずしりと重かった。
絆(914.6)
今日は30年前の入社同期5人で同期会でした。
若い頃はキャラが違くて合わないと思っていた人も、今となっては懐かしい仲間で、ずっと元気でいて欲しい大事な人で。
この年で元気で集まれる事が、とても嬉しくて。
みんな色々あるけど頑張ってる。
頑張れ。
頑張れ。
私も頑張れ。
楽しかったなぁ。
家に帰る電車の中で泣いてます。
何の涙だろ。謎。
歳をとると涙もろくなっていかんですなぁ。
たまには(オリジナル)(秘密の手紙続編)
「かずくんさ、2日くらいこの家離れても平気?」
夜の食事の席で、聡が言った。
「旅行にでも行くのか?」
幽霊のかずやは宙を浮遊しながら問うた。
「うん。九州の温泉に行こうと思って。かずくんはお仕事があるでしょ。この家に縛られてるなら行けないかなって」
「ん?それは留守番って話じゃなくて、一緒に行けるかって聞いてる?」
「そう」
かずやは嬉しそうに飛び上がった。
「行く!行く!確かにこの仕事、誰かの家を拠点にしろとは言われたけど、俺、地縛霊じゃないし。仕事が入っても幽霊には距離とかあんまり関係ないから平気。俺、新幹線より速く飛べるんだぜ」
「そうなんだ。すごいね」
「いつ行く?」
「旅館これから取るからちょっと先になるけど」
「なんで九州?」
「僕がハマってた夏期のロボットアニメあったでしょ。あれの聖地巡礼。コラボカフェとかイベントあるらしいから、どうせなら近くの温泉に泊まりたいなって思って」
かずやは腹を抱えて笑った。
「予想を裏切らない聡!面白れぇ!好き!」
「はいはい、ありがと。かずやにも付き合ってもらうからね」
「了解了解。俺もあのアニメ好きだったから大いに賛成」
楽しみだなぁと目を細めるかずやを見て、聡はホッとした。
最近、最期の手紙配達員としての仕事で考える事があったらしく、元気がなかった。
「幽霊でも胸がモヤついたりギュッとなったりするんだな」とか「綺麗な恋でも、相手がいる事だから成就するとは限らない。当たり前だけど切ないな」とか「なんでアレで成仏できるのかわからない」とか、ボソボソと吐き出していた。
守秘義務があってもちろん詳しくは言えないが、口に出したくなるほど苦しいのだと思う。
たまには気晴らしに遠出をするのも悪くない。
かずやも気に入っていたあのアニメ関連であれば楽しんでくれるだろう。
そう思っての提案であった。
的中である。
(良かった)
聡はかずやの晴れた顔を見て、口元をほころばせた。
大好きな君に(オリジナル)(秘密の手紙続編)
俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしている。
今日の依頼人は20代後半の綺麗な人だった。
憂い顔に儚い笑みを浮かべ、手紙の内容をずいぶんと悩んでいたが、
「よし」
と、心を決めたら早かった。
スマホに音声をふきこむ場面に立ち会わなかったが、終わったと呼ばれて行くと、
「彼が私の家に着く前に渡してもらえますか?」
と託された。
専用スマホで位置情報を確認すると、届け先は動いていて、まさに依頼人の家に向かっているようであった。
「い、行ってきます!」
俺はすぐさま手紙を届けに飛んだ。
依頼人の家に到着する直前の曲がり角で、なんとか彼に追いついた。
急に目の前に現れた俺にびっくりしたようだったが、俺を無視して避けて通ろうとするので、
「ま、待ってください。お届け物です」
と、封筒を差し出した。
「はぁ?何だお前」
不審者を見る目で見られて、焦った。依頼が達成できないのは困る。
「これ!これ見てください!」
封筒をくるりと回して差出人を見せた。
彼は名前を目にして、ハッと息を飲んだ。
「何だこれ!お前、あいつの何なんだ!」
俺の返事を待たずに彼は俺の手から手紙を奪い取ると、手紙の封を破いた。
封筒が消え、少し掠れたハスキーな声が、彼に届く。
「大好きな君に、伝えたかったことと、伝えられなかったことがあるんだ」
「あゆむ…」
彼は涙を堪えるように、空を仰いで依頼人の名前を呟いた。
「伝えたかったのは、君を愛してるってこと。友達としての愛じゃないよ。君のためなら何でもしてあげたかったし、幸せにしたかった。もっと具体的に赤裸々に言っちゃうと、肉欲込みの愛だった」
「俺も…」
「伝えられなかったのは、私が女じゃないってこと」
「えっ?」
俺と彼の声が重なった。
ビシッと空間がひび割れたような気がした。
涙目で空を見上げていた男が、おそらく予想だにしていなかったであろう告白に固まっている。
俺もだ。
「私は普通に男なんだ。女顔だから良く女に間違われるし、女性の服や化粧は好きで良く真似ていたし、髭も永久脱毛してて。無理に女装してたわけじゃないんだけど。誤解させたよね。ずっと黙っててごめん」
男は涙を引っ込め、青ざめてフルフルと震えていた。
