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4/17/2026, 2:16:11 PM

桜散る(オリジナル)

ひらひらと舞い散る桜を眺めていると、思い出される光景がある。
桜並木の続く公園。
前を、妻が歩いている。
楽しそうに。
スカートをひらめかせて。
僕の手には犬の手綱。
当時飼っていた、タロと言う名の柴犬だ。
時々こっちを見ながら、とっとこ前を歩いている。
笑い声。
僕と彼女の。
「桜は散り始めが一番好き」
彼女が、笑いながら言う。
「花吹雪、とても綺麗よね」
彼女の手が、僕の頭に伸びて。
「頭に花びらついてるよ」
ほら、と、つまんだ花びらを見せてくれた。
「ありがとう」
男は頭に花なんてのせるのは恥ずかしい時代だった。
僕は礼を言った。
幸せな。
幸せな記憶だ。

あれから60年。
妻も、タロも、もういない。

けれど。
幸せな記憶はまだ鮮明に、僕の頭に残っていて。
タロが虹の橋を渡る前、最後にカートに乗せて桜を見に来れたこと。
妻が天に召される前、最後に手を繋ぎながらこの桜並木の下を歩けたこと。
悲しくて胸いっぱいで泣きそうになるけれど、それでもやっぱりどれも、幸せな記憶なんだ。

桜並木はすっかり老木になってしまったけれど、昔を思い返せるほどにはそのままで。
僕は年老いて、すっかり衰えた足で、前に進む。
あと何度こうして、幸せな記憶をなぞる事ができるだろうか。

桜は散る。
今年も春が終わる。
僕は頭に桜の花びらをのせて家に帰り着く。
そして、その花びらを、妻とタロの遺影に供えた。
今日は僕の誕生日。
今年も生きた。
「また来年」
ひとりは寂しいけれど、生きるも死ぬも幸せな結末にしよう。
そう決めている。
写真の妻とタロが、微笑みかけてくれた気がした。

4/16/2026, 1:30:20 PM

夢見る心(オリジナル)

友達と飲んでいた。
趣味の合う、昔からの友人だ。
お互い推しがいて、推し活を楽しんでいる。
「今度の舞台、チケット5列目だったの!マジ目があったらどうしよう」
「良かったじゃん」
「良いけど良くない。推しは近くで見たいけど、こっちの存在は認識されたくないんよ」
「うん。まぁ、わかる」
近況報告に話題を転じる。
「最近どうよ」
「どうよ、とは?」
「男はどうよ」
「推ししか勝たん!推しは夢。生身の身近なオスは現実。全く食指が動かない。あ、でもこの間、食の趣味合いそうな男子いて、今度一緒にご飯行くよ」
「マジか!春!」
「いやいや。1日10食限定の幻の定食狙いで行くだけだから。食べられるといいなぁ」
うっとりとした顔で、おそらく男子でなく限定食を思い浮かべている友に、私は言った。
「ねぇ、まだ若いのに枯れてない?夢、小っさくない?もっとでっかい夢見てワクワクしても良くない?!」
それを聞いた彼女はキョトンとした。
「夢叶わないのってストレスじゃん。神頼みな大きすぎる夢はただの妄想だし。私は分相応な、うっかり叶う事のありそうな夢を見て喜びを積み重ねていきたいんだ。その方が精神衛生上良いでしょ」
「そういうもん?」
「そういうもん」
友はにっこり微笑んだ。
「ちなみに今一番の夢は、佐藤が私にプリンアラモードのてっぺんにあるさくらんぼをくれる事かな」
「ただのお願いじゃんもー」
私は笑って、彼女のささやかな夢を叶えてあげたのであった。

4/15/2026, 12:03:26 PM

届かぬ想い(914.6)

「あなたのためなのよ」
が、全く心に響かない。

特に、職場で言われるこの言葉。
本当に相手のためを想って言っている場合もあれば、ただ相手にやらせたくて言っている場合もあるし、嫌なお願いをする自分を励ます意味で、相手のためなのだと自分に言い聞かせている場合もあると思う。
自覚した己の傾向としては、最後の「自分に言い聞かせてる」パターンが多いので、余計に他人から言われるこの言葉が信用できない。

また、あなたのためと、性格や行動を変えた方が良いとアドバイスされる事もあるが、あまり聞かない。
それは、発言者の理想を他人に押しつけているだけであって、多数意見かもしれないけれど、直さないと絶対ダメというものでもないと思うからだ。
他人の言いなりになるのは面白くないし、納得できない要求は断固拒否。

真に他人を想う気持ちも、私のように捻くれている人間には素直に伝わらないのよなぁ。

届かぬ想いはあります。

4/14/2026, 2:51:00 PM

神様へ(914.6)

神様なんて本当にいるのかな。
アッラーは神様なのかな。
何をしてくれるのかな。
イエスは始祖であって神じゃないよな。
キリスト教は何を信仰しているんだろう。
仏教は神じゃないよな。
八百万の神は何をしたのかな。
何をしてくれるのかな。
神様は恵みや利益をもたらすもの?
死後の世界を肯定するもの?

神道は「教」ではなく「道」である。
Xで流れてきたポストにハッとなった。
ほんまや。
「道」への想いや信仰ならば、少しわかる。
日本だなぁ。

4/13/2026, 12:37:38 PM

快晴(オリジナル)(書き直しました)

子供の頃、学校でクラスメイト全員の一番を決めた事がある。「かけっこ一番」とか「読書一番」など。
その延長で、皆を天気で分けようという事があった。
晴れは明るい人。
曇りは物静か。
雨は大人しくて優しい人。
台風は影響力のある人。
雷はカリスマ。
雪はクール美人。
雹は珍しい。
月夜はミステリアス。
天気か?というものもあったが、おおむねそんな感じで盛り上がった。
私は快晴だった。
裏表なく、わかりやすく、明るく素直という意味らしい。
子供心に反発を覚えたものだ。
誰が私の事を真に理解していると言えるのか。
隠し事のない人などいない。
表に出ている自分だけが本当の自分ではない。
快晴はわかりやすいのではなく、皆、太陽光線に目を焼かれて、よく見えていないのだと。

その証拠に、私は誰もが想像もしなかったであろう犯罪行為に手を染めた。
きっとテレビ報道であの頃の同級生達が取材を受けて「明るく素直な、快晴みたいな子でした」となるんだろうなと思うと、胸がスッとした。
容易く人を理解した気になる人々に報いを。

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