「君も私のことを好きでいてくれたのは知ってる。けれど、男だってわかったらどうなるかわからなかったから、ずっと言えなかった。家に来たらわかっちゃうことだから自分の口から言いたかったんだ。ごめんね。そして、ずっとありがとう。私はあなたと過ごした日々、幸せでした」
手紙が終わると同時に、依頼人の家から、黒い喪服を着た50代くらいの女性が出てきた。
手紙の音声は幽霊と宛名人にしか聞こえないので、彼女が出てきたのは偶然だ。
母親だろうか。泣き腫らした目をこちらに向けて、通行人なのか客人なのか逡巡している様子だった。
俺は役目を終えて透明化している。
男はポツンとひとり残されて、黒いスーツに黒ネクタイの格好でフラフラと歩き出し。
彼女の前を、無言で通り過ぎた。
「…これで良かったんですか」
俺は依頼人の元に戻り、尋ねた。
彼は寂しそうに笑って、
「母に、私は男が好きだって言えてなかったから。ショック受けると可哀想かなって思って。それは阻止できたから良かったかな。それに、彼に黙ってた罪悪感もあったし…仕方ないよ」
俺は胸がキュッとなった。
色々とままならない。
「ありがとうね」
彼はそんな悲しい結末ながらも、未練は断てたようで、薄く溶けて、消えた。
俺の胸に、苦しさを残して。
ひなまつり(オリジナル)
ひな祭りには家族総出で7段の雛壇を組み立てる。
おばあちゃんがくれたものらしい。
古風で立派な雛人形達は嵩張るので、普段は分解して大事にしまわれている。
箱から出す時、人形の頭と胴が繋がっておらず、子供心にとても不気味だった。
それでも、着せ替え人形のようで楽しい。
お父さんは7段の骨組みを、お母さんと妹と私は、ワイワイ言いながら人形や飾りを組み立てた。
いつも出来上がると満足して、あまりかまわなくなるのだけれど。
今日は目についた。
幼い妹とのかくれんぼ中、雛壇の後ろのスペースに隠れられるのではと思ったのだ。
雛壇の後ろを見ると、子供がかろうじて通り抜けられるくらいの隙間があった。
親に怒られるかもと思い、ちょっと周りを見回して、えいやっと中に潜り込んだ。
雛壇には赤い布が敷かれているので、中は真っ赤だった。
なんだかとても不思議な空間だ。
赤い光が私を照らし、私も赤くなる。
私は楽しくなって、クスクスと笑った。
入り口から姿が見えないよう、奥に身を押し込み、丸くなる。
「もーいーよー!」
別室にいる妹に聞こえるように叫んだ。
「お姉ちゃーん!」
私を探す妹の声が、徐々に近づいてくる。かくれんぼなので返事なんてしないのに、ずっと呼んでいて可笑しかった。
やがて、雛壇のある部屋に、妹の足音が入ってくる。
私は見つかるまいと、一層息をひそめた。
視線をチラリと前に向ける。
すると、雛壇の奥まで身をひそめて目の前にはこれ以上隙間などないはずなのに、なぜか、もっと進める空間があった。
妹に見つからないようさらに前に進もうとして、しかし動いたら逆に見つかるかもしれないと思いなおしてその場にとどまった。
「お姉ちゃん?」
後ろの方から声がして、ああ見つかった、と思った。
身体を起こそうとするが、どういうわけか、びくとも動かない。
(え?何で?)
焦るものの、動くのは両腕だけ。
私は丸くなったまま、腕を妹の方に精一杯伸ばした。
「お姉ちゃん、いるの?」
「いるよ!ここにいるよ!動けない!助けて!」
妹の疑問の声。まさか見えないはずがない。
私は恐ろしくなって、腕をブンブン振り回した。
「ママー!」
妹はパタパタと足音をたてて部屋を出て行った。
助けを呼びに行ってくれたのか。
それとも。
不安に押しつぶされそうになった時、お母さんの声が聞こえてきた。
「まゆ?」
「お母さん!出られなくなっちゃった!助けて」
安堵のため、私は泣き出していた。
「え?まゆ、いるの?本当に?」
「いるよ!!お母さん!助けて!」
雛壇の隙間から、おそるおそる手が差し込まれた。
その手が私の手に触れ、ぎゅっと握られる。
「まゆ!」
「まゆ!しっかりしろ!まゆ!」
お母さんとお父さんの必死な声がして、腕が取れるんじゃないかというくらいぎゅうぎゅう引っ張られて。いつしか、私の身体はスポンと音をたてて、雛壇から外へ飛び出していた。
世界が白く光っていて眩しい。
私はゆっくりと目を開けた。
そこは病室だった。
私は布団に寝ていて、両手を父と母に握られていた。
「え?」
「まゆ!!」
ふたりがガバリと私に覆い被さってくる。
両親は泣いていた。
戸建ての2階子供部屋の窓から外の屋根に出て、足を滑らせて落ちたらしい。
今日まで意識不明だったが、妹と両親の声かけで現世に戻ってくることができた。
両親は涙を流して喜んでくれたが、その後、屋根に出た事を散々叱られた。
医者と両親が病室を出て行ったあと、妹が残っていたので声をかけた。
「きみちゃんもありがとね」
妹は椅子に座って、届かない足をブラブラさせながら、にっこりと笑った。
「かくれんぼ、楽しかったね」
今日はひなまつり